人の恋路を邪魔する奴ァ、以下略。

　　　人の恋路を邪魔する奴ァ、以下略。

◆銀・沖新前提山崎と沖田・ＤＶＤ９巻ジャケマジですか？話◆

　ひゅお、と空気を切る音がして山崎は咄嗟にその場から飛び退っていた。
　その反射神経とでも呼ぶべき反応は監察として動いているうちにすっかり身に染み付いてしまったものだ。
　何が起こったのか分からないまま、体勢を立て直す。そんな山崎の視界に飛び込んできたのは。

「え、ちょ、沖田隊長ォォォッ？」

　抜刀している、自分の上司の姿だった。
　聞こえた音は己に向かって振り下ろされた刃だったらしい。避けていなければ今頃どうなっていたことか、と考えて思わず鳥肌が立った。
　顔を引きつらせる山崎など意に介した様子もなく、沖田は舌打ちをする。
　ええええ、この人今舌打ちしたよ、舌打ちしたよねちょっとォォォ！
　しかも何その構えなおして、また斬りかかってくる気満々、みたい、な……

「ちょちょちょ、何ですか隊長！　俺何かしましたか！！」

　副長こと土方に殴られることは日常茶飯事だが、沖田に殺気を向けられることなど殆どない。いやむしろ初めてのことではないだろうか。
　背中を伝う冷や汗を感じながらともかく制止の声をあげれば、沖田はとりあえず話す気にはなったようで。

「次のジャケット、新八と一緒なんだってなァ？　ジミー君よォ」
「え、ああ、９巻ですか？」
「つーわけで死ね」
「ぎゃああああ！　ま、ま、ま、待ってくださいよ！！」
「旦那やチャイナや姐さんなら身内っつーことでギリギリ許せるけどなァ。なんでお前ェと新八なんでィ」
「投票なんですから俺が選んだわけじゃないですって！」

　悲痛な声で告げれば、沖田はまたもぴたりと動きを止める。
　ここだ！　と突破口を見つけた山崎は思わず拳を握った。さながら某裁判ゲームの弁護士主人公になったかの如く。

「前回隊長が出た８巻だってそうでしょう？！　各方面からのニーズや圧力があったからであって、決して自分の意思ってわけじゃ」
「つーことはよォ。お前ェと新八が一緒にいる絵面の方が世の中に求められてるって言いてェのか？」

　あれえ？　俺、首絞めた？
　ていうかそうじゃない、そうじゃないですよ沖田隊長ォォォ！！
　ノオオオオ、と絶叫して頭を抱えてのた打ち回りたい衝動に駆られながら、首がもげそうな勢いで横に振る。
　先程よりも低くなった沖田の声に、自分が半分くらいは死亡フラグに足を突っ込んでいると理解しながらそれでも抵抗はしてみる。まだ死にたくないからだ。
　ああこんな時に某裁判ゲームの主人公のように相手の動作から何か見抜ければ…って見抜けても死ぬよ何とかしないと。ってダメだダメだ俺、現実逃避し始めてる。

「だ、大体沖田隊長新八くんと居るとあからさまじゃないですか！　スキンシップ過剰というか、二人でジャケ撮影なんてことになったら普通に腰に手とか回すでしょう！」
「何が悪ィんでィ」
「ダメに決まってるじゃないですか！　ただでさえ放送枠がゴールデンから移動になってんですよ？！　そうやって何仕出かすか分からないから一緒の……隊長？」
「それ、旦那にも言われたなァ」
「万事屋のですか？」
「そんなにあからさまかねェ。俺にとっちゃフツーなんだが」

　世の中おかしいぜィ、何て言いながら首を捻る沖田におかしいのはアンタの思考回路だよ、と言いたかったがぐっと堪えた。
　ここで下手なことを口にしたが最後、待っているのはバッドエンド一直線の道だからだ。
　ブツブツ言いながらも、沖田は抜き身だった刀を鞘に納めた。
　この後殴られくらいはするかもしれないが、とりあえず一命は取り留めただろうとそっと安堵の息を吐く。
　が、その思考が浅はかだったとすぐに気付かされた。ガシャン、と音を立てて目の前に突きつけられたバズーカによって、無理矢理に。

「え、あの、隊長？」
「けどやっぱムカつくから、死んどけや山崎ィ」
「ちょ、ま」
「お前ェが死んだら、俺にオファー来るかもしれねーしなァ」

　だからちょっとは自重しないと無理ですってば大体もう撮影終わってるんですよ、という言葉は結局口にすることは不可能だった。
　バズーカが情けも容赦もなく火を噴いたからだ。
　目下山崎の生死は不明だが、死んではいないだろう。表紙になれないと作者に太鼓判を押されながらも、ちゃっかりＤＶＤのジャケを飾るくらいの男だから。

　本日の教訓、恋は盲目、恋する男は恐ろしい。
　以上、お後がよろしいようで。

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