日々徒然ときどきSS、のち散文
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2004/10/09(土)
SS・+なお話]人生は予期せぬことばかりに満ち溢れているものだ・3(ミスフル+銀魂)


 神楽と定春が拾ってきた少年は、ここではない次元からの使者だった。

 …と言えば何だか聞こえはいいが、それで何をするわけでもない。
 猿野天国、と名乗った少年はごくごく普通の人間だった。


 むしろ、新八からしてみれば万事屋に訪れた人物の中では珍しく常識人だった。
 天国が万事屋に世話になることになった翌朝。
 物音に気付いたのか、新八が顔を洗っているところに天国がふらりと顔を出した。


「あ、おはよう天国くん」

「おはようございます」

「もっと寝ててもいいよ? どうせ二人ともまだまだ起きないし」


 苦笑して肩を竦めながら、新八は言う。
 二人、とは勿論銀時と神楽のことに他ならない。
 新八が起きだした時も、二人は少しも気付く気配など見せずに寝入っていた。
 神楽は銀時に比べればまだマシだが、それでも二人とも放っておけば日が高く昇るまで平気で寝ている。
 朝ご飯はせめて朝、と呼ばれる時間に食べるべきだろうと思っている新八は、毎度苦労しながらもそんな二人を起こすことから万事屋の一日が始まるのだ。


「いや、いつももっと早くに起きるから……多分もう、寝られないかな、って」

「そっか。あ、じゃあ着替え出してくるから、顔洗ってて。タオルは一番右端のが天国くんのだから」

「あ、はい」


 微苦笑しながら、いつもなら遅刻してる時間だからと天国は言った。
 ふっと過ぎった寂寥にも似た感情を、新八はしかと見てしまった。
 自分が立っていた世界、いるべき場所、それに対する想い。

 帰りたい、と。

 そうだろうな、と思った。
 自分が同じ立場に立たされたら、やはり帰りたいだろうから。
 そうして、何とかしてあげたいと思う。
 何故こんなことになったのか、これからどうするのか、今は何一つ決まっていないけれど。

 多分、きっと。
 未だ夢の中にいる二人も、その想いは一緒だろうから。


「え、と……これで、いいかなと」


 考え込みながらも、新八の手足はちゃんと動いていた。
 押し入れの中から出したのは、新八の着物だ。
 天国の方が新八より若干背が高いものの(少しだけ悔しかった)、そう大きく違うわけではないのでおかしくはないだろう。

 昨夜貸した寝巻きも大丈夫だったし。
 うん、と頷きながら着物を用意する。
 天国の元居た世界では、洋服が主流だったらしい。
 昨夜寝巻きを貸した時にそう聞いた。

 そう言えば天国が来ていた服も、あまりこの界隈では見かけないようなものだった。
 同じように洗濯しても平気だろうか。
 まあその辺りは追々聞いていけばいい。
 いつまで、かは分からないけれど、一緒にいるのだから。


「今日の朝は少し奮発しとこうかな」


 着物を片手に、そんなことを呟きながら洗面所へ向かう。
 これからどうするのか、なんて分からない。
 どうなるのか、も。
 ただ一つ分かるのは、例え別次元の世界の人間だろうが何だろうが、天国という人物が目の前にいて。ちゃんと生きて動いて、しかも新八にとっては嬉しいことに非常に常識人らしい性格で。
 人が誰かに手を差し伸べる理由なんて、目の前に人がいるから、だ。
 難しいことなんてない。

 昨夜の神楽の言葉ではないが、天国が悪人だとはどうにも思えなかった。
 見た目だけで人を判断してはいけません、というのは重々承知しているのだけれど。
 だって知ってる。
 ああいう目をする人、出来る人は、大丈夫だって。

 それに。
 弟が出来たみたいな、そんな感じもして。
 なんかちょっと、楽しいんだよな。

 寺子屋に通っていた時は年近い人間ばかりだったが。
 社会に出てから…というよりむしろ万事屋に来てからは、職業柄か何なのか知り合う人間は大概が新八より年上だ。
 神楽は新八より下だけれど態度は上だから勘定には入れないことにする。…などと言ったらまた悪態吐かれた上に殴られるんだろうけれど。
 まあ、そんな諸々の事情があるから。
 元々世話好きの性分も手伝ってか、天国との会話は何だか楽しい。


「天国くん、着替えこれねー」


 いつもより少し弾んだ声が、朝の万事屋に響く。
 この後、着替えた天国が朝食の支度を手伝ってくれたりして、新八の機嫌がいつもよりずっと良くなったことは……別の話だけれど、事実である。