普段あまり訪れることのない洗濯場。
 シーツや服が干され、風でパタパタと揺れている。
 そのありふれた光景に、何故か。
 ひどく安堵にも似た心地を覚えた。




  
 晴れた日、風の唄




「あら、シャオランさま。どうしたんですか?」


 洗濯場を訪れると、ヨシノが気付いて声をかけてきた。
 洗濯が好きだと言っていた彼女は、大概この場所にいるらしい。
 シャオランはこんにちは、と挨拶してから右手に持っていたスカーフをヨシノに示した。
 黄色いスカーフは、べっとりと泥がついて汚れている。
 それを目にしたヨシノがあら、と目を丸くした。
 シャオランは苦笑しながら、汚れた経緯を口にした。


「おいかけっこしてたんですけど、ほどけて落ちた先が水たまりで……」

「大変でしたね。でも、今洗えばすぐ綺麗になりますよ」


 かしてくださいな、と手を出されシャオランはスカーフを手渡した。
 真っ黒な泥汚れにイヤな顔一つすることなく、ヨシノはどこか楽しそうに洗濯をしていく。
 どこにでもありそうな光景だ。

 微かな水音と、吹き抜ける風に干された洗濯物がはためきたてる布の音と。
 ここには同盟軍も王国軍もない。
 戦争中だなんて、ここには届かない。
 何となくホッとして、その場に座り込んだ。
 別にこの場にいる必要はなかったのだけれど。
 吹きつける風が気持ちいいから、と言い訳のように心の中で呟いて。

 シャオランの気持ちを察してくれたのか否か、ヨシノも何を問うてくるでもない。
 ぱたぱたと音を立てて、真っ白なシーツや誰のものとも知らないシャツが揺れている。
 気持ちいいな、とただ素直に思えた。
 リラックスしたからか、自然に言葉が口から零れる。


「いい天気ですねー」

「ふふ、そうですね。洗濯物がすぐ乾いてくれるから、嬉しいです」


 シャオランさまのスカーフも夕方までには元通りですよ、とヨシノが言う。
 飾らない、気取らない口調はどこにでもいる女性でしかない。
 この城に集まるのは、大概が彼女のようにどこにでもいるような人たちばかりなのだ。
 そしてそんな人たちが送る日常を、何の変哲もないありふれたそれを護りたいと、シャオランは強く思う。
 特別なことなんてなくていい。
 大事な家族と、友人と、笑顔で日々を生きていければ。
 それがどれだけ幸せなことだろうか。

 ヨシノが洗い終えたスカーフをぱん、と小気味いい音をたてて広げた。
 黄色いスカーフが、沢山ある洗濯物の一つに紛れる。
 何となくそれが、嬉しく感じられた。


 ナナミが探しているかもしれないな、とふと思ったのだけれど。
 ぽかぽか照り付けてくる陽射しの暖かさと、吹きつけてくる風の心地良さに動き難くて。
 結局小1時間ほどしてから洗濯場を出たシャオランは、予想通りナナミにどやされた。

 …のだけれど、まあそれはまた別の話なので。
 座り込んだシャオランは、心ゆくまでのんびりした心地を味わったのだった。



END


 

 

100題64・洗濯物日和をお送りしました。
何故かいきなりゲーム。
しかも今更幻想水滸伝2。(5が出ています)
だって好きなんだもーん。
というノリで2主とヨシノ。まったりほのぼの。
実際洗濯場って言ったらミニゲームの場だったですが(笑)


UPDATE 2006/04/08(土)

 

 

 

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