矛盾と相対性と二律背反



 きっと、いつまで経っても。どこまで行っても。
 例え残された時間が僅かなものではなく、この先長い年月が与えられたとしても。
 アイツには追い付けないんだろうなと、思った。
 絶望感も悲壮感もそこにはなく、ただ漠然とそう考えた。
 あるものをあるがままに、呼吸をするように自然とそんな考えに至ったのだ。
 なんて皮肉なんだろう。
 物理的には同じ存在なのに。だからこそ、追い付けない。道は交わることはない、なんて。

「…分かってるよ」

 誰にともなく、呟く。
 分かってる、分かたれたその瞬間から、もう同じではなくなってしまったこと。
 追い付くも追い付かないもなく、そもそもの歩む道が違うのだから。
 それでも、思考は堂々巡りを続けていく。逃れられない輪の中にいるかのように。
 …この、憧憬とも焦躁ともつかない感情は、どこからくるんだろう。
 指先が痺れるような、じわりと広がる痛みにも似た感覚がある。

「届かなくても、俺は」

 言葉は、最後まで言い切られることはなく。
 口の中の苦みばかりが、意識に残った。



アシュ←ルク

 

 


Web拍手掲載期間→2007.4.10〜2007.5.26

 

 

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