日々徒然ときどきSS、のち散文 |
2004/12/25(土) |
[SS・ミスフル]Happy merry christmas!(芭猿) |
クリスマスの早朝に、唐突な乱入者。 「出かけんぞー、天国」 「うへ?」 「ほいコート着て、マフラーして。ん〜、お前寒がりだから手袋もしとこっか」 ぽいぽいぽい、と。勝手知ったる他人の家、とばかりの勢いで御柳は次々に目的の品を手にしていく。 この部屋の主である筈の天国は、突然のことにただ呆然とその様子を見ていた。 そうこうしているうちに、御柳の手によってすっかり出かける支度を整えさせられてしまう。 コートを着せられ、マフラーを巻かれ、手袋を手渡され。 「帽子も被っとくか。暑いときは脱ぎゃいいし」 ニット地の黒い帽子を被らせて、御柳は満足げに頷く。 天国は目を瞬かせながら、小さく首を傾げた。 「ああ、ども……って何なんだよいきなり! 前触れないこの行動はっ!?」 「あん? 最初に言ったじゃん、出かけるぞって」 「人の意思にも予定にもお構いなしかい!」 「どーせ暇してるんっしょ? 世の中がクリスマスで盛り上がってる今日っつー日に」 「うぐ」 「それを解消するべく、愛しの恋人が有意義な時間を過ごさせてやろうと来てやったんじゃん。抵抗する理由なんてねーっしょ?」 マフラーを整えながら言う御柳の表情は優しい。 普段が普段なだけに、そんな表情を見せられるとどうにも弱い。 天国は少し頬を染め、巻かれたマフラーに口元を埋めた。 「……んな朝から来るんなら、昨夜にでも連絡しろよな」 「驚きってーのも喜びには重要なスパイスっしょ」 「いーけどさ。どこ行く気だよ」 「お台場ー」 「……はい?」 あれよあれよという間に、強引な恋人に連れられてやってきた所謂デートスポット。 到着した駅で見た時計は、十時を少し過ぎたところを示していた。 何が嬉しいのか分からないが、それでも確かに隣りを歩く御柳はどことなく嬉しげな雰囲気を漂わせていて。 少し逡巡した後、天国は御柳に問い質すことにした。 くい、と御柳のコートの袖を引く。 「なあ、みゃあ?」 「んー? お前、寒くね? 平気?」 呼ばれた御柳は、天国の方へ顔を向けながらそんなことを言ってきた。 通常が常人のそれからすると少しばかり鬼畜入っている御柳からそんな言葉を聞くと、どうにもこうにもむず痒いような気分になる。落ちつかない。 優しさを知らないわけではなかったが、今日の御柳はそれにしても妙だ。 その優しさを嬉しいと感じている自分がいるのもまた、事実なのだけれど。 そんなことを考えた自分に、ああしょうもねーな、と思ってしまう。 「それは平気だけどさ。てか、マジ何しに来たんだよ? そんなに見る所もないじゃん」 球体展望台が有名な某テレビ局にでも行くのかな、と思えば駅を出た御柳は別方向へ歩き出すし。 向かう先にあるのは、大型ショッピングモールとライブハウス、それから一際目を引くのは巨大な観覧車だった。 乗ったことはないけれど、その存在は天国も知っていた。夜になると様々な色の光で彩られるそれは、カップルに人気なのだと何かの雑誌で読んだ覚えがある。 間近でそれを見て、まぁ分かる気もするなと思った。 この大きさならば頂上まで行けばかなり見応えのある景色が拝めることだろう。 おまけに観覧車と言えば密室なわけで。 恋人たちが夜景を見ながら愛を語らうその図が安易に想像できた。 「アレ、乗ろうぜ?」 「はぁっ?」 「観覧車。お前別に高いトコ平気っしょ?」 ぴ、と御柳の指が差し示した先は、紛うことなく天国が思いを馳せていた観覧車に向けられていた。 朝から驚かされてばかりだったのだが、まさかよもやそんなことを言い出そうとは微塵も予想していなかった天国は目を瞬いて硬直する。 そんな天国を、御柳は上機嫌に鼻歌を歌いながら引っ張って行ったのだった。 「……ホントに乗るとは思わんかったわー」 「なんで関西訛りなんだよ」 「いや、まあ、なんとなく」 乗り込んだ観覧車の中、遠ざかる地上を眺めながら天国は呟いた。 営業開始時間すぐだった所為もあってか、観覧車にはすぐに乗ることができた。 これで並んだりしようものなら、天国は脱兎のごとく逃げ出していたのだろうけれど。 我に返る時間を与えて貰えないまま、気付いたら動き出した観覧車の中に居た。 観覧車に乗ること自体、あまりに久し振りのことだった。 幼い頃は遊園地に行っても結構乗っていたのだけれど。 ある程度物心つくと、観覧車にもあまり乗らなくなっていた。ゆっくりと上がるだけの乗り物は、正直退屈で。 久しく遠ざかっていたせいか、久し振りに乗るそれはなんだか新鮮だった。 「夜より昼のが穴場なんだよな、こういうの」 「ふーん」 「夜景目当ての奴らが多いから、夕方からすっげ混むんだってよ。