孤独のガードレール





 待ち人来らず。



 ガードレールに腰掛けて、一体どれだけの時間が経っただろう。
 溜め息を吐いて、天国は携帯をぱちんと閉じた。
 メールも着信もない。
 分かっている。分かっていた、最初から。
 来る筈がないのだ。
 子供じみた我侭で取りつけた約束は、ひどく一方的で。
 約束なんて呼んでしまうことすら、きっと間違っていて。

 ただ、会いたいと思ったのだ。
 その想いを殺してしまうのは何だかあんまりにも可哀想な気がして。
 自身を哀れんだのでは、決してない。
 押し殺されて、どこへ行くとも知れず消えてしまう想いが、ただ切なく思えて。
 自己満足でも、無意味でも。
 バカだと笑われ呆れられ、蔑まれても。
 それでも、いいと思った。
 だから、ここへ来た。


「寂しいなぁ……」


 ぽつ、と呟く。
 何だか迷子になってしまったような気分だった。
 事実、迷子と大差ないのかもしれない。
 行く先が分からず、途方に暮れて座っているのだから。

 来ないことなど分かっているのに、離れることも出来ない。
 右手に握ったままの携帯が光ることは、きっとないだろう。
 どうしようもない孤独感と空虚さが胸の内を苛んで、その所為でここから動けない。
 もう帰らなきゃ、とは頭の隅で分かっているのに。

 太陽はとっくの昔に沈んでしまった。
 暗くなりだして、すぐ傍の街灯が灯りをともす。
 時折背後の道路を行き過ぎる車も、いつしかヘッドライトを点けるようになっていた。
 音を立てて過ぎ去って行く車は、まるでぎらぎらと目を光らせた知らない生き物のようで。
 いっそ俺を頭から噛み砕いてくれないかな、と思ったりもした。
 こんな想いごと、ばりばりと。

 泣きたいような気分なのに、涙の一つも出ない。
 涙腺の弱さは自他共に認めるものなのに。
 俯きながら、天国はふっと微笑った。
 泣いてしまいたいと思いながら笑う自分が可笑しくて、滑稽で。
 己の靴の辺りを見ながら、くすくすと笑った。

 感情が堰を切ると、色々麻痺してしまうんだなあ、と思う。
 一頻り笑った後、天国は静かに目を伏せた。
 黙したまま、指先一つも動かさずに。
 何も言わず、何も思わず、ただ座り続けていれば。
 このままガードレールと一体化できそうな気さえする。
 いっそその方が楽なのかもしれない、とも。


「ちくしょ……」


 苛立ちと孤独感が痛いほどに胸を突いて。
 かき乱された衝動のまま、天国は一言呻くように呟いた。
 頬を伝った涙には、気付かないフリで。

 握り締めた携帯は、ただ沈黙していた。


END

 

 

 

100題・課題12「ガードレール」をお送りしました。

ま、また微妙な話を……っ
浮かんだのが、ガードレールに座ってる天国しゃんだったので。
俯き加減の横顔を、時折通って行く車のヘッドライトが照らす、という絵が。

ちなみにこれは猿の相手誰だか自分でも設定してません。
お好きなようにv
こんな話ですが悲恋ではないかなー、と、か……


UPDATE/2005.6.10

 

 

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