夢で逢いましょう?(新八)



 夢に誰かが出て来た場合、その人の夢にも自分がお邪魔しているのだ、と。
 そんな話を聞かせてくれたのは、誰で、いつだっただろうか。

「……こんな事言ったら、出演料寄越せとか言い出しそうだけど」

 あの人のことだから、と呟き苦笑する。
 誰が教えてくれた逸話かは忘れてしまったけれど、本当なら少し面白いのにな、と思う。
 会いたいんです、と零す代わりに。同じ月を見ていなくとも構わないから、せめて。

「夢にぐらいは、出て来て下さいよ」

 いっつも強引なんだから、こういう時にそのふてぶてしさを発揮しなくてどうすんですか。
 むすりとした顔で一人ごち、布団に潜り込んだ。
 夢でくらいは、せめて。
 そんな事を思ってしまう自身に苦笑しながら、ゆるりと眠りの淵に落ちた。









   夢だけじゃ足りない(沖田)


 目覚めた時、珍しく惚けてしまったのは。夢の中に、彼が出て来たからだ。
 他愛ない話をして、笑って、別れ際にぽつりと。
 告げられた、言葉は。

「あー…ビビった」

 ぐしゃり、頭をかき乱して呟く。
 夢とは言え、その表情に、声音に、存在感に、どきりとしたのだ。まして夢の中での自分は、それが夢だとは思っていなかったのだから尚の事。

 会いたい、と衒いなく思う。
 会って、顔を見て、声を聞いて。単純な事の筈なのに、今はそれに届かない。
 夢に見るまで、なんて自分には無縁な事だと思っていたのに。現実は面白いほどに予想を裏切って、しかも裏切りの主が自分自身だというのだから救いもない。それなのに、不快な気分はなかった。

「片付いたら、いの一番に行ってやらァ」

 覚悟してろよ、なんて聞かせる相手は目の前にいないのにニヤリと笑いながら言って。
 忌々しい仕事をさっさと片付けてやろうと、ゆらりと立ち上がった。

 

 


2007/11/10・11ブログ小話
(UPDATE・07/12/10)
長期仕事で江戸を離れている沖田と新八で。
沖新はこういう対になるような話をよく思いつきます。

 

 

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