【幸福喫茶3丁目 パロ/舞台裏】




「あ、いたいた。アッシュ、シンク!」


 撮影終了後。
 後は着替えて帰るばかりだと思っていたアッシュとシンクを呼びとめたのは、誰あろうルークだった。
 こちらもまだ着替える前なのだろう、撮影中の格好そのままだ。
 そしてその手には、何やら大きなトレイがあった。
 上に乗っているのは様々なケーキだ。


「……何か用か」

「さっきの撮影で使ったケーキ、分けて持って帰ってくれって。お前らどれにする?」


 俺はミルフィーユとチーズケーキ、ショートケーキもかな。あとジェイド辺りは抹茶がいーのかなー。ガイも同じでいっか。あ、シュークリームもあんのかー。
 何やらうきうきと言っている顔は、特に深いことなど考えていなさそうで。
 アッシュは己の眉間に皺が寄るのを自覚した。


「くだらねえ。テメエで持って帰れ」

「えー、何でだよ。幾ら何でもこんなに沢山、食べきれるわけねーじゃんか」

「それこそ俺の知ったことか」

「そっちだって女いるじゃん。アリエッタとか、リグレットとか。持って返ってやれば?」


 皆で食べればいいじゃん。
 そんなことを何でもない顔で語るルークに、オマエの頭にはちゃんと中身が詰まってんのか、とアイアンクローをかましつつ問い質したい気分に駆られた。
 六神将として確かに組織として同じ位置にはいるものの、寝食まで共にしているわけではない。
 というかむしろ、仕事以外での付き合いはほとんどない。

 コイツの脳内ではまさかあの個性豊か過ぎる面々が一緒に食事してたりするんじゃねえだろうな、と非常に不快な気分だった。
 あまつさえそれを一瞬想像しかけて、慌てて己の思考を打ち切る。


「いーんじゃない? 結構オイシイよこれ」


 横槍は、意外なことにシンクから入った。
 嫌な顔を隠そうともせず声の発生源を見やれば、ケーキの一つをもくもくと咀嚼しているシンクの姿があった。
 ルークが嬉しそうに、だよな、そうだよな、などと頷いている。


「……勝手にしろ」

「そーこなくちゃな。ちゃんと箱も貰ってきたんだぜー?」


 ルークが小脇に抱えていた、恐らくこれも撮影用に置いてあった小道具なのだろう箱を嬉々として組み立て始める。
 …が、いかんせん手際が悪い。
 箱入り状態で育ってきた事を考えれば出来ない事が色々あるのはまあ仕方ないとしても、自分の同位体のはずなのに不器用なのは何故なのか。
 考えても仕方ない。
 アッシュは一つ溜め息を吐いて、ルークの手から箱を取り上げた。


「アッシュ?」

「見てらんねえ。いいからテメエはさっさと選んじまえ」

「お、おう」


 箱の組み立ては別に難しいことなど一つもなく。
 これで四苦八苦出切るのは別の意味で才能があるのではないかと考えてしまった。
 箱を組み終え、ふとルークを見やればケーキではなくまじまじとアッシュに視線を向けてきており。
 その不躾な視線に一瞬たじろいだが、すぐに不機嫌も露に問い質した。


「何か用か」

「や、そうしてるとホントに菓子職人みてえだなーって」


 きらきら。
 今のルークの視線を擬音語にするならそんなところか。
 バカな事言ってねえでさっさとしろこの屑が、とでも怒鳴ってやろうとしたのだが、思わぬ視線に言葉に詰まってしまった。
 そんなアッシュの思考に気付く筈もないルークは、自分の格好を見下ろして首を傾げる。


「でも何でかな。ほとんど同じ格好してんのに、アッシュが着ると職人って感じするよな。パリっとするっていうか……」


 アッシュは称号「菓子職人」を手に入れた。

 聞き覚えのある音がどこからともなく聞こえてきた気がして、思わず額を押さえた。
 戦うコックさんならぬ戦うパティシエか。


「よし、決めた。クッキンガーに、俺はなる!」


 料理だ、料理を極めるぜ。
 どこぞの海賊のキメ台詞くさいものを言いながら拳を握るルークの耳には、あの音は聞こえなかったらしい。
 しかしながらアッシュはしっかり確認してしまった。

 ルークは称号「パティシエ見習い」を手に入れた。


「……頭イテエ……」


 思わず呟いたアッシュが「菓子職人」のコスチュームをその後どうしたかは……アッシュのみぞ知る。



END


 

 

番外編ていうか、何ていうか。
ケーキを前にきゃいきゃい言う人たちを書きたかっただけなんだが…
どこをどう間違ってか「クッキンガーに、俺はなる!」に(笑)


Web拍手掲載期間→??不明

 

 

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