哀悼、鎮魂、感謝、別離 レムの搭を出て、ふと背後を振り返った。 障気が消えた青い空の下、天にも届かんばかりの高い高い搭が聳え立っている。 真っ白な搭は美しく、けれど今のルークにしてみればその色はまるで慰霊のように見えた。 レムの搭は元々、他の星へ脱出する為の手段の一つとして建設されていただのと聞き及んだ。 詳しいことは分からないし、専門技術的な話は聞いても理解できないだろうけれど、ただ一つ思うのは。 皮肉だな、と。 手の届かない場所を目指して造られた搭から、手の届かない場所へいってしまった人たちがいる。 あの搭を造ったのがどんな人間なのかは知らないけれど、それが皮肉以外の何になるだろうか。 白い白い搭。 哀しみと優しさで満ちた人が、空に還った。 ここは、墓なのだ。 誰が何と言おうと。 存在の証拠を何一つ残さずとも、確かに生きてこの世界に在った愛しくも寂しい人々の。 けれどそこに、墓碑銘は、ない。 これから先、刻まれることもない。 何故なら、存在していたのは名前も残さなかった人たちなのだから。 そうしてそこに、本当ならば。 俺も、いるはずだった。 生きていたことに安堵し、同時に湧き上がるのは罪悪感だ。 レプリカであるとは言え、命を持っていた人を。 存在を奪い、消して、己は生き残った。 残った手に、肩に、背に今度はレプリカ殺しという罪を背負って。 それとも。 罪を背負っていたから、あの優しい人たちと共に逝くことが出来なかったのだろうか。 死を望んでいたわけでは決してないのだけれど。レプリカである自分が同じレプリカである彼らと同じになれなかったのは、言い様のない感情を呼び起こされる。 ある種疎外感、にも似たような。 搭の周辺には強めの風が渦巻く様に吹いている。 頬を撫でる、なんて可愛らしいものではなく、逆巻くように。 ゴ、と音を立てて煽られてルークは思わず目を伏せた。 視界一杯に広がっていた搭と青空が、瞼の裏の闇に塗り潰される。 瞬間、ルークは何か言おうと口を動かして。 ありがとう。 ごめんなさい。 さようなら。 浮かんだどれもが今の正しい心境ではあったけれど、どれもが相応しくないように思えた。 結果、ルークの唇は言葉を紡がないまま。 ゆっくりと目を開ければ、そこには変わらず搭がある。 抜けるような青空が、悠々と広がっている。 でも何故だろう、風の哭く音がひどく哀しい。 それでいて、優しい。 ルークは一瞬目を眇め、それから搭に背を向けた。 腕や脚にじわりと広がる疲労感に、ただ眠りたかった。 風が背中を押す。 風鳴りを耳にしながら、けれどルークは振り返る事はなかった。 END |
100題98・墓碑銘をお届けしました。 レムの搭はED後に世界を救ったレプリカたちの慰霊のシンボルになったような気がします。 というか、なってて欲しい。 青空の下に真っ白なレムの搭って綺麗だろうなあ、と思ってふわりと浮かんだ話。 慰霊碑って白っぽいイメージがあるんですよ。 ルークの思考はサバイバーズギルト(生存者罪悪感)っぽいけど。 生きてても、いいんだよー。 UPDATE 2007/7/24 |