日々徒然ときどきSS、のち散文 |
2004/10/08(金) |
[SS・+なお話]人生は予期せぬことばかりに満ち溢れているものだ・2(ミスフル+銀魂) |
少年は、猿野天国と名乗った。 年は新八よりも一つ下の15歳らしい。 何故あんな場所に倒れていたのかを問うと、困ったように眉を下げた。 何か訳ありらしいと判断した万事屋の面々が、話をするように促せば散々逡巡する様子は見せたものの、最終的に口を開いた。 多分絶対信じてもらえないだろうと思うけど、と前置きをしてから。 「俺、こことは別次元として存在してる世界から来たんすよ。俺も、こんなことになるまで知らなかったんだけど。世界が平衡してるって」 予想外の言葉に、誰も反応できなかった。 大なり小なり事情があるものと思っていたが、まさかそんなスケールの大きな事情があるとは誰も予想だにしていなかったのだ。 しんとしてしまった空気に、天国は苦笑する。 「だーから、話半分で聞いてくれて構わないって言ってるじゃないすか。俺もいきなりこんなこと言われたら信じられないだろうし」 「いや、うん……ビックリ、したけど」 「天国、嘘は言ってないネ。それは分かるヨ」 新八の言葉に被せるように、神楽が言う。 思いがけず力強い響きの言葉に、天国が瞠目した。 天国の隣りに座っていた神楽は、そんな天国の顔を覗き込む。 まるい目に写り込んだ自分が見えて、神楽は唇をきゅっと引き結んで笑った。 「定春、悪い人間には懐かないアル。だから、天国は定春に見つけられたんだって胸張ってればヨロシ」 「……けど、今の話…信じられんのか? 実際、俺も何がなんだか分かってないのに」 天国の、膝の上に乗せられた拳が僅かに揺れた。 握り締めているのだろう、きっと指先は白くなってしまっているに違いない。 眉間に寄せられた皺を見て、新八はそれを伸ばしてしまいたい心境に駆られた。 天国とは数分間話しただけだ。 それも、言われた内容はといえばあまりに突飛すぎて一瞬頭がついていかなかったほど。 けれど。 神楽が言ったように、どうにも天国が悪い人間には思えなかった。 今はきっと、泣きたいのを我慢しているのだろう。 力が込められているらしい、目が。 物怖じせずに人を見据えてくるその目は、何よりまっすぐだったから。 新八はうん、と一つ頷くと座っていたソファから立ち上がった。 夕飯の支度の途中だったことを思い出したのだ。 視線を向けた時計は、いつもなら夕飯を食べ始めている時刻にさしかかっていた。 いつもより遅くなってしまったが、食べないわけにはいかない。 「ともかく、ご飯にしようか。神楽ちゃん、手洗いとうがいしてきてね」 「ガッテン承知のスケネ!」 「……誰に教わってくるの、そういう挨拶……」 ご飯、という言葉に神楽の目がぎらりと輝く。 立ち上がり、ガッと腕を掴んだ決めポーズをするのに、新八はがくりと肩を落とした。 言葉に不得手というわけでもないのに、神楽は妙な言葉を覚えてくることが多々ある。 今のような挨拶然り、昼メロの愛憎ドラマのセリフ然り。 まあ余程おかしな言葉を使わない限りは放っておくことにしているが、偶に力が抜けることがあるのもまた事実。 まあそれもいつものこと。 今更深く追求する声があるわけでもなく。 台所に向かいかけていた新八は、言い忘れてたとばかりに足を止めて振り向いた。 未だソファに座ったままの銀時、その向かいに所在なげに座っている天国、立ち上がって洗面所に向かおうとしている神楽。 新八はふっと笑うと、神楽に向かって声をかけた。 「あ、神楽ちゃん、天国くんも連れてって。ついでに厠の場所とかも教えてあげてくれるかな」 「え、あ、あの?」 「よし、工場長が直々に教えてやるネ、天国!」 来いヨ! と神楽が天国を手招く。 呼ばれた天国はと言えば、何がなんだか分からない、といった表情できょろきょろと視線をさまよわせた。 新八に問うような目を向け、ひらひらと手招く神楽に途惑うような目を向け。 最後に。 何も言わないままの銀時に、伺うような目を向けた。 「ま、そーゆーこった。これからどうするとかどうなるとか、色々あるかもしんねーけどよ」 首をこきこきと回しながら、けだるげに銀時は言う。 天国は黙したまま、投げられる言葉をただ聞いていた。 「腹が減っては戦はできねーらしーからよ。食おうぜ。銀さんもう倒れそうなんだけど」 「ええと……お世話に、なります?」 ぺこり、天国が頭を下げた。 すいませんでもありがとうでもなく。 その言葉に、神楽がにかーっと笑う。 新八もふっと笑み、銀時は相変わらずだるそうに、欠伸を一つした。 「明日のことは明日やりゃーいいさ」 欠伸混じりに呟かれた言葉に天国が頷いたかどうかは…定かではない。 |