俺の知り合いここでバイトしてたから聞いたことあんだ」 「……ホントかよー?」 「俺は確かに嘘吐きだが、お前には嘘つかねぇよ。つきたくねぇから」 あ、嬉しいことさらっと言いやがったこのタラシ。 不覚にもどきりとしてしまった心臓を宥めつつ、天国は何となく座り直した。 観覧車が高く上がっていくごとに、見渡せる景色も雄大なものになっていく。 一周するのに15分程度だと、乗る前に見たような気がする。とすると、もう暫くで頂上だろうか。 「さすがにこっからじゃ埼玉は見えねーなー」 「見えたら見えたでどんな視力だよって思うけどな」 「ていうかさ」 「んん?」 「何なのお前、今日」 膝の上に置いた手を、緊張からきゅっと握り締めて。 ずっと問いたくて仕方なくて、けれどタイミングを逃し続けて言うことが叶わなかった言葉を、ようやく口にする。 早朝に自宅を訪れたその時から、何だか知らないけれど御柳はやけに優しくて。 別に普段が優しくない、ということではないのだけれど。 その、素直じゃない、素直になれない不器用かつ捻くれた優しさも天国には好きだと思える部分だったから、こうも全面に優しさを見せられると。 正直、途惑う。 それが素直な思いだったりした。 天国の問いに、御柳はことんと首を傾げて。 癖のない髪がさらりと揺れるのを見ながら、ああやっぱりコイツは綺麗な顔をしているのだと。今更ながらのことをぼんやりと考えてみたりした。 こうして付き合うようになるまで、紆余曲折があった。 付き合ってからも、数え切れないくらい色々なことがあった。 どうして今、こんなことを思い出すんだ。 なあ御柳。お前、どうして俺がイイ、なんて言い出したんだよ? お前なら、我侭も言うことも全部聞いてくれる女のコも年上のお姉さんも、手に余るほど居たんだろうに。 残酷な問いが口をついて出る前に。 口の片端を上げて笑った御柳が、言葉を紡いだ。 「何なの、って? どーゆー意味だよ?」 「ど、どういう意味もこういう意味も……」 「言ってくんなきゃ分かんねっしょ?」 「何つーか、いつもより優しいっつーか、だから何か調子狂うってか、さ……」 語尾が小さくなるのは、まあ仕方ない。 優しいから調子が狂う、と言ってしまうのが失礼だと分かってはいたし。 何より直前まで考えていたことが御柳に知られてしまうのではないか、と。 そんなことを考えて。 心なしか小さくなっている天国に、御柳はふっと笑う。 笑って、向き合うように座っていた正面から、天国の隣りへと移動した。 カップルで乗ることを想定して作られている所為なのか、二人の男が隣り合って座っても狭いと思うことはない。 けれど唐突な御柳の動きに、天国はぱしぱしと目を瞬いた。 「キスしよっか、天国」 「……はい?」 「両隣り誰も乗ってねえから、見られる心配もねぇし」 空いてる時間帯の観覧車は、これも狙い目なんだよなと御柳は笑う。 やっぱり、優しい目で。 「隣り、ちっと見てみ? 案外様子見えるもんだろ」 「ふあ……あ、ホントだ。結構、見えるんだな」 「な? てなわけで、しよ」 「え、いやあの、ちょっと」 有無を言わさぬ強さで、肩を抱かれた。 ここで抵抗しても無駄なのは分かっていたし、その理由がない。 観念して、天国は目を伏せた。 照れないと言えば嘘になるけれど、もう慣れてしまった感触が唇に触れる。 その熱は、いつでもひどく優しい。 触れて、重なって、一度離れて。 熱い舌が、ノックするように天国の唇を舐め上げた。 それに応えるように薄く唇を開けば、するりと口内に入り込まれる。 背中が震えるのが、自分でも分かった。 「ん、ふ……く…ぅ」 「んん……」 意図せず、くぐもった声がもれる。 御柳のどこか上機嫌そうな声が続いて耳をくすぐり、コイツも気持ちいいんかな、などとふと思った。 天国の肩を抱く手、その指先が悪戯に髪の先を引く。 そんな些細なことでさえ、快楽へ繋がる刺激になるのだと。言葉ではなく天国に教え込んだのは他でもない御柳だ。 生き物みたいだ、口内を好き勝手に蠢く御柳の舌に、いつもそんなことを思う。 自由自在に、けれど的確に天国の弱い部分を突いてくる。 最初こそハッキリキッパリ経験のなかった天国は、キス一つで翻弄されまくっていた。 今でこそ与えられる刺激と快楽に応えることも出来るようになったけれど。 想像していたよりも長いキスに、抗議の意味を込めて御柳の腕を手のひらでぱたぱたと叩いた。 そこでようやく、重なっていた唇が離れた。 名残惜しげにその頬にもキスを落していったけれど。 「な、長いわこのアホゥ!」 「んー? 何、盛り上がっちまったー?」 「っだー!! ていうか話、途中だっただろ! ……って何の話だったっけ」 「っ、はは! お前やっぱいーわー!」 