この気持ちは誰にも譲れない。 ◆夜兎族・神楽兄設定沖田、沖新◆ から、と軽い音がして障子が開けられた。 部屋の入り口に背を向けて座っている沖田には、入ってきたのが誰かは見えない。 けれど、ここへ向かってくる足取りからそれが誰かは分かっていた。 「うわ、暗ッ。沖田さん明かり点けましょうよ。目、悪くなりますよ」 「……何の用でィ」 「用はないんですけどね」 なら出てけ、と言おうとしたのに、すぐ後ろに座られて思わず黙ってしまった。 背中合わせに座ったらしい。背中の真ん中辺りが僅かに暖かい。 誰の顔も見たくない気分だったのに、ただそれだけの事に何も言えなくなってしまう。 「どこにも行きませんからね」 唐突に、新八がそう口にした。 何て返せばいいのか分からずに黙り込んでいると、更に続けて言われる。 「僕はどこにも行きませんから。沖田さんが嫌がっても、絶対一緒にいますから。せいぜい覚悟してください」 「……こりゃまた、熱烈な告白だねィ」 「そういう僕を好きになったんですから、諦めてくださいよ」 「頼もしいこって」 ふ、と笑えば背中合わせの新八も笑ったようで、空気が揺らいだ。 驚かなかったと言えば嘘になる。 自分の体に流れる血の事、実の父親に殺気を向けた過去、近藤に会う前に辿っていた道筋。 驚き、迷った。 このままここに居てもいいのか。 自分はいつかまた、大切な人たちに刃を向けるのではないか。 そんな考えが頭を過ぎり、その考えに至ってしまった自身にショックを受けた。 「万が一にも沖田さんが沖田さんらしくなくなるようなことになったら、殴ってあげますから」 「呪いを解くにはフツー、キスの一つもするんじゃねェか?」 「姉上譲りの鉄拳は効果抜群ですよ?」 「……気をツケマス」 「何でカタコトなんですか」 ……たとえば。 例えば、今立っている場所が明日なくなるのだとしても。 それで揺らぐのは、俺自身じゃない。俺は、そんな事じゃ変わらない。 俺の居場所は、立場や職種やそんなものじゃなくて。 尊敬している人、認めている人、競っている人、……大切に想う、人。 そんな人々があるから、今の自分がいるのだと。 「……俺も」 「え?」 「俺も、お前ェを誰かに譲る気なんざ、これっぽちもねえや」 それが、この身に流れる血であろうとも。 呟いて振り向くと、新八の背中に縋るように抱きついた。 この温もりだけはどうしても手放せない。 泣きたいような気分がこみ上げてきて首筋に顔を埋めても、新八は何も言わなかった。 何もかもをなくしても、この気持ちだけは。 END |
ブツ切りっぽくてすいませ。 沖田が自分に流れる血と過去の話を知った直後くらいな。 沖新は譲れない。 2008/02/23 (UPDATE.2008/6/19) |