気持ちが伝わるその一瞬に ヤバイな、とは思ったんだ。 だって俺、自他共に認めるぐらい涙腺弱いから。 前評判とかCMとかで情報聞く限り、感動巨篇っぽかったし。 ハリウッドなんとかかんとか、ってーのもキライじゃないんだけど。アクション物とかは見ててスッキリするし。 でも俺は実は、しっとり静かに、じんわり心に響いてくるような物語がいちばん好きなんだ。 …まあ、そういう話ってのは大概が泣ける系で、ご多分に洩れずに俺はそういうのを見ては泣くんだけども。 とにかく、そんなこんなでヤバイな、と思ってた。 でもさすがに「ピーターパン2」を大の男が二人して見るのは…人としてどうだろうかって思ってさ。いや、別にそれが悪いとか言ってるんじゃなく、ただ単に俺が恥ずかしいからなんだけどさ。 ま、ともかく。そんなこんなで映画を見ることになったわけだ。 面子は、俺と司馬。 そ、いわゆるデートってヤツ。 デートに映画ってさ、ベタな感じで面白いじゃん? それに、ホラ。 映画館て暗くなるじゃん。 そういう場所でなら、手とか堂々と繋げるし。 いや別に、人の目がある場所で繋ぐのが恥ずかしいとか後ろめたいとかそんなんじゃ全然なくて。 司馬って赤面症だから。 それを一人目に晒すのを俺がイヤだっつーか。 ……だって、カワイイんだよ。 照れてる時の司馬って、すっげカワイイの。 だから誰にも見せたくない。 けど、映画館の暗闇の中でなら司馬がどれだけ赤面しようと、落ち着かなげにわたわたしようとそれが人目に触れることはないから。 そんなこんな、まあハッキリ言ってめちゃくちゃ不純な理由から。 俺は司馬を映画に誘ったのデス。 最初は。 そう、最初は、不純な動機のためだった。 だから、最初こそ隣りに座る司馬を見ては、こっそり笑ったりしていたのだけれど。 話が進むうちに、天国はどうしようもなく映画に引き込まれていて。 握った司馬の手を離すことも忘れたまま、スクリーンに見入っていた。 親子、夫婦、兄弟、友人、恋人… 甦る、黄泉がえる人たち。 その存在を喜ぶ人、驚く人、或いは途惑う人。 主人公は、その人知の及ばない力を前に最初こそ笑い飛ばすかの如き態度だが。 やがてその現象の只中に於いて、逃れ様も無い葛藤に飲み込まれていく。 終盤、涙腺が壊れてしまったかの如く泣いていた天国の目の前に、ハンカチが差し出された。 天国はそれを受け取り、頬を拭った。 溢れる涙は止まらなかったが、司馬の渡してくれたハンカチは司馬の匂いがして。 それは少なからず、天国の気持ちを落ち着かせた。 そんな天国の心境を察したのか、司馬は握った手にそっと力を込め。 天国はその手をぎゅうっと握り返した。 伝わる体温が暖かくて、それが嬉しくて、また涙が溢れた。 映画が終わって。 未だ涙が止まらない天国の顔を、司馬がそっと覗き込んだ。 「あー…ゴメン、司馬。ちっと待って。も少ししたら……」 止まると思うから。 ごしごしと目元を擦りながら、天国はふっと泣き笑いの表情になる。 自分で言っておきながら余り説得力がないな、と思ったからだ。 溢れる涙は、多分しばらく止まってはくれない。 ああ、どうしようか。 そう思ったのはきっと、二人同時にだったのだろう。 司馬は、しばらくおろおろと泣き続ける天国を見ていたのだが。 やがて何かを決心したかのように、きゅっと唇を噛み締めた。 そんな司馬の微かな変化を感じ取ったのか、天国がふと司馬に視線を向けた。 何? とばかりに首を傾げてみせる。 それは、いつもなら言葉を紡ぐことの無い司馬がする仕草で。 司馬はそんな天国の髪に手を触れ、そっと撫でた。 「し、ば…?」 泣いているせいで声が震える。 それを少し情けなく感じながら、天国はただ司馬を見ていた。 泣いているせいで、思考が上手く働かなかった。 泣き腫らした目でぼんやり司馬を見つめる天国の目の前で。 司馬がゆっくり、サングラスを外した。 