あれ、と首を傾げる天国に、御柳は笑って。 そのままぎゅうと抱き締められて、天国はなんだかなし崩しにされてる気がするなぁ、と内心で呟いてみた。 無論内心でのことなので御柳に伝わるはずもないのだが。 耳元で、御柳がくつくつと笑う声がする。 喉の奥で笑うのが、御柳の癖だ。 その仕草が密かに好きなのだけれど、言えば調子に乗りそうなので言ったことはない。 背中に回された腕は外せそうにもないし、まぁ人目があるわけでも無いからいいか、と半ば諦めにも近い境地で思うと、天国は御柳の肩に頭を預けた。 抱き締められるのは、嫌いじゃない。 というかむしろ、好きだ。 理屈なしに、触れた場所から気持ちが伝わってくるようで。 あったかい。 天国に比べると体温の低い御柳だったが、こうしてくっついていればそんなの関係ない。 寄り添い合う体温は、ただ暖かい。 それが心地良くて、天国は目を伏せる。 その耳元に、御柳が囁いた。 「フツーの恋人、っぽいっしょ? こーゆーの」 「何?」 「クリスマスだし。何か聖なる夜らしーしさ? 偶には今をときめく恋人らしいことしてもいーかなって思ってよ」 「……で、朝から迎えに来てお台場来て観覧車乗ってんのか」 「そ。天国、ベタなの好きだろ結構」 否定はできない。 だから、答える代わりに黙ってみた。 沈黙は肯定だと知っている御柳は、天国の背に回していた右手を解いて、今度は髪を撫で始めた。 どこをどう見てもイチャつくカップルの図、だ。 ああ、流されてる流されてる。 自覚をしつつも、もうどうしようもない。 この手を振り払う気分など、微塵も湧き起こらないのだから。 答えの代わりに御柳の背を抱き返せば、また笑い声が洩れた。 「朝から妙に優しかったのもその所為か」 「俺はいつでも優しいっしょー?」 「鬼畜が服着て歩いてるような性格のくせして何をほざく」 「……クリスマス終わったらそれ堪能させてやんよ」 「ひぃぃっ、じゅ、重低音で耳元囁くなぁぁ」 怖い怖い怖い、と慄きつつも離れようとはしないのだから、いい加減バカップルの称号を与えても差し支えないと思われる。 まぁ何だかんだ言っても好きなのだ。 だから、今日もここまで着いてきたのだし。 「お、そろそろ頂上だぜ天国」 「んじゃもっぺんキスしとくか?」 「……珍し。お前から言うのって」 「クリスマスだし? すんの、しねーの?」 「するに決まってっしょ」 クリスマスはまだまだ終わらない。 バカップルに幸あれ★ END ◆オマケ◆ 「ってかさ、観覧車っつったら普通夜じゃねーの? 何で朝一から……」 「言ったっしょ、夕方から激混みすんだって。3時間待ちとかザラなんだってよ」 「うげろ、マジか?」 「そ。いーくら絶好のシチュつっても恋人を寒空に長時間立たせるなんてさせたくないっしょ」 「……両隣りに人はいないし、か?」 「それもあるけどな〜」 「まあいいよ。何気に嬉しかったしさ(つか、自分が寒空で待ち続けるのもイヤなんだろうなコイツは……ま、俺もそんなんさせるのイヤだし、一緒か)」 「夜にまぎれてその辺でイチャこく案も捨てがたかったけどな」 「……俺よかお前のがベタ好きだと時々思う」 季節を外しまくって今更クリスマスネタでございます。 どこまで人道を外れれば気が済むのかK沢H菜!(伏せてねぇ!) 2004年度のクリスマスに冒頭の1行だけ書いて放置してあった品でございます。 ていうか2004年のクリスマスイブにお台場にライブに行き、その時に観覧車を見たのですよ。夕方の時点で3時間待ちとか凶悪なことになっている観覧車を。 そんでもって次の日も朝一番でお台場に行き(全く同じ駅に二日連続で……ちなみに8:30に着きました、ウチからは2時間ほどかかるはずですv てことは出発時刻は…)、早朝の観覧車は比較的空いてるっぽいことに目をつけて発展させたわけです。 ええ、クリスマスのお台場はカッポー(英語発音)ばかりでした。 24日は友人(♀)と、25日は早朝から母親とそんなカッポーだらけの街に居たわけです。 そらネタも考えたくなりますよねぇ……(独り身を嘆くのでもなくネタに走るのか) しっかし内容がないようこの話。(落ちついてください) ギャグなのかシリアスなのかよう分からん。あっちこっちふーらふーら。 すいませんこんなんで。 多分御柳的にはイチャつけたんで大満足なんだと思います。 また負けとんのか自分。キャラに。 猿に負けるのは仕方ないとして(無敵だから)御柳に負けるのは悔しいなぁ。 いつか勝ちたい。 そのうちギャフンと言わせt(略) 季節はずれであることを一番途惑っているのは作者です。 それを誤魔化す為後書きがいつもの5割増です。ご了承下さい。 では。 UPDATE/2005.1.5 |