さくらさくら


◆銀・少年とくろ。(私的捏造高新過去話)設定で沖田と新八◆


 何してんだィ、と声をかけたのは、単に見知った顔だったからだ。
 買い物袋片手に何をするでもなく突っ立っていたからどうしたのかというのが半分。
 もう半分は、退屈凌ぎくらいにはなるかという程度の感覚で。

「桜が、咲き始めたなあって」

 ぽつり、言葉が返される。
 それは彼の少年にしては珍しい、独り言のような応えだった。
 いつもなら、相手の顔を真っ直ぐに見返して軽く会釈をし挨拶をするのが彼…志村新八だった筈なのに。
 調子でも悪いのかと顔色を伺えば、新八の視線はちらほらと綻び始めた桜に注がれていた。
 桜は一分か、一分半咲きという程度で。つまりは殆ど咲いていないに等しいもので、枝と蕾ばかりのそれは見惚れるには程遠い景観だった。
 けれど、新八は真っ直ぐに桜を見上げている。
 いや、眼差しは桜に注がれているものの、意識はどこか遠くに馳せられているような。
 遠い日に、遠い場所に、遠い人に、思いを馳せているような、そんな表情だった。

「桜は嫌いですかィ?」
「え?」

 沖田の問いに、新八が驚いたように顔を向けてきた。
 まあるく見開かれた目は、まさか話しかけてくるとは思わなかった、とでも言いたげで。
 ……何だか、それが面白くなかった。

「あまり嬉しそうじゃねーなあ、と思ってよ」
「そう、見えますか?」
「見えるねェ」

 言及すれば、新八は苦笑する。
 そうしてまたすい、と視線を桜に向けた。

「嫌いじゃないんですけどね。……椿の方が、好きってだけで」
「そりゃまた、侍には有難くねェ花だなァ」
「だけど桜は……狂い咲きますから。息が詰まりそうなくらいに」

 そう言った新八の背後に。満開の桜が、見えたような気がした。
 むせ返るほどに咲き誇り、はらはらと空気をも染めるように花弁を散らすそれを。
 一瞬ぎくりと、傍目には分からせない程度に肩が強張る。
 今のは、一体。

「そういえば、今年もお花見するんですか?」
「うちかィ? まあ、するだろーなァ。数少ねー息抜きだ」
「何だかまたかち合いそうな予感するんですよね……」
「皆見頃に来るんだから、仕方ねーだろィ。嫌ならそっちが時期をずらすんだなァ。今なら貸切だぜ?」
「何でよりによって今なんですか。咲いてないですよ殆ど」
「どーせ花見つったって花より団子なんだろーがよ」
「その言葉、そっくりそのままお返ししますけど」

 しれっと言う新八は、もういつものそれだった。
 万事屋の従業員、地味で冴えない、ツッコミセンスだけは一級品の。
 ぽんぽんと小気味良く返ってくる言葉のリズムは、耳に心地いい。
 会話をしながら、それでも沖田の耳には先の新八の声が、言葉が残って離れなかった。
 ため息を吐くように。恨んでいるのか憎んでいるのか。それとも恋うているのか大切にしているのか。
 どちらともつかない曖昧な表情で、零れるように紡がれた。


 桜は、狂い咲きますから。

 新八の背後で、早咲きの桜から一片、花が散った。


END


 

 


ちらほら桜の歌が出てきたなー音楽業界。
っていうわけで桜の話。
本編(らしきもの)を殆ど出していないのに番外編というかその後的な話を出すってどうなのよ。
そして私はどうしても沖田には新八に興味を持ってもらいたいらしい(笑)
だって必然なんだもん!
そして二月に入ってから何度目だSS…波が、波がキテマス。ってカンジ。
波には乗れるうちに乗っておくんだぜ。いつ治まるか分からんからな。


2008/02/16
(UPDATE.2008/6/19)

 

 

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