【アゲハ】 「……舌、何?」 その肩を押してしまったのは、突然重ねられた唇に驚いたから。……ではなかった。 するりと口中に入り込んだ不埒な舌、に違和感があったのだ。 あれは、あの感触は、もしかしなくても。 逃げは許さない、とばかりの目で見据える新八に対し、高杉は悪びれる様子もなく舌を出した。 その中央に在ったのは。 「ピアスなんて、開けてたんだ」 所謂舌ピアス、と呼ばれる代物だった。 触れた硬い感触から大体の予想はついていたものの、実際目にすると妙に感心してしまう。 痛くないんだろうか、とかご飯どうしてるんだろう、とか考えつつまじまじと見つめていると、高杉は口を閉じてしまった。 「痛くないの?」 「覚えてねェ」 「……意味が分からないんだけど」 「酔った勢いで開けたらしくてよ、気付いたらしてただけだ」 ……色々と問題のある発言な気がしたが、あえてスルーしておくことにする。 そもそも高杉との交友関係を持った事自体が新八の中ではツッコミどころ満載の出来事だったのだから、今更それぐらいで驚いてはいられないのだ。 どこもかしこも接点がないからこそ、一緒にいられることだってある。 互いに互いの世界を知らないから、新しいものを知る。 影響し合って、二人で新しいものを見る。それが、楽しい。 「パチ」 呼ばれ、するりと耳の後ろに指が滑らされた。 雨に濡れた指は冷たいはずなのに、それを感じることはなかった。 頭から濡れそぼっているのだからそれも当然なのだろうが。 五月の雨は冷たい。夏に降るスコールとも違う、ただ静かに降りしきる雫はしっとりと辺りを濡らす。 この人も必死なんだなぁ、そう思うと微笑ましいような気になって、くすりと笑う。 それから新八が顔を上げて少し踵を上げるのと、再度高杉からの口付けが降るのとは、同じタイミングだった。 END |
Web拍手掲載期間→2008/11/20〜2009/4/26 ムック勝手にリスペクト小話。 この曲も好き。 |