【歪みの国のアリスパロ】(アリス=新八、チェシャ猫=沖田、叔父=土方)

 戻ってきた、はずなのに。
 どうしてだろう、どこか現実感がない。
 夢から覚めたはずなのに、まだ夢を見ているみたいな。そんな感覚。
 行き交う人並みの中立ち止まっている僕はさぞ邪魔なんだろう。避けていく人の中にはあからさまに不審そうに顔を歪めていく人もいた。

 ようやく不可解な世界から、出来事から解放されたのに。
 喜んでいいはずなのに。
 何故だか、どうしていいのか分からなかった。
 途方に暮れる、という言葉はこんな時に使うのか。
 他人事のようにそんなことを考えて、何だかおかしくなった。
 どうしよう。

「……?」

 ちくり、と。
 首の後ろ辺りを針で突付かれたような、気がして。
 勿論実際はそんなことはされていないのだけれど、神経を撫で上げられるような感覚に後ろを振り向いた。
 これは視線だ。それも、ひどく強い。
 振り向いた先、道路の向こう側。
 通り過ぎる車などないように、ジッとこちらを見ている男がいた。
 黒髪に黒い服、顔立ちはまあ整ってはいたけれど、目つきが悪いせいで怖い印象を受けた。
 パズルを合わせるように、かちりと視線が合う。
 知らない人だった。
 なんだ、ろう。あれは、誰だろう。
 途惑う僕を他所に男は道を渡ろうとして、行き交う車に顔を歪めた。
 ――いやだ。

「おい!」

 本能的な嫌悪感を抱くのと、男が声をあげたのがほぼ同時だった。
 僕に言ってる。
 雰囲気同様、どこか威圧感のある物言いだった。
 知らない人が、どうして声をかけてくるんだ?
 捕まりたくない。何をされるか分からない、その恐怖に僕は男に背を向けて走り出していた。

「ちょ…おい、待て!!」

 慌てたような声がする。
 いつ車が途切れて追ってくるか分からないのが、怖かった。
 いやだ、いやだ、いやだ!
 助けを求めたいのに、誰を呼べばいいのか分からずに。
 もつれそうになる足をただ前へ進ませ、走るしかなかった。
 人並みを縫うように走って、途中見つけた細い路地に体を滑り込ませる。
 上がった息と、心臓の音がやけにうるさかった。


END


 

 


Web拍手掲載期間→2/26〜5/15
UPDATE.2008/6/19

せっかくキャスト考えてたので書いてみた。
叔父トッシー。
あれが追っかけてきたら怖いよなぁ。



 

 

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