疾走する群青



「それじゃ、また」


 軽い言葉で逃げられた。触れ損ねた指を忌々しく思い、つい舌打ちをした。
 見誤ったことに気付いた時には、もう遅いのに。
 調子が狂わされるのは、あまりにも普通だからだ。
 声も、表情も、動作も、性格も、容姿も。どれもこれもがありふれていて、だからこそ惑わされる。
 真夏の逃げ水のように、触れたと思えた瞬間にするりと躱されている。
 普通であるからこそ、異質なもの。
 器用なようには到底見えないし、本人もそれは認めていた。
 それなのに、掴めない。その腕も、心も。
 それが、悔しい。

「…覚悟しろィ」

 声が届かないことなど百も承知で、呟いた。




沖→新。

 

 


Web拍手掲載期間→2007.4.10〜2007.5.26

 

 

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