いつもなら人前では決して外す事のない、司馬にとっての砦のような濃いブルーのグラスを。 ゆっくりとした動作で、外した。 天国がその素顔を見るのは、これが初めてではないのだけれど。 自分の目の前で何が起こっているか、ぼんやりした頭は把握してくれなかった。 「ぅ、わっ……」 そうこうしているうちに、すい、と司馬の手が眼前に迫ってきて。 驚いた天国が反射的に目を伏せると、司馬はそんな天国の顔に外したばかりのサングラスをかけた。 「司馬っ、何だよコレ、一体何……」 自分が泣いていたことも忘れて、天国は司馬に問い掛ける。 驚いた天国に、司馬はふっと微笑を向けると。 そのまま天国の手を引き、椅子から立たせた。 いつもの司馬からは考えられない、強気な、強引とも言える態度。 天国はそれに途惑いを感じながらも、手を引かれるまま歩いていた。 それが他の人から見るとどんな風に見えるんだろう、とか。 一瞬そんなことが頭の端を掠めたけれど。 サングラス越しに周りを見ると、皆他人のことなんて見ていないようだった。 映画の感想を言い合うおばさん、この後どこに行こうかと話し合う女の人、涙目の女の人の肩を抱いている男の人… 皆、各々の世界にいる。 きっと、人は自分が意識するほど自分のことを見てはいないのだと。 そういうもんなんだろうな、と。 ぼんやり考えながら、天国は司馬に手を引かれるまま映画館を後にした。 適当に歩いて、落ち着いたのは公園のベンチだった。 日も落ちて冷たい風が吹き始めたこの時間帯の公園には、誰もいなかった。 サングラスを司馬にかけさせられた瞬間は驚きで涙が止まりかけはしたものの。それでもやっぱり天国の涙は止まることなく。 天国は頬を伝う涙を、司馬に渡されたハンカチで何度も何度も拭っていた。 司馬はその横で、何を言うわけでも何をするわけでもなく、ただ座っていた。 天国の手を、握ったまま。 そういえば。 そういえば、とふと天国は思った。 映画館で天国の方から司馬の手を握ってからもうずっと、この手を離していない。 自分はまだしも、司馬は少し大変だったんじゃないかと思う。 片手だけでハンカチを差し出して、サングラスをとって、それを俺にかけて、それから俺を立たせてここまで連れてきて。 「司馬、ゴメン」 ようやく落ち着いてきた天国は、すうっと息を吸うと、そう言った。 司馬はそんな天国に、ふるふると首を振ってみせる。 サングラスをしていない今は、いつも隠されているその目がしっかり見れて。 透き通るような色のその瞳が、天国は好きで仕方なかった。 けれど。 「コレ、返す。あんがとな」 かけていた司馬のサングラスを外し、押し込むようにその手に渡した。 少しだけ。 本当に少しだけだったけれど、その声音に混じる憮然とした響きに。 司馬は困ったように、どこか悲しげにも見える表情で首を傾げた。 自分が何かしてしまったのかと。 そう思っているらしい。 「早くかけろってば」 そんな司馬に、天国は憮然とした(と言ってもそれは見る限り普通の表情なのだが)まま、そう告げる。 司馬は神妙な面持ちで頷き、言われるままサングラスをかけた。 それを確認した天国は、ようやく表情を和らげる。 と言っても目元に涙が溜まっていたため、どう見ても泣き笑いになってしまったのだが。 ともかく、天国がようやく笑ったことに安堵したのか、司馬も緊張を解いた。 「あのな」 こほ、と咳払いを一つして。 天国は苦笑いを浮かべた。 「別に怒ってる訳でも、拗ねてる訳でもねーからな?」 天国の言葉に、けれど司馬は納得しきれないようだった。 まぁ無理もないか、と天国は思う。 自分が司馬と同じ立場だったら、やっぱり納得なんてできないだろうから。 「泣き顔、隠してくれたんだよな?」 問いに返って来たのは、頷き一つ。 「それは嬉しいし、感謝してるよ。けど」 そこで一旦言葉を切ると、司馬は続きを促すように天国の頬に空いている手で触れた。 