世界に不可能がないしたらの話


 何でちっさくなったのか、とか。
 どうして俺のところに来やがったんだ、とか。
 言いたいことなんて山ほどあるけれど。
 まあどれもこれも、言葉になんてなってくれなかった。
 目の前の光景が、あまりにもあんまりで。

「……ありえねーなんてありえねーって事かよ……」

 アッシュの呆然とした呟きが聞こえたのだろう。目の前にいるルークがことんと首を傾げた。
 だがそれは、ルークでありながらルークではない。
 不思議そうな顔で、けれどまっすぐに向けられる子供のような目も。
 アッシュよりも色素の薄い、けれどどこか優しい印象を与える最初に目にした時よりずっと短くなってしまった髪も。
 ファブレの家で用意したものだろうから素材・質ともに最高級なのだろうけれど、イマイチそのデザインに首を傾げたくなるような服も。
 どれもこれもがルークであり、それ以外ではありえないものだというのに。

 それでも「これ」がルークではない決定的な理由。それは。

「どこでどうやったら縮むっつーんだ」

 ルークがアッシュの手のひらに乗るような、小人サイズになってしまっていること、からだった。
 もっと言えば、このサイズのルークが目の前に現れてからずっと、一言も言葉を発していないからこれはルークではないものなのだという判断を下したというのもある。
 もしこれがあのルークで、何らかの原因で縮んでしまっただけというのであればもっとしきりに(有体に言ってしまえば喧しく)何か訴えてきているだろうから。

 正確な大きさは測っていないので不明だが、その全長はフォークやナイフより小さい。というか多分、フォークを持たせたらそのままひっくり返ってしまいそうだ。
 姿形はルークではあるものの、その腰には剣が下がっておらず、代わりに。

「……なんで傘?」

 何故かやたらメルヘンちっくというかカワイイもの好きの少女が好みそうというか、なデザインの傘を片手に持っていた。
 というか、そもそもアッシュの目の前に登場した時が、その傘を落下傘代わりに開いてふわふわと落ちてきたのだ。
 文字通り「小さな」ルークは何を言うでもなくアッシュの顔を見上げ、にこにこと嬉しそうに笑っている。
 そんな顔で笑えるんだな、と皮肉に思ってしまうぐらいに邪気のない顔で。

 得体の知れない存在に驚き、途惑い、苛立ち。
 それでも何故か、捨て置く気にはなれない。
 どうしたものか。
 途方に暮れて何気なく仰いだ空は。アッシュの気持ちとは裏腹に、高く透き通るように晴れ渡っていた。


END


 

 

ピンキールークを作った時から実は考えてました、なちっちゃいルークとそれに翻弄されるアッシュの話。
この導入部だけ思いついてその後が微妙だったので忘れないうちにメモっとくカンジで。
何がひどいかって、仮タイトルすらも決まってないってことだよねー(笑)


2007/07/11
(UPDATE.2008/6/19)

 

 

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