日々徒然ときどきSS、のち散文
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2004/10/07(木)
SS・+なお話]人生は予期せぬことばかりに満ち溢れているものだ(ミスフル+銀魂)


「定春、何してるアルか?」


 超大型犬、定春。
 神楽は、帰り道の途中で立ち止まった定春に気付いた。
 狭い路地に鼻先を突っ込み、ふんふんと何かを探るように匂いを嗅いでいる。
 路地は大人が一人ギリギリ歩けるほどの幅しかなく、定春はとてもじゃないが足を踏み入れることは出来ないのだろう。
 定春を押し退け、路地を覗きこんだ神楽はことんと首を傾げた。


「あ、人だ」


 路地を入ってすぐの場所に。
 人が、寝転んでいた。
 おそらくはまあ、気絶しているのだろうけれど。

 神楽はしゃがみ込むと、その人物の頬をつんつんと突付いてみた。
 起きる気配はない。
 背格好からして、新八と同じくらいの年だろうか。


「定春、これ気に入ったカ?」


 顔を上げ定春に問うと。
 飼い犬は、ぺろりと舌を出して見せた。





「え、ちょ、神楽ちゃん? こちらはどなた様ですか」

「拾ったアル。定春が見つけたネ」

「ひろ…っ、おま、人間を犬猫と一緒にするなよちょっとォォォ!」


 万事屋に帰ると、予想はしていたがやはり騒がれた。
 第一声を、夕飯の準備中だったのだろう菜箸片手に引き攣った顔で新八が。
 それに答えた神楽に、ソファでだらだらとテレビを見ていたらしい銀時が頭を抱えながら叫んだ。
 叫んだというより、言葉の内容はツッコミに近かったけれど。

 定春の背にぐったりと身を預けているのは、一人の少年だった。
 覗きこんだ路地に倒れ込んでいた人物である。
 唐突に人間を連れて帰ってくれば、普通驚くだろう。
 予想通りの反応に、神楽は溜め息を吐き肩を竦めた。


「つまらんネ。二人とも、もっと人の度肝を抜くリアクション勉強しなおすがヨロシ」

「いやいやいやいやいや。芸人じゃねーから。そんな寸評いらねーから」

「神楽ちゃん、拾ってきたって……誰かも知らないってこと?」

「さっきも言ったアル。定春が見つけたネ」

「うぉぉい! おめーは飼われてる身のくせして、更に自分も何か飼いたいってかぁ! ダメです、銀さん許しませんよ! 元の場所に返してらっしゃい!」

「銀さん、アンタまたそういう言い方すると……」


 噛まれるんじゃないですか。
 と呆れた様子で新八が言い切る前に。
 銀時の頭には定春の牙ががぷりと食いついていた。

 頭に食いつく、ということは後ろ足で立ち上がるということになる。
 それは即ち。
 背中に乗っている人物が振り落とされる、ということに繋がる。


「あ」


 ずる、どさ、ごん。
 そんな音が聞こえた。


「い…ってえ〜……何だよ、もう……」


 一拍遅れて。
 そんな声が、聞こえてきた。
 銀時でも新八でも、まして神楽のものでもない声。
 どうやら後頭部を打ったらしい少年が、痛みに呻きながら半身を起こした。

 神楽も新八も、定春に噛みつかれたままの銀時も、言葉を発しないまま少年を凝視している。
 頭を擦っていた少年は、自分を取り巻く微妙な空気に気付いたらしく。
 きょとん、とした顔で三対の目を見上げると、言った。


「あの……どちらさんでしょうか?」


 それはこっちのセリフだよ、とか。
 夕飯は四人前になるんだろうなあ、とか。
 そんな諸々の想いから、誰からともなく溜め息が洩れた。

 無論、銀時に齧りついたままの定春以外の。