寂しがりの貴方に抱えきれないほどの愛を ◆本誌寿司屋の話沖新補完◆ ※(何訓か忘れた…)本誌ネタバレっぽいような話です。ご注意ください 万事屋からの帰り道。 横合いから誰かが飛び出してきたかと思えばそれは知った顔で。挨拶をしようと口を開きかけたら、それよりも早く胸元にガサリと音を立てて放り投げるように渡されたビニール袋。 思わず落とさないようにと抱え込んでしまったそれの中身をちらりと覗けば、何やら色々な食材であるようで。 「え、と……何ですかコレ」 「飯」 「はい?」 「作れんだろィ。腹減ったんで、頼みまさァ」 どうやら手渡された食材で夕飯を作って欲しい、とのことらしい。 沖田の言動が唐突なのはいつものことだから、今更驚きはしない。 その言葉も行動も、自分が分かっているのだからそれでいい、というのが一貫しているのだ。足りない言葉も、破天荒な行動も、それを理解してしまえば納得できたりするのだから、人間の適応力は素晴らしいものだと思う。 それにしてもいきなりだなあ、なんて呑気に考えながら渡されたビニールの中を確かめる。 海苔、卵、生姜、などなど。 「あれ」 関係ないものも多々混ざっているが、袋の中に詰められた食材から考えられる献立は。 「お寿司…でも食べたいんですか?」 「……別に」 新八の問いに、沖田はあからさまに目を逸らしながら答えた。 どうやら図星だったらしい、が単純に食べたいというだけではなく何か理由があるのだろうと判断する。そしておそらく、その理由はあまり語りたくないような代物なのだろう、とも。 しかし何だって今寿司なのだろう。 寿司と言えば思い出すのは、つい先日長谷川の手伝いと称してとある寿司屋に足を運んだことを思い出す。いやそもそもあれは手伝いではなく招待されて行った筈だったのだが。その手伝いとやらも結局ぐだぐだになって終わってしまったのだが。 胸元に抱えていたビニールを右手に持ち直し、ともかく家路へ着こうと促す。 沖田は頷き、新八の隣に並んで歩き出した。その左手には、新八に手渡された物と同じ店のロゴが入ったビニール袋が提げられている。 ちらりと覗いている赤いキャップが醤油の物だと気付いて、思わず小さく笑った。一応は重たい方を持ってくれているらしい、とか。醤油を投げてくるほどの無茶苦茶さまではないらしい、といった事を考えて。 「ちらし寿司でも作りましょうか。というか、この食材だとそれぐらいしか選択肢ありません」 「任せるぜィ」 「食材提供してもらって何なんですけど、もうちょっと無駄のない買い方しましょうよ」 「無駄なことの中にこそ世の中の真理はあるんでィ」 「まあ言っても詮無いことですけどね……あ、じゃあ次があるなら買い物から誘ってください。それなら無駄な出費もしなくていいでしょう?」 うん、いい案だ。 節約上手な買い物なんて沖田に教えた所で無駄であることは分かりきっているし。 たとえ人様の財布であろうと、無駄遣いは好きじゃない。 妙案を思いついた、とばかりの表情で言えば、沖田は珍しく直ぐには返事をしないまま。 凝視されて、何かおかしなことを口にしただろうかと新八が不安になり始めた頃、沖田がふっと笑った。 それはいつも見せるような皮肉めいたものでも、Sっぷり全開のものでもなく。年相応の、青年らしい笑顔だった。 「そりゃァいい」 笑うついでとばかりに、沖田の片手が、新八の片手を握ってくる。 いつもなら、昼間は勿論夜であろうと人の往来がある場所での接触は拒むのだけれど。 今日だけはいいか、と何故か思ってしまった。 理由は自分でも良く分からない。沖田の見せた珍しい笑顔のせいかもしれないし、繋いだ手の暖かさが心地よかったからかもしれない。 片手に手、もう片方にビニール袋。 そういえば両手が塞がってしまったけれど、いいのだろうか。 新八はともかく、幕臣である沖田には色々支障がある気がするのだが。 思いはしたが、横を歩く沖田が上機嫌で鼻歌なんぞ歌っていたりして、結局それを言い出すことは叶わなかった。 END |
寿司屋に沖田が来なかったことの補完みたいな。 後から二人で寿司食べに行ったの知って顔には出さないけど微妙に拗ねたりしてればいい。 瓶で買った醤油は志村家に置き去りにされて、今後ちょくちょく夕飯ねだる口実になるよきっと。 ……つか、新婚?(笑) 2007/11/12ブログ小話 (UPDATE・07/12/10コメントそのまま) |