きみのうた



◆「寂しがりの貴方に抱えきれないほどの愛を」続き◆


 歌っている。どこか控え目な音量のそれはハッキリと声にしているものではなく、おそらくは鼻歌なのだろう。
 顔は見えないけれど多分、楽しそうに。
 聞くともなしに聞いていた沖田は、ふと苦笑した。

「鼻歌でも音痴って出るもんなんだなァ」

 部屋を隔てての呟きは、歌っている主には届かなかったらしい。相変わらず歌は続いていた。
 節々で音程の外れるそれは決して耳に心地いいばかりではないのに。何故だか邪魔する気にはなれなかった。
 多分、聞こえてくるメロディが楽しげだからだ。下手な横槍など無粋だと思ってしまう程に。

 いつもなら。
 平常通りの沖田なら、乗り込んでいって遠慮呵責なく歌を止めただろう。その止め方が容赦なく音痴だと告げるのか会話でも振って止めるのか、それはその時々の気分次第だ。
 だが、何故今日、今この時に限って大人しく座ったままでいるのか。
 理由は一つ、隣室こと台所にいる新八に飯を作ってもらうように頼んだのが他ならぬ沖田だからである。
 頼んでおきながら過程に文句をつけるのはどうだろうか、と。沖田の人となりを知る人間が聞いたら泡を噴きそうな事を考えた上で、座ったままでいるのだ。
 ……なんて、言い訳がましい物も確かに理由ではあるのだが。それより何より。

「俺の為に、ってーのを嬉しそうにやられちゃァ、文句も言えねえや」

 その、惚気以外の何物でもない呟きを聞き咎める人間は、幸いにも存在しなかった。
 まあつまりは、ご馳走さまでした、という話。

END


 

 



新婚かい。シリーズ第二弾(笑) 何となく続きが思い浮かんだので勢いでやった。

2007/11/14ブログ小話
(UPDATE・07/12/10コメントそのまま)

 

 

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