美人にぐらつくのは男としての礼儀。(もしくは思春期って単純よね、という話)



◆銀・沖新前提銀+新・204訓ネタ◆

「つーか新八よぉ」
「なんですか。お茶請けならもうありませんよ」

 新八が空いた湯呑みを片付けながら、言う。
 銀時の前に置かれた湯のみも、お茶請けが乗っていた皿も随分前に空になっていた。

「いやもう煎餅はいいから。羊羹的なものがあれば」
「何さりげなく糖分求めようとしてんだアンタは。ありませんよ羊羹なんて」
「えええー、ないのおー?」
「気持ち悪い喋り方しないでください。可愛げの欠片も感じませんから」

 冷たい目で言われ、更に嘘臭い口調で銀さんショックー、なんて口にしてみる。
 相手にするだけ無駄だと諦めたのだろう、新八は片手に持っていた布巾で卓の上を拭きだした。
 昼間手紙のことでバタバタしていた分、家事が溜まっているらしい。雑用という名の家政夫は伊達じゃないねえ、なんてよく分からない感心をしてみたりして。
 ちなみに妙は既に出勤し、近藤もおそらくそれに着いていったと思われる。

「俺は、どーでもいーけどさーあ?」
「何なんですかさっきから。奥歯に物挟まったみたいな物言い、やめてくれません?」
「沖田君にフォロー、しねえの?」
「…………」

 沖田、という名に新八の手が止まる。
 手紙の件で慌しかった中、ちらりとも顔を見せなかった。
 写真を撮った時に大体の経緯は聞き及んでいるだろうに。
 人をおちょくるのを生き甲斐にしているような沖田が、こんなからかい甲斐のあるネタを放置するなど常ならばないはずだ。
 おそらくはその相手が新八でなければ、今日も薄ら笑いでこの場に居たに違いない。そうして場を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、どこ吹く風と言った顔を見せていたのだろう。

 だが、沖田は今日顔を見せていない。
 基本的に何を考えているのか分からないように見せている沖田だが、やはり面白くなかったのだろう。
 男なんてどれだけ繕って見せていても、所詮腹の内は単純だ。好いている人間が余所見をしていれば、苛つくのは仕方ない。
 まして新八と沖田は世間一般的にいう「お付き合い」をしている間柄なのだから、不機嫌になるのも分かる。
 かと言ってまあ、沖田の肩を持つ義理はないし、こんな面白い話そうそう転がってこないものだから、ついつい悪乗りしてしまったのだが。
 けれど新八はすぐに何でもない素振りで、片付けた茶碗を乗せた盆を手にして立ち上がった。

「なんでフォローする必要があるんです? 僕が異性の知人を作りたい、それだけのことでしょう?」
「まあ、女にグラっとするのは男の宿命だしなあ……」
「僕だって男ですから。加えて思春期ですから。カワイイ子と知り合える機会をむざむざ棒に振るなんて出来ません」
「……無駄に男前だな、新八。っつーか思春期盾にするか。計算ずくかお前」
「さあ、どうでしょうね」

 銀時の言葉に、新八が目を細める。
 見下ろされる体勢なのも相俟って、思わずぞくりと鳥肌が立った。
 そんな銀時を他所に、新八はことんと首を傾げてみたりして。
 子供のような仕草と大人びた表情とが同時に存在する様は、危うい均衡ながらどこか人目を惹きつけるようなもので。
 ああ、今の俺には出来ない顔だなあ、と思った。

「だって偶には、僕が沖田さんを手玉にとってみたいじゃないですか」
「あんまり感心しねえぞー、銀さんは。こういうやり方」
「カワイイ子と知り合いになりたいのは嘘じゃないですよ。まあ、ついでに沖田さんのいつもと違う一面が見れたら面白いかなー、っていうだけで」

 にっこり、なんて擬音語がぴったりな笑顔を向けられ、思わず黙る。
 ああやっぱり姉譲りな顔してんだなあ、としみじみ感じさせられる表情だった。
 片付けてきますね、と部屋を出て行く背中にひらりと手を振って、銀時はぐたりと畳に寝転がる。

 お人よしでシスコンで眼鏡で真っ正直な新八だけれど、頭が回らないわけでは決してないのだ。むしろその眼鏡に恥じないだけの頭脳は持ち合わせているだろう。
 策士、なんて言葉が脳裏を過ぎって、銀時は苦い顔になった。
 あれで悪意はないのだからまだマシだろうか。いや天然は時として何より鋭い刃になることもあるから、危険は危険かもしれない。

 思春期というものは、単純で脆くて影響されやすくて。それでいて、その時にしかない輝きというものが確かに、ある。
 今現在進行形で十代と関わっていると、確かにそう思わされる。
 強かなくせに弱くて。謙虚さと不遜さが同時に存在したりして。

「新八の奴、沖田君の性格の歪みが伝染しちゃったんじゃねえの」

 呟きながら、がしがしと頭をかく。
 けれどそう言いながら、何とかしようなどという気は更々ない。
 新八が自分で選び歩んでいる道なら、それでいいと思えるからだ。

「連れ合いってーのは似てくるっつーけどねえ……」

 まあとりあえず。
 ドS加減はあんまり似ないように祈っておくことにする。
 新八の為にも、銀時の為にも、それとまあ一応、沖田の為にも。



END


 

 


沖新を見守る坂田。ビバ思春期。な話ですよ。
今週号で沖田がいなかった理由を自分なりに沖新補完してみた。
トッシーの書いた手紙出しに行った後のカンジで。

新八だって男のコだからね。嫉妬されてみたくなったり、相手を試してみたくなったりもするんだよ。
とりあえず沖田に感化されてる新八が書きたかった。
坂田の最後の一言に私の妄想は集約されてる気がします。
思春期の恋なんて周囲から見ればウザイくらいの代物だから画面には出せないんだよ!
だから滅多なことじゃ一緒にいないんだよ沖新は!!!
2008/3/19


(UPDATE/2009.4.4)

 

 

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