【放課後faraway】




 新八が沖田を見つけたのは、背の高い本棚と本棚の間の狭い通路でだった。

 流行り風邪を引いて学校を休んでいるクラスメイトに代わり、ここ数日図書委員の仕事を手伝っている新八だったのだが。
 今日は部活が休みなのだと、沖田が着いてきた。
 あまり構えないと言い置いたのだが、それでもいい、と。
 納得済みならば絶対騒がないことを条件に連れ立って図書室を訪れたのが、30分ほど前のことだっただろうか。
 ついさっきまで、沖田は空いた机に突っ伏して寝ていたような気がしたのだが。いつの間にこんな所に移動したのだろう。

 沖田は本棚に背を預け、手にした本に目を落としていた。
 大人しく本を読んでいるなど珍しいことこの上ない。
 集中しこちらに気づいていないようなのをいいことに、新八は沖田を凝視する。
 黙って立っていれば引く手数多な顔立ちをしているなあ、と改めて思ってみたりしつつ。
 少しけだるげに視線を落としている顔は、何だかやたらカッコいいように思えてしまう。
 それが少し悔しかったり、恥ずかしかったり。

 ぱらり、微かな音をたててページをめくる。
 その音を耳にして初めて、彼が何を読んでいるのかが気になった。
 けれど、それ以上に胸の内に湧き上がったのは。

 足音を忍ばせて、沖田に近寄って行く。
 人の気配に気づいたらしく、沖田が顔を上げた。その唇が開きかけたのを見て、すっと腕を伸ばした。

「図書室では、静かにしないとダメですよ?」

 人差し指を、沖田の唇に当てて。
 内緒話をするように顔を寄せながら、言った。それも笑顔付きで、だ。
 沖田の目が、驚いたように僅かに見開かれる。
 ああこんな表情を見せるのも珍しいな、なんてどこか冷静に考えた。
 伝わるだろうか。
 そう考えたのは刹那の事。
 沖田の手が、新八の手を絡めるように握って唇の前からどけた。
 その目は、笑っている。

「じゃあ、塞いでくれねぇかィ?」
「……心得ました」

 湧き上がったのは、触れたいという衝動だった。
 逆らわずに、少し踵を浮かせて唇を重ねる。
 まるでよくある三文小説だと思ったけれど。触れる熱は暖かく、手放せなかった。
 沖田の、新八の手に重ねられていない方の手が、持っていた本をぱたりと閉じて。
 新八は沖田の首に、腕をまわした。

 放課後の喧騒は、遠い。


END


 

 



Web拍手掲載期間→2009/8/31〜12/20

 

 

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