恋と衝動を避ける術はない



 すれ違いざま手が伸びたのは、ほとんど無意識だった。
 無意識というか、条件反射というか。
 真夏の暑い日に、あ、アイス食いてェ、と思うのと同じような自然な感覚で。
 振り向きながら手を伸ばす。迷いなく向かった指先は、けれどその動きとは裏腹に新八の髪を一房、軽く摘まんだだけだった。それも、新八が進むのに合わせて沖田の指からするりと逃げる。
 沖田の行動に気付かなかったのか、新八は振り返らず。
 まァ仕方ねーか、と思いながら一つ息を吐きくるりと踵を返した。そもそも惰眠を貪るべく日当たりのいい場所へ移動しようとしていたのだ。
 どこがいいだろう、と欠伸をしつつ考えを巡らせていると。

「今……沖田さん?」

 戸惑いがちに、声がかけられた。間違えようはずもない声に足を止め、顔だけを新八の方へ傾ける。
 新八は沖田へ向き直り、困惑した表情を見せていた。
 地味メガネ、と評されて久しい新八だが、向ける眼差しの迷いのなさは、沖田の好むところだった。というか、確かに地味ではあるけれど見られない事もない顔立ちではあると思う。
 沖田の指は掠めるように触れただけだった。それに気付いた新八は、見た目ほどに鈍くはないらしい。

 あァ、面白ぇかもしれねーなァ。
 ふっと口元を緩めた沖田は、顔だけではなく体もまっすぐに新八に向けて。三歩ほどの距離を、ゆっくりと詰めた。
 すい、と手を持ち上げて新八の肩に置く。触れた瞬間、驚いたのかびくりと震えたのが手のひらに伝わってきた。

「あの……?」

 続く沈黙が耐えられなかったらしい新八が、首を傾げながら言う。
 目の前でさらりと、黒髪が揺れた。
 そうだ、すれ違いざまに揺れたこの髪に。
 どうしてだか、触れたいと思ったのだ。

「今から少し、付き合いやせんか?」

 女のように柔らかそうでも、甘い香りがするわけでもない。けれど何故か、衝動が込み上げた。
 突然の誘いをどう思ったのか、新八の肩がまた揺れる。離せばそのまま逃げ出しそうな気がして、置いていただけの手を掴むものに変えた。
 じわり、手のひらに熱が伝わる。

 さあ、答えは。





END


 

 



3Z沖新は通常沖新に比べて青春度が上がる気がします。学校が舞台だからかな。
ス/ピッ/ツとか似合う感じ。
金沢的沖新は「青春爆走超特急(時々遅延あり)」かもしれない(笑)

2007/11/26ブログ小話
(UPDATE・07/12/10コメントそのまま)

 

 

        閉じる