日直ってやっぱり面倒だなぁ、なんて考えながら廊下を歩く。
 何をしてきたかというと、そう大したことでもなく教師からノートを集めて持ってこいという指示を受けただけなのだが。
 昼休みの今は、あちらこちらから話し声や、時に笑い声などが聞こえてきてどことなく全体的に浮き足立っているように感じる。
 お腹すいたなあ、早く教室戻ろう。
 やや早足で教室へ向かい、がらりとドアを開ければ。

「……あれ」

 思わずそんな間の抜けた声を洩らしてしまった。
 理由は、教室の人数が極端に減っていたから。そうして消えている人間が、自分が親しくしている人ばかりだったから、だ。
 今日は天気がいい。陽射しは柔らかく、穏やかな風が吹いている。
 おそらくは天気がいいから、と外へ行ったのだろう。
 別に待ってて欲しい、とまでは言わないけれど、せめて伝言を残していくとかしてほしかったなあ、なんて思いながら自分の机に向かいカバンから弁当を出した。
 廊下に出た新八は、少し迷ってから屋上に向かうことにした。
 誰かいれば合流させてもらえばいいし、いなかったら一人で食べればいい。
 歩きながらふと見上げた窓の外には、心地良い程に晴れ渡った空が広がっていた。

「いい天気だなあ」




 少し重たい屋上へと続くドアを開けたが、果たしてそこには誰もいなかった。
 階段の途中辺りで静か過ぎることに気づいていたから、ハズレだろうとは思っていたのだけれど。
 3Z面子が揃うと、何故だかいつも騒がしいのだ。決して嫌いではないけれど、それで判断されてしまうのもどうなのかなあ、と思ったりはする。
 目的の面子は見当たらなかったが探し回っていては時間がなくなってしまうので、このままここで一人昼食をとることにした。
 屋上に足を踏み入れるのは初めての事じゃない。だが、誰もいないせいかやけに広いように感じられた。

「皆中庭かな……」

 呟き、騒ぎになってなきゃいいけど、と考える。
 だがその端から3Zの面子で騒ぎにならない方がおかしいか、とすぐさま思い直した。
 どれだか人様や常識からはみ出していようとも、それはそれで個性。というか毒されたのか否か、新八は何だかんだで自分のクラスが好きだったから今さら騒いでいることぐらいは何とも思わないのだが。

 弁当の包みを解き、蓋を開け、いただきますと手を合わせた、その時だった。
 不意に影が出来て、何事かと顔を上げる羽目になった。
 目の前に、足。すいと視線を上げれば、人が立っていた。新八を見下ろすように。
 逆行になっていて顔が見えない。
 誰だか分からないが、服装から男子生徒だということだけが知れた。

「僕に何か用ですか?」

 問うたが、相手は返事のないまましゃがみ込んできた。
 同じ目線になり、目が合う。
 黒髪、左目に眼帯。見据えてくる目付きは、お世辞にも良いとは言えない…むしろ、悪い。
 直接話をしたことはないが、新八は相手を知っていた。
 高杉晋助。
 所謂不良、ということで名を馳せている人物だ。
 けれどあの3Zに在籍しているだけあって、新八の度胸はなかなかに据わっている。鋭い眼光に晒されても、怯むことはなかった。
 しばらく睨みあうように視線を合わせていたが、やがてそれは高杉の方から逸らされた。
 というより、高杉の目が向けられている場所というのが。

「あの……?」

 思わず声をもらしたが、その先の言葉に詰まる。
 だって、何を、どう言えと。
 まさかあの悪名高く不穏な噂が色々と流れている人物が目の前にいて、更に彼が視線を注いでいるのが。
 自分の手にある弁当箱、だなんて。
 一瞬見間違いかとも思った、いやそう思いたかったが、高杉の目はまごうことなく新八の手にする弁当に注がれている。
 高杉に対する怯えや恐怖はなかったが、この状況でのうのうと食事をするのは無理である。
 間近でこうも見られていては落ち着かないことこの上ない。

「お腹空いてるんです、か……?」

 なんなんだこの人、と思いながらそう聞けば、ややあって頷きが返された。
 ゆすりかカツアゲか、とも思ったが高杉は口を開こうとしない。どちらかであったなら、屈しない自信があるのに。
 やがて根負けしたのは新八の方だった。

「半分、食べますか」

 疑問系でないのは、返される答えが分かりきっていたからだ。
 クラスメイトのお陰で、何を考えているのかイマイチ分からない人との接し方は大分鍛えられている。そのスキルアップは喜ぶべきか否か、些か疑問に感じるところではあったが。
 人間何にでも慣れるもんだなぁ。適応力って凄いよなあ。
 ……なんて、少し虚しく考えてみたりして。

「……貰ってやる」

 間を置いて口を開いた高杉の、その偉そうな物言いにも。
 新八はただ、苦笑しただけだった。


END

 

 

高杉ハピバ&銀部屋設置2周年記念!
というわけで3Zです。ハピバとか言いながら全然祝う話ではないですが。
2006年の今日に銀部屋は独立したのでした。
……2年経つのにあんまり増えてはいない気もしますがっ。
これからもマイペースにやっていきますので、宜しくお願い致します。


UPDATE/2008.08.10(高杉ハピバ!)

 

 

 

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