カマイタチ ◆パラレル・ティーンズトリオ(新八、神楽、沖田)+山崎◆ 「どーくーアールー」 地響きのような音と共に近付いて来たのは、そんな声。 ミントンに勤しんでいた山崎は、一体何事が起きたのかと音のする方へ顔を向け、そして。 ぴしり、と凍りついた。 成人男子よりも遥かに大きい超巨大生物(色は白)の背中に少女が乗り込み、まっすぐ自分へ向かってきていれば思考停止するのも仕方ないだろう。 これは何なんだ、とか。 何故自分なんだ、とか。 色々思うことはあれど、人間突発的な出来事に晒されると思考も体も停止してしまうというのを思い知った。 そうこうしているうちに巨大生物と少女は目の前に迫っていて。(わおん、とか鳴きやがったのでどうやら巨大生物の正体は犬であるらしい。それにしても規格外な大きさだが) しまった逃げれば良かった、などと考える間もなく山崎は巨大犬のぶっとい足の餌食になっていた。端的に言えば踏まれたのだ。いやむしろ踏み潰されたというべきか。 ぷちっと。 おそらく犬の方からすれば虫でも踏んだのと同じようなものだったのだろう。 犬と少女は山崎を踏みつけたにも関わらず止まることは愚か減速する様子も見せずに走り去って行った。 いや、倒れ伏す山崎はそれを確認することは出来なかったのだが、足音が遠ざかって行ったのでそう判断した。 「あいたー……ていうか、何?」 派手に転ばされた割には、大した怪我はしていないようだ。 ぼやきながら起き、立ち上がろうとしたその瞬間。 「邪魔でィ」 抑揚のない声が、降ってきた。 次いで風が巻き起こり、思わず目を閉じる。 一瞬後にきん、と聞き慣れない音が耳を穿った。金属がぶつかり合うような、音。 風はすぐに収まり、そろそろと目を開ければ声を発したらしい人物の足が目の前に在った。 視線を上げていく。 何処かの制服なのだろうか、黒いかっちりとした印象の服だ。上着にベスト、襟元には白いスカーフ。 それを着ているのは、おそらくまだ成人を迎えていないだろう青年だった。 だが、格好より何より山崎の目を引いたものがある。それは。 ――刀?! 青年が当たり前のように腰に差している、一振りの刀だった。 先ほどの微かな金属音は、おそらく刀を納めた時のものだったのだろう。 「俺の進路に立つんじゃねえや」 言って、青年は歩き出す。 その顔は山崎を見ることは一度もなかったが、放たれた言葉は紛れもなく自分に向けられていた。 しばらく呆然としていた山崎だが、我に返ると慌てて起き上がった。 青年が抜刀したというならば、それはつまり。 その刀を使った、という事になるだろう。出来れば考えたくないが、この場合。 斬られたのは自分である、というのが妥当な線だ。 名探偵登場の余地もなく事件発生そして解決、というか。 いやいやいや解決してないよ。 情けない考えを巡らしながら、思わず首を振る。 ともかく五体満足であるかどうか確認しようとした、その時。 「っ、わ、ああ?」 間抜けた声が零れた。その理由は、斬られていたから、ではなく。 不意に横から伸びてきた手に、がしりと腕と手を掴まれたから、だった。山崎のそれより、幾分か小さな手。 手のひらから腕、肩、そして顔へと視線で辿れば。そこに居たのは、眼鏡をかけた少年だった。 困ったようにやや眉を下げながら、山崎の手の甲に触れている。 いや、ただ触れているだけではなく、指先で撫でていた。 見知らぬ人間に手を撫でられる、なんていつもの山崎なら驚き振り払っていただろうが、今は違った。 立て続けに普段では起こらないような出来事に身を晒し、混乱と同時に頭が上手く働かなくなっていて。 呆然とされるがままになっていると、やがて手を離した少年は山崎に向かってぺこりと頭を下げた。 「二人が失礼しました」 「え……さっきの? 知り合い?」 