触れる指先の暖かさが心地良くて、一瞬目を伏せて。 けれどすぐに瞼を上げると、まっすぐに司馬を見つめた。 眦に涙を溜めたまま、天国は司馬に向かってふっと笑む。 「その為にお前が素顔を晒したのが、俺はヤだったんだよ」 その言葉を聞いた司馬は少し驚いたようだったが。 すぐに、どこか困ったように眉を寄せながら天国の頬に触れていた指先で、その頬をなぞった。 指が辿ったのは、涙の痕。 「俺の泣き顔を見せたくなかったって? なんだよ、同じ理由かよ」 言って、天国は肩を竦めた。 頬に残る涙の痕がどこか痛々しい。 司馬は、ゆっくりゆっくり、壊れ物を扱うように丁寧に、指先で天国の頬をなぞっていた。 「司馬、くすぐったい」 笑いながら言うが、司馬は天国の目元に触れて。 「あ? まだ涙目だって? ……仕方ねーじゃん、俺、涙腺弱いんだから」 むう、とむくれつつ言う。 大分落ち着いたらしいことを見て取ってか、司馬の手は最後に天国の髪をくしゃりと撫でてから離れていった。 ぬくもりが離れることを少し惜しく思って、天国は僅かに目を細める。 と、それを感じ取ったかのように司馬が握っていた手に少しだけ力をこめた。 伝わってんじゃん。 それが嬉しくて、天国は笑顔になる。 幸せそうな表情に、司馬もふっと口元を緩めた。 「司馬さぁ」 泣いたせいで目が腫れぼったい。 そのせいでかどうしても少し視界がぼーっとする。 そのぼんやりした目で公園の中を見渡しながら、天国は話を切り出した。 何、と聞き返す代わりに司馬が自分の方を見たのが分かる。 天国の目は、公園の遊具やベンチに向けられたままだ。 「さっきの映画、どうだった? 俺、は……見ての通り、だったんだけどさ」 今更ながらに大泣きしてしまった事実がこみ上げてきて、なんだかいたたまれない気分になりながら天国は聞いた。 すると、司馬は答えるかわりに天国の肩をぽん、と軽く叩き。 天国は司馬のその行動に怪訝そうに眉を寄せた。 「猿野は、って。何だよ、質問に質問で返すなよな」 口では文句を返しながら、けれど天国はその質問に答えるべくうーん、と首を傾げる。 「色々泣けはしたんだよなー。ホラ、ラーメン屋の旦那さんがさ、バイト君に奥さんを頼むって言った場面あんじゃん。自分は傍にいてやれないって分かってて、奥さんが助かることもなんでか分かってて。置いて行くことを分かってて、それが苦しくて仕方ないだろうにそれでもって言うのがさー…」 切なかった、と天国は軽く首を振った。 「あ、でも俺それもそうだったんだけど、その後のがヤバかったかも。兄弟がキャッチボールする場面」 そこまで言って、ようやく天国は司馬の方へ顔を向けた。 司馬はそんな天国の手に、己の手を重ねた。 「あ、お前もあの場面好きって? ああ、うん、あの場面での兄貴のナレーションがな…うん、切なかった」 言いながらまたも涙が再来したらしい天国は、ポケットから慌ててハンカチを取り出して目元に当てた。 「後さ、も一つ。終わってさ、エンドロール流れ出してもお客さんが立たなかったじゃん。アレがまたなんか感動した」 そう、天国の言う通りだった。 映画が終わり、スクリーンにエンドロールが流れ出しても客席から立つ人間がいなかったのだ。 無論それは天国たちよりも前の座席しか分からなかったが、それでも見ている限りエンドロールが終わって会場が明るくなるまで席を立つ人はいなかった。 「あんなん初めてだったから、なんかすっげーなって思ってさ。でもいいよな、ああいうのって」 天国の言葉を聞きながら、司馬は正直驚いていた。 確かに、天国の言う通りエンドロールが流れ終えるまで席を立つ人間がいなかったことには驚いたし、感心した。 けれどそれ以上に、天国がそれをちゃんと見ていた事実に驚いた。 あんなに泣いていたのに。 それでも周りをちゃんと見ていたのだ、天国は。 侮れないな、やっぱり。 