日々徒然ときどきSS、のち散文 |
2005/08/24(水) |
嵐、前夜 |
空の色が変わるよ 吹き荒ぶ風の中 天を指差して 教えてくれた 「う、わ……すげえ、風」 唸るような風に、天国は思わず呟いていた。 遠慮呵責なく、荒れ狂うように風が吹き乱れている。 嵐の前触れだ。 「夜から雨降るってよ。上陸するらしーかんな」 「ふーん」 「うっわ、興味なさげな返事」 数歩前を歩く男に親切にもこれからの天気を伝えれば、あからさまにどうでもよさげな相槌が返された。 別にムッとしたわけでも、かと言ってがっかりしたわけでもないけれど。 気が抜けたのはまあ、確かなことで。 天国は軽く肩を竦めて、けれどめげずに言葉を紡いだ。 「なあ御柳。台風来るんだって! これからどーすんだよ」 今はまだ風が強い、程度だけれど。 これからもっと風は強くなるだろうし、雨も降ってくるだろう。 交通機関の停止も考えられる。 だから天国は、これからどうするのかさっさと決めて欲しかった。 この場で別れても別にいいし、どちらかの家にお邪魔することになっても構わない。 台風の所為で明日の部活は休みになったから、泊まりになっても問題はなかった。 尚も黙ったまま歩き続ける御柳に、焦れた天国が三度口を開こうとしたその時。 先を歩く御柳が、くるりと顔を向けた。 ひたりと見据えられ、天国は一瞬息を忘れる。 「俺んち。泊まり、来る?」 小さく笑って、けれどそれ以上に真剣な目で。 御柳は吐息のような声で、そう言った。 呟きのような言葉だったのに。 耳を穿つような風の音は鳴り止んではいなかったのに。 御柳の言葉は、すとんと天国の元へ届いた。 「おう、行く」 ほとんど考える間もなく、迷いもせずに答えが口をつく。 返された言葉に、御柳は刹那瞠目し。 すぐに笑うと、また前を向いてしまった。 嵐が来る。 逃れられない、避けようもない、嵐が。 御柳の目に見据えられた、御柳と視線を絡めたその時。 何故だか理由は分からないけれど、そう思った。 予感、というより確信に近い強さで。 耳の横で唸る風の音は、もう気にならなくなっていた。 同じだけの強さで、鼓動が速く強くなっていたから。 密かに拳を握って、息を吐く。 逃れられない嵐なら。 真正面から、受けとめてやるだけだ。 『嵐、前夜』 またも筆馴らしSS。 台風が来るぜー、な感じで芭猿。 こういう、話の途中の一場面、みたいなのならぽんぽん浮かんできます。 浮かんだ場面の前後に色々肉付けをして一本の話にするわけなのですが。 ……無駄な肉を削ぎ落としてある方が、案外あっさりでいいのかも? でもこれじゃ、あんまり短いかなあ、と。いうわけで。今日もSSとして放置です。 鉛色の雲が流れてくるのが 恐くて 手を握ったの 赦してくれたのは どうしてか 聞いてみたなら 怒るかな |