【ファズ】 沖新 錆び付いているのだとばかり思っていた心が、自分でも驚くほどに、揺れた。 急に冷たくなった右手を持ち上げ、凝視する。 元々体温は高い方じゃない。それなのに右手が冷たい、そう思う。 右手だけじゃない。心にも、ぽかりと穴が開いてしまったような空虚さがある。 右手を何度か開閉した後、沖田は軽く肩を竦めて。 ふっと、口元を歪めた。 「重症じゃねーかィ、こりゃ」 原因は知れている。 右手に足りないのは、つい先ほど別れたばかりの恋人の左手。 逢いたいも足りないも、自身では制御不能な程に身の内を暴れ、灼いていた。 なんて、勝手な。 そう思うのに、右手は冷たくなるばかりで。 笑顔が見たい。抱きしめたい。 エゴと自己満足ばかりの恋心。 甘さなんて僅かで、きっと苦さばかりを押し付ける。 それでも、ただ一人を想う心は手放せない。 「さってと、どうするかねェ」 呟き、空いてしまった右手をポケットの中にねじ込んだ。 瞬間、微かな金属音が鳴る。同時に指先に硬い感触。 触れたそれを掴み引っ張り出せば、数枚の硬貨が出てきた。 「……偶にゃ、運任せってのも面白ェかもなァ」 中でも一番綺麗な硬貨を一枚、掌に残した。街灯を反射し煌いたそれに、思わず笑う。 まるでこれから先を予言しているかのようで。 繋いだ手を、向ける心を手放せない理由など単純で明快だ。 ……二人で、恋を、しているから。 親指が硬貨を空に向けて弾く。 くるくると廻るそれは、どこか人の心にも似ていて。 出るのは表か裏か。 楽しくなってきた、と沖田の唇が弧を描いた。 END |
Web拍手掲載期間→2008.5.15〜11.20 ムッ/クの「志恩」かってにリスペクト小話。と銘打って書いた話。 ちなみに作者はコイントス下手くそです。 |