司馬が内心でそう呟いたのを、天国は知らない。 「あ」 「?」 「ゴメン、コレもお前のじゃんな。今度洗ってから返すから」 借り物のハンカチは、役目をしっかり果たしたせいでしっとりと湿っていた。 それを握り締めながら、天国は俺こんなになるまで泣いたのか、と改めて思う。 「あとさ、曲。俺、なんかあの時の曲がすっげ印象に残ってんだよ。サビしか覚えてないんだけど、歌詞も好きな感じでさ……」 呟くような声音で話しながら、天国は手にしたハンカチをきゅうっと握り締める。 映画を見ながら、やっぱり同じように渡されたハンカチを握り締めていた。 片手は司馬の手を、もう片方には司馬のハンカチを。 ……なんだかめっちゃラヴじゃんな、俺。 いやまぁ、好きだけどさ。 さりげなく惚気を交えた思考をしていた天国だが、司馬が顔を覗き込んできたことで我に返る。 「あ、悪ぃ。ちょっと考えに沈んでた」 軽く謝ると、司馬は首を振る。 その動きに合わせてさらさらの髪が揺れるのが、何故だかひどく愛しく思えた。 「”始まりはどこでしょう、終わりはどこでしょう、どうかとどめを刺して”」 目を伏せ、天国は低い声で歌い出した。 決して声を張り上げるわけでもないのに、何故かよく響く声。 「”生まれ変われません、あなたがいないから、この世はひとり”」 司馬はサングラスの奥から、ジッと天国に視線を注いでいた。 目を伏せて歌う天国は、とても穏やかな表情で。 司馬は知らずのうちに握り締めた手に力を込めていた。 「”あなたしかいません、他にはいりません、すべてと引き換えても 泣き叫んでいます、気が狂いそうです、かなしいよおぼろ おろかに生きてました、でもしあわせでした、恋は生きいそぐもの かくせぬ想いです、月がにじんでいます 眠れぬおぼろ”」 歌い終えて、ふうっと息を吐く。 その全てを、司馬は瞬きすることすら忘れて見つめていた。 天国の手を包み込むように両手で握っていたことすら、無意識だった。 伏せていた目を、ゆっくりと開ける。 「……見すぎ」 「!」 「そんな、刺すような目で見んなよな……照れる」 天国の言葉に、ようやく己の行動を自覚した司馬は一気に赤面し。 握っていた天国の手もパッと離し、慌てて頭を下げた。 ゴメン、と言いたいらしい。 大胆な照れ屋……幸せなヤツ。 思わず天国が内心でそう呟いてしまったのも、些か仕方がないことだったかもしれない。 「いい唄だよな。そう思わねー?」 問いに司馬は顔を上げて。 赤面したまま、こくこくと頷いた。 すっかり"照れ屋な司馬"に戻ってしまったらしい。 天国は微笑し、勢い良くベンチから立ち上がった。 夜も更けてきて、いい加減風が冷たい。 こんな所で風邪でも引いたら、それこそつまらないから。 「司馬、かえろうぜ」 あっちの噴水の横通って、と指し示し天国は歩き出した。 まだ顔の熱が収まらないままの司馬は、慌てて立ち上がると天国の背を追う。 噴水はとっくに終わっている時間らしく、水面は穏やかに夜の街灯を映しているだけだった。 天国はそんな噴水を覗き込み、司馬を手招く。 「光が反射してんの、さっきの映画で見たのに似てる」 きらきら、きらきら。 揺れながら輝くそれは、確かに先ほどの映画で見た映像に似ていなくもない。 明るい夜の街は、さっき見たばかりの映画からはかけ離れているなと司馬は思っていたのだけれど。 天国は、そんなネオンの中から、ちゃんと星を見つけ出した。 自分にはできない、と司馬は思う。 それが見つけられる天国は凄い、と。 「…う、ん……似てる、ね」 「あ、喋った。司馬クンの声聞けるの久し振り〜♪ 明美嬉しいわぁv」 滅多に聞けない司馬の声に、瞳を輝かせながら天国が腕を絡ませてくる。 しなを作ったりしてふざけて見せてはいるものの、それが照れ隠しに過ぎないことを司馬はちゃんと知っていた。 「猿野は……」 「なあに?」 「きれい、だね」 「は?!」 明美化することも忘れ、天国が目を剥く。