この指を浚って


◆沖新・新八ハピバ!!◆

 畳に転がっている銀時に上掛けをし、神楽を何とかかんとか起こして(それでも半分以上眠ってはいたが)姉に預けた。流石に女の子をゴロ寝させておくわけにはいかないので。
 むにゃむにゃと目をこすりながらもおやすみ、とちゃんと言ってくれたのが嬉しかった。
 妙に手を引かれて歩く様子は、姉妹のように見えて微笑ましい。
 振り向けば銀時は鼾をかいて寝入っている。起こしたが無駄だったので、ここで寝かせておくことにしたのだ。

「……ありがとう、ございます」

 ぽつり、言ってから部屋の明かりを消した。
 二人が何故ここにいるのかと言えば、新八の誕生祝いをしたからだ。
 奮発したご馳走に、ケーキに、プレゼント。
 後片付けをしたのは主賓であるはずの新八だったが、祝ってもらえただけで充分だった。
 廊下を歩き、自室へ向かう。

 辿り着いた部屋の明かりを点けて、真ん中辺りに座り込んだ。
 布団をしかないとな、と思ったのだけれど、もう少しだけ今日という日の余韻に浸っていたかった。
 もう、あと10分程で今日が終わる。1年に1度の、特別な日が。
 誕生日が特別だと思えるなんて、どれだけ幸せなことだろうか。

「で、いつまでそこに立ってるんですか」

 声を投げたのは、窓へ向けて。
 ややあってから、そろりと窓が開かれた。

「こんばんわ、沖田さん」
「気づいてたんですかィ」
「もう夜も遅いですけど、夜這いなら受け付けませんよ。今日は姉上も銀さんも神楽ちゃんもいますから」
「誰もいなきゃ、受け付けてくれたのかィ」
「考えるくらいなら」

 軽口を叩きながら窓へ向かう。
 外へ立った沖田は、何だかやけに所在なげに見えた。
 おそらくは仕事帰りなのだろう。夏や祭りに浮かれるのは一般庶民だけではなく、過激派も同じらしいので。

「……新八ィ」
「なんですか」

 すい、と手が伸ばされる。
 その手が躊躇いがちに新八の指を握った。
 まるで壊れ物を扱うかのような、沖田にしてみればひどくらしくない触れ方だった。
 どうしたのかと思う間に、掴まれた指を持ち上げられる。

「このまま浚っていきてェ」

 呟いた沖田が顔を俯けて、新八の指に口付ける。
 奇しくもそれが、左手の薬指だったりして。
 多分、偶然じゃなく、意図してその指を選んだのだろう。
 意外と、ロマンチストってやつかも?
 考えて、少し笑う。

 沖田がらしくもない様子を見せているのは、自惚れでなければ自分の誕生日を祝えなかったからで。
 それは仕事柄仕方のないことだと重々承知しているし理解もしているし、新八がそういう覚悟をしている事を沖田自身も知っている筈だ。
 分かっていて、それでも尚悔しいのだ。

「2泊3日くらいで、ちゃんと計画も立ててあるなら」

 言えば、顔を上げた沖田がきょとんと目を丸くした。
 ああ、なんて無防備な顔だろう。
 ダメじゃないですか、一般人にそんな顔晒しちゃ。
 思うけれど、心を預けられているからこそ見せてくれる表情に、嬉しくなる。

 ねえ沖田さん。
 虚勢でも我慢でも見栄でもなく、今日こうやって貴方が来てくれたことに、僕の指を握ってくれたことに、僕は充分救われた。嬉しいって思えた。
 だから、届かなかった時間を欲しがったりしなくていいんです。

「それなら、浚われてあげてもいいです」
「も、ちろん。じゃあ、考えて、浚いにきまさァ!」
「お待ちしてます」

 勢い込んで言う沖田に、笑顔を向けて。
 浚われるのを待つ、なんてまるで童話か何かのようだと思った。

 知らないでしょう。
 貴方がこの指に与えてくれるぬくもりだけで、共に過ごせなかった時間までをも埋められていくような心地になっている、なんてこと。
 いつか、どこかで、それを教えたら。
 そんな日が来たら、貴方はどんな顔をしてくれるんだろう。


END


 


更新できなさそうなのでここでハピバー!!
おめでとうございます、おめでとうございます。
魅惑のメガネっ子の生誕記念日でございますよ皆々様方!
カウントダウンチャットにも参加させて頂いたし、幸せだー♪
2008/8/12


(UPDATE/2009.4.4)

 

 

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