二人、というのは恐らく巨大犬に乗っていた少女と、刀を差した青年のことだろう。山崎が本日接触した人物と言えば、そこしかない。 だがよくも悪くも目を引く二人と、目の前に居る平凡そうな少年との接点が分からずに思わず聞き返していた。 些か失礼な物言いになってしまったが、混乱する山崎にはそれを判断するだけの思考能力が残っていなかった。 だが少年はと言えば気分を害した様子もなく、苦笑しただけで。 「悪気はない上にあれでも手加減してるんですが……元が規格外なものでして」 「ああ…うん、何か、そんなカンジだね」 先の二人を思い返し、思わず遠くを見るような目でそう言うと少年が再度すみません、と頭を下げた。 「よく、分からないけど…大した怪我もしてないみたいだし、平気だよ」 「そうですか?」 「少しびっくりしたけどね。でも、君が謝ることでもないよ? 顔上げてよ」 山崎の言葉に少年は一瞬きょとんとした顔を見せたが。 すぐに笑顔になった。 年相応、やや幼くも見えるような表情だった。 「ありがとうございます」 緊張を解いたような顔を見せながら、礼は忘れない。 ますますもって先の二人との接点がよく分からないなあ、なんて思いながら大丈夫だから、と山崎が口にした矢先。 「新八ーィ。まだアルかー?」 「地味同士話が弾むのは分かるがなァ。さっさと次行こうぜィ」 先ほども聞いた声が、やや離れた場所から響いてきた。 見れば、とっくに去っていたものとばかり思っていた少女と犬と青年が立っていた。 改めて見ても、共通点があるようには決して見えない。 それでも、二人の表情から彼らが旧知の仲なのだろうことは分かった。 「誰の後始末してると思ってんの! ていうかね、神楽ちゃんも沖田さんもやり過ぎだから! ったくもう毎回毎回……」 二人に言葉を返す少年の口調も、山崎に向けられていたものとは違い大分砕けたものだ。おそらくはこちらが素なのだろう。 ああもう、とぼやくその顔にも声にも、嫌悪は微塵もなかった。 そのまま立ち去るかと思った少年だが、ふと歩みを止めて山崎を振り返る。 「そんなに酷くはならないと思いますけど、ちゃんと手当てしてくださいね。その右手」 「へ? …あ、うわっ?」 示された右手の甲を見れば、ぱっくりと赤い線のような傷が口を開けていた。 刃物で斬りつけたかのような、一文字の傷。だがその大きさの割に出血が少ない。 不可思議に思いながら眺めて見るが、痛みもほとんどなかった。 「じゃ、さようなら」 かけられた声に顔を上げると、待っている二人の元へ小走りに向かう少年の背があって。 山崎が口を開こうとした瞬間、突風が吹いた。 砂埃を巻き上げるそれに、思わず顔を庇う。 「……えっ」 顔を覆った手の向こう。 細めた目の、前で。 三人と一匹の姿が、ふっと消えた。 まるで風に浚われるように。 いやどちらかと言うと、巻き上げるような風に乗っていったかのように。 慌てて辺りを見回すが、隠れている様子も走り去る背が見えるわけでもなく。 「……化かされちゃったかな」 呟いた手の甲を、たらりと血が伝って落ちた。 ●カマイタチ/鎌鼬● つむじ風に乗って人を切りつける。 場所によっては三匹で行動。一匹目が転倒させ、ニ匹目が切りつけ、三匹目が薬を塗っていく。 END |
ティーンズらーぶ。 グラさんも沖田も走りっぱで、パチは文句言いつつ止めない。 というわけで物の怪パラレルでした。 カマイタチはポピュラーですよね。 実はこれ、拍手用に書いてた話を発掘したものだったりします。 ほぼ毎日日記書いてたからもう書かないと落ち着かないんですよねー。 というわけでコピペですが初出です。良かったね日の目見て。 しかしこの長さを拍手に使おうと思ってた自分…… 2008/4/14 (UPDATE/2009.4.4) |