その呪文は秘密です★


◆銀・沖新・本誌幽霊温泉宿騒動のその後捏造的な話◆


 曰くありまくりだった温泉旅行から何とかかんとか帰ってきて。
 実際出掛けていた日数としてはそう長くないはずなのに、見慣れた街がやたらと懐かしく感じられる。
 喧騒と人並みに溢れた街に心底安堵する日が来るなんて思いもしなかった。

「新八じゃねーか。帰ってたんだなァ」
「あ、こんにちは沖田さん」
「土産は?」
「……開口一番お土産請求するのってどうなんですか人として」

 旅行に行くことは話していたから、まあ請求されるだろうなとは思っていたけれど。
 微塵も湯治にならなかった旅行のことを思い返すと、げんなりする。
 しかし単に土産はないのだと告げた所で納得はしてくれないだろうから、やはり事の顛末を説明するのが一番なのだろう。
 あんまり思い出したくないんだけどな、と考えていると。

「ちょ、何ですか顔近いんですけどっ」
「新八ィ、……」
「え?」

 やけに神妙な顔をした沖田が顔を近づけてきていて、慌てて遠ざけようとする。だが新八が引き離そうとするより早く、沖田は耳元でぼそりと何事かを呟いていた。
 低い声で囁かれたそれを正確に聞き取れず、首を傾げて聞き返す。
 瞬間、くらりと眩暈がして思わず額に手をやった。何事かと思ったのとほぼ同時に、がくりと膝が折れる。
 そのまま倒れるかと思ったが、沖田が腕を掴んで支えてくれた。

「おいおい、大丈夫かィ?」
「すい、ませ…」
「貧血じゃねェか? 仕方ねーなァ、肩貸してやらァ」

 ひょい、と腕を回され支えられる。
 その間にも眩暈は続いていて、上手く言葉も紡げなかった。
 頭痛とは違う。だがやけに視覚と聴覚が不安定で、落ち着かない。
 ふわふわと、まるで地に足が着いていないような感覚だった。
 沖田は貧血だと言ったが、違うような気がする。
 つい最近どこかで体験したような、ああそうだ、これは。あのトンデモ旅館で。

「脱臼と同じでよォ。離脱って、一度やると癖になるトコあんだよな」
「り、だつ…沖田、さん?」

 ここで沖田の言う離脱、という単語は幽体離脱と思って間違いないだろう。
 問題は、何故今計ったかのようにその言葉が口にされたか、だ。
 言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのに、舌が上手く動かない。
 腕も脚も一応は動くけれど、まるで重りをつけられたかのように鈍い。

「今のお前ェの状態は、それの一歩手前ってとこだ。修験者とかイタコとかが口寄せってのやるだろィ? それと同じようなもんだ」
「なに、言って」
「心配すんな。絵的には民間人を介抱する心優しい警察官、ってとこだろーからよォ」

 今一番心配なのはアンタの頭の中身だよこのアホンダラァァァ、と口が動けば大声で言っていた。
 しかし残念ながら新八を襲う眩暈は解消されることがなく、よって沖田にツッコミを入れることは不可能だった。
 どこもかしこも思い通りにならない体では抵抗など出来るはずもなく、そのままずるずると沖田に引きずられていく。
 BGMにドナドナが掛かっていそうな新八とは対称的に、沖田は今にも鼻歌の一つも歌いだしそうなほど上機嫌だ。
 今更何を言っても無駄だと知りつつ、視線だけでじとりと睨んでみる。それに気付いたのか、沖田は歩きながらちらりと視線を寄越してきて。

「……泊まりがけで旅行、っつーのも気に食わなかったんでィ」
「は?」
「だから今日ぐらい独占してもいーだろィ? 恋人なんだからよ」

 見上げる沖田の横顔は、どこか拗ねたような色を乗せていて。
 子供みたいな事言ってるよ、と呆れながらも嫌悪はなかった。
 年上なはずなのに可愛い人だなあ。
 なんて、言ったら殴られそうだけれど。

 仕方ないから、今日一日はあげますよ。
 未だ上手く動かせない舌では、そう告げるのは無理だったから心の中でだけ呟いて。
 心持ち、投げ出すように体を預けた。
 浚っていくつもりなら、せめてそれぐらいはしてもらわないと割に合わない。

 ……けど、今度同じ方法使ったらタダじゃおかないって誓わせないと。
 このスキルは乱用されたら危険だ。
 お土産を買えなかった代わりにもっと厄介な置き土産をされてしまったのだと、今更ながらに痛感して。新八はただ深くため息を吐いたのだった。


END


 

 


本誌で決着つく前に捏造しとかないと!! …っていう話です。
丑の刻参りしてたくらいだし、沖田はそういう知識とか持ってそうだなあ、と。
…ていうかうちの沖田はそういうのに多大な興味持ってるってことで一つ。
だもんで、旅行帰りの新八の様子がいつもと違うのに気付いてイタズラしかけちゃった、っていう。
まあ捏造ですけど。本誌で沖新絡みがないから捏造するしか!!!

離脱が脱臼と同じようにしやすくなるかどうかは分かりませんすいません。
でもホラ、幽霊話とかしてると寄ってくるとか、霊力強い人の傍にいるとつられて上がる人もいたりするとか、そういうの聞いたことあるんでねっ。まあそれと同じようなノリだと思ってくださればっ。
まあ脱臼と同じなんで、新八の抜けやすい体質ってのも数週間で落ち着くはずです。
じゃないと沖田に色々悪さされちゃう!(笑)(でも多分この後されるよな)

あ、後ハッピーバレンタイーン♪
全くチョコの出てくるような話ではないですが、恋人同士の甘さでそういうことにしといてください(笑)
……しかし新ちゃん、何気に沖田を甘やかすよね。チョーシ乗るぞー、一度甘やかすと!


2008/02/14
(UPDATE.2008/6/19)

 

 

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