たまにはお休み。




「あーあ……」

 はあ、と溜め息を吐きながら体温計を見る。電子式ではなく水銀式のそれが示す数値は、七度ジャスト。
 関節は痛いし、頭は重いし、体は怠い。咳はそんなに出ないが鼻が詰まり気味。
 まごうことなく風邪の症状だった。
 先週から体力勝負の仕事が続いたのに加え、季節の変わり目ということで寒暖の差が激しかった。疲れの溜まった体が気温の変化についていけなかったのだろう。
 幸いなことに今日は万事屋には休む旨を伝えてある。

「…って全然よくないけどさ」

 再び溜め息を吐き、体温計の水銀を下げるべく何度か振った。
 そんな些細な動きにさえ腕がぎしりと痛み、眉を寄せる。
 調子が悪いな、とは数日前から自覚していたのだ。昨夜は特にそれが顕著だった為、早く休んではいたのだが。

「やっぱり駄目だったか……」

 気合いだけでは何とかならなかったらしい。
 がくりと頭を垂れるのには、それ相応の理由がある。万事屋の休みを貰っていた、その訳は。

「行きたかったなぁ…けど、最前列だしなぁ…お通ちゃんに風邪感染したりしたら立ち直れないもんなぁ……」

 呟きながら手に取るのは。本日公演の、寺門通コンサートのチケットだった。
 行きたい。隊長としては外してはならない所だろう。しかし、風邪菌をばら蒔くと考えると足が鈍る。
 風邪が人に感染る確率というのがどれ程かは知らないが、まかり間違って感染してしまったら。
 最近では安定した人気の出た彼女はそこそこに忙しい。誰よりも応援している自分がその妨げになったりしたら。もう二度と合わせる顔がない。
 考え過ぎだと言われようとも、自己満足だと言われようとも、一度思ってしまったものは取り消せない。

「難儀な性格だなぁ、我ながら」

 苦笑し呟き、手にしたチケットの表面を指でなぞる。
 休日が降ってきたと思って、ゆっくり休むのもありだろう。…なんて半ば無理矢理自分を納得させてみたりして。

「ともかく電話かな。タカチンと、軍曹と、後は……」

 指折り数え、電話するべく立ち上がる。
 残念ではあるけれど、自己管理が出来なかったのは自身の責任以外の何物でもない。

 寝てやる。今日は何もかも全部放り出して寝まくってやる。
 意地でも今日だけで治してやる。見てろ。

 誰に対してなのか、燃えてみたりしつつ。
 哀しくも不要になってしまったチケットを、ひらりと放った。



END


 

 



実録的な。
昨日の自分、みたいな。いや昨日ってか布団に入りつつぷちぷち打ってたんですけどねコレ。前半だけですが。
ええハイ、結局風邪っぴきでしてね。ライブ諦めて家で寝てました。
いやでも正解だったのさその判断。夜になったら八度近くまで上がってたから。
事実と違うのは私の整番は最前狙えるほどよくなかったことですが(笑)いや最前行ける番号なら熱あっても行ってたから逆に良かったんだぜ、とか言ってみる。
行けなかった気持ちをぶつけてみた。転んでもタダでは起きない精神培養中。

2007/10/12ブログ小話
(UPDATE・07/12/10コメントそのまま)

 

 

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