日々徒然ときどきSS、のち散文
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2005/05/20(金)
SS・ミスフル]初夏を言祝ぐ鳥の声(猿、2年五月)


 ひゅ、と。
 空気を切り裂くように、黒い小さな鳥が飛んだ。
 鳥はそのまま電線に止まると、ちゅるちゅると囀り始める。


「ツバメじゃん……」


 別段珍しくもない渡り鳥。
 初夏から初秋の間だけ姿を見ることが出来るその鳥は、天国の中で夏を象徴する鳥というイメージがあった。
 電線に止まったツバメは、何事かを話すように長く囀っている。
 それを見上げながら、もうすぐ夏なのか、とまるで他人事のように思った。

 夏がくる。
 きらめくような青空と、差すように眩しい金色の陽光。
 考えるだけでも身の内が滾るようなざわめくような、そんな気分になる。

 どこまでも広がるような青い空に、特大のホームランを放つのはただ純粋に楽しい。
 打つ、それだけでも充分に楽しいけれど。
 夏空に、白い鳥を羽ばたかせるような気分になれるから。
 真夏の空に向かって打つのは、天国にとって少なからず特別だった。


「あ」


 ちちちっ、と声だけを残して。
 見上げていたツバメは、どこへともなく飛び去ってしまった。
 何となくそれが残念に思えて、そんな風に思えてしまった自分が可笑しくて。
 一瞬呆けた天国は、くつくつと笑い出した。

 夏がくる。
 それに高揚している、そんな自分に気付いたら可笑しくなった。
 何もしていなくても、季節は巡る。
 秋がきて冬がきて春がきて、夏がくる。
 それは当たり前の事なのに。

 季節の訪れを楽しみに思う、なんて。
 野球を始める前の自分だったら、きっとありえなかった。
 これまで知る事もなかった感情、けれどそれは暖かくて心地いい。


「今日も、かっ飛ばすぜー!」


 誰にともなく言って。
 天国は、掲げた拳を太陽に向かって突き上げた。



END




ツバメが来ると夏な気分なのは金沢です。
でも猿、夏の前に梅雨とテストだよ?(笑)

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