相当驚いたらしい。 腕を絡ませた体勢のまま固まってしまった天国に、司馬は微笑し。 「俺には見えないものを、見てる」 「な、何言って…」 「大好き、だよ」 言った次の瞬間、天国の顔が瞬く間に赤く染まった。 それこそ、普段の赤面症の司馬の如く。 けれど。 「さ、猿野?」 司馬が慌てたような声音を出したのは、天国がまた涙を零したから。 頬を伝う涙の痕が、ようやく消えかけていたのに。 また新たな涙がその頬を伝い、痕を残した。 「あ、えっと、ごめん」 自分が何かしたのだろうかとオロオロしてる司馬に、天国がようやく放った一言がそれで。 何だか余りに抑揚のない声音に、司馬の心配は余計増してしまう。 そんな司馬の様子に気付いた天国は、苦笑しながら首を振った。 「ちが、ホントに平気だって。ただ…」 言葉を切って、頬に伝う涙を拭う。 「嬉しくなった。好きだって言われて。そしたら自然に出てた」 「さっきの映画…?」 「うん。俺はしあわせだな。気持ちが伝わって、こうやって…どれだけ一緒にいられるかなんて分からないけど……でも少なくとも一瞬じゃないから。隣にいて、言葉を交わして、触れられるから」 「しあわせ……」 「ん、しあわせ」 こくり、と頷く天国を司馬はたまらなくなって抱き寄せていた。 泣きそうだったから。 「俺」 抱き寄せられたまま、天国が呟く。 少しくぐもった声は、それでも抱き寄せた本人である司馬にとっては何の問題もなく聞き取れる。 「俺、さっきの映画で司馬が一番泣きそうだった場面、知ってる」 少しだけ笑いを含んだ声。 「最後の、言葉だろ。”もっと一緒にいたかった”っての」 「……よく、分かったね」 「俺も同じだったから。それにあの時、お前俺の手少し強く握ったじゃん」 ああ、泣きそうなこと言わないでよ。 さっきよりも、もっとずっと、泣きそうだよ、猿野の言葉一つで。 「今も、泣きそう?」 「…………」 「しーば」 「……うん」 頷いて、抱き締める腕に力を込める。 逃がさないと。離さないと。どこへもやらないと。 そう、言葉で伝える代わりに。 「司馬」 司馬の背中に腕を回し、ぽんぽんと子供をあやすように軽く叩きながら呼びかける。 おそらく返事は返ってこないだろうと思ったから、返事は待たずに言葉を続けた。 「大好きだからな」 返事の代わりに、司馬は天国の髪に唇を寄せた。 その頬に涙が伝っていたのに、天国は気付かないフリをした。 気付かないフリで、目を伏せた。 END ◆後日談◆ 「教えてやろっか」 「?」 「俺がさ、あんなに泣けた理由」 「……(こくり)」 「ヒロインの名前ー」 「…!」 「葵、なんだもんなぁ。もー、勘弁してくれよってぐらい感情移入」 「……(赤面)」 「司馬はアレだろ、葵よりRUIのが好きだろ」 「……?(こく)」 「そりゃ分かるって。だってお前、ああいうイチャイチャ好きだし」 「……!!(更に赤面)」 「あーあー大丈夫、葵ちゃん?」 「っ!!」 「あ、逃げやがった……つか転んでるし。大丈夫かねアリャ」 「誰のせいだと思ってんだよ、天国」 「おや、下僕こと沢松クン」 「下僕言うなっつの。あんま遊んでやるなよなー、司馬サン気の毒に」 「俺の愛は痛いってこった♪」 「……(ご愁傷様、司馬サン…)」 |
100題・課題46「名前」をお送りしました。 また微妙に課題に沿ってるのか沿ってないんだか、な内容ですが。 いやあの、オチが、ね…(無理矢理) 映画「黄泉がえり」感想SS、という名目のもと2003.1.18の日記に書いた話。 歌詞引用があるので早々に日記から撤去してしまった為、 実際日記に置いてあったのはごく短い期間でした。 なので、実質ここで初出と言ってもいいかも。 UPDATE/2003.12.22 |
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