日々徒然ときどきSS、のち散文 |
2004/10/06(水) |
[SS・+なお話]「のろけてみてもいーですか?」(ミス振り) |
「のろけてみてもいーですか?」 「べっつにさあ」 切り出したのは榛名の方だった。 片手を鞄の中に突っ込んで何か探しているのかごそごそとかき回しつつ、何やら考えているような神妙な顔で。 「オレは確かに廉が好きだけど、アイツの顔が世間一般的に見てすっげー可愛いだとか誰もが絶賛する美形だとか、そういうのは思わねーわけ。実際そうだろ」 「何すか榛名さん、いきなり」 答えを返した御柳は、他校だけれどまあ一つ上の先輩だし、と一応敬語だ。 運動部の上下関係は、時として会社組織よりもシビアで厳しい。 その上、御柳の周囲には何かと癖のある人種が多かったけれども榛名のようなタイプは存在していなくて。 第一印象こそよくなかったけれど、話し出せば何やら合うことも多く。 そのおかげで、今や榛名と御柳は他校ながらもそこそこ仲の良い先輩後輩、という不思議な間柄だ。 「いや今日さ、告られたんだよ。まあ十人いりゃ九人は可愛いって言うだろうなーってレベルのコにさ。でもまあホラ、オレには廉がいんじゃん? だから丁重にお断りしたんだけどさ」 廉がいる、と口にする時に榛名は何やら嬉しげに目元を緩めて。 相変わらずめろめろなんだなあ、と何やら感心してしまった。 まあ御柳も他人事と言い切れないほどには、恋人にめろめろなのだけれど。だからこそ、榛名はこうして御柳に話題を振っているわけなのだけれども。 そうこうしているうちに、榛名は目的のものを見つけたらしく、鞄の中から腕を引き抜いた。 その手に握られていたのは、キシリトールガムのボトルだ。 榛名はそれの蓋を器用に片手で開けた。 使い慣れている、と思わせるには充分な仕草で。 ん、と差し出してくるのに、御柳はありがたくご相伴に与ることにする。 普段はどちらかと言えば普通の板ガムか、もしくはチューインガムを口にすることが多い御柳なのだけれど。 榛名と知り合ってからこっち、めっきりキシリトール系にも詳しくなってしまった。 「んでさ。付き合ってるヤツいるから、つったら何て言ったと思うよ?」 「振り向かせる自信があるとか、そういう類っすか?」 「……何オマエ、そんなこと言われてんの?」 「はあ、まあ、過去に何度か。女って怖ぇっすよね」 「あー、まあ、な。ってそうじゃなくてさ。したらソイツ、そんなにカワイイコなの、とか聞いてきやがってさ」 顔を顰めながら、榛名は自分も口の中にガムを放り込んだ。 きゅきゅ、と相変わらず手慣れた仕草で蓋を閉め、鞄にぽいと放り込む。 口の中にすうっと広がるミントの味に、何となく落ち着くような気分になった。 「つーかそれもまた普通に性格悪いっすね、その女」 「この場合は自意識過剰っつーかなんじゃねーの? まああのレベルなら分からんこともないけどさ。生まれてこの方振られたことなんざないんだろうなー、って感じ」 「そんで榛名さん、そこからどうして三橋の顔がどうとかって話にいくんすか」 ちっとも話が見えない、と言いたげに御柳は言う。 ガムで風船を作りながら、ことんと首を傾げる仕草が何やら御柳にしては幼い仕草っぽく見えて、榛名は少し笑った。 図体も態度も、可愛らしいとは程遠い御柳なのだけれど。 時折、ああ年下なんだなあ、と思わせるような時があって、普段とのギャップのせいだろうそれは榛名の目にひどく新鮮に映った。 「やっぱさ、どうせ隣りにおいておくんなら見た目がゴージャスな方が気分いーだろ?」 「……昔は、そうでしたねー……」 ちょっと気まずげにふわふわと目線を漂わせる御柳に、オイちょっと待てオマエどんだけ遊んだよ、と言ってやりたい気分になったけれど。 今はそれが言いたいことではないので、敢えて放置しておくことにする。 態度からして、今は恋人一筋のようだし。まあ確かに御柳の相手は榛名とはまた違って全力でぶつかって行かなければ逃げてしまいそうだから。 「んでもさ、何でだかオレは廉を選んでんだよなー。他なんて目に入らねーくらいに」 「はあ」 「そんだけ好きって思えるってさ、スゴイことだと思わねー?」 笑いながら告げれば、御柳はぱちぱちっと瞬きをして。 あー、とか何とか不明瞭な言葉を口の中で遊ばせながら、何とも言い難い顔になった。 そのまま、かしかし、と前髪をかく。 しばらく何事か唸っていた御柳だが。 やがて意を決したように顔を上げて、言った。 それはもう、キッパリと。 「榛名さん。のろけたいだけじゃないですか、それ」 「……そうとも言うかもなー」 けれどまあ。 御柳がぽつりと、俺も人のこと言えねーけどさ、なんて呟いていたのを、榛名はしっかり耳にしていたわけで。 恋人の自慢、なんて。 やっぱりしちゃいたいもんでしょ? 世界の中心じゃなくても、愛は叫べちゃうんだってこと。 好きだー! って気持ちはいつでもどこでもどんな時でも、年中無休なわけなので。 ゲームセット! 攻め二人の会話でした。 ガムを食べながら他愛もない(しかし外から見るとうすら寒い)会話をしている二人を書きたく。 この後天国と三橋が合流します。 全員他校生…… てゆっか実はこの話同盟にUPろうかと思ってたんですが、あまりに内容が薄いのとCP色コスギさんな為にこちらにやって参りました。 いや別にCP話でもいいかなー、とかちらっと考えたんですけれど、もー。 ホラ、王道じゃないから!(泪) UPDATE/2005/4/28(金) |