日々徒然ときどきSS、のち散文
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2004/07/30(金)
SS・ミスフルパラレル]君の心、僕の心臓(犬猿パロ、犬視点)



「テメーが強いのは、知ってる。俺がどんだけ、テメーのこと見てたと思ってんだ。傍にいたと思ってんだ。武器なんかなくてもな、テメーは充分強いんだよ」




「心音が聞こえなくてもな、俺にだって聞こえるもんがあるんだよ。テメーの、心の声だ」




「じゃあ俺は、この音を守んねーとな。テメーが迷子にならねーように。道を、見失わねーように。人が転ばねーような場所でこけたりしてるからな、テメーは」




「変わんねーよ、テメーは、何も。何も変わってねーし、これからだってそのままだろ。それで生きてないなんて、誰にも言わせねー。テメー自身にも、だ」




「じゃあ、せめて。せめて俺は、お前の心を守ってやる。それぐらいしかできねーけど。それぐらいは、してーんだ。テメーが思うのと同じように、俺もテメーを守りてーんだ。なあ……分かるよな、俺の言ってること」




「帰って来い。いつでもいい、辛かったり苦しかったりしたら、俺んトコに来い。帰って、来ればいい。そうするぐらいしか、テメーの心を守る方法、思いつかねーから」







 守りたいと。

 傍にいたいと。


 そう思う心は嘘じゃないのに、ただそうすることが何よりも遠い。

 世界を相手に戦うことが、世界で一番強いということが、どんなことなのか分からない。

 握った手は、変わらないのに。




「猿野」


 一度だけ見た、兵器としての姿。

 右腕は名前など知るはずもない銃器に変わり。
 背中から突き出た金属片は、まるで羽のように見えた。

 白い羽毛で覆われた羽ではないが、新時代を裁くのならきっとこの方が相応しいと。
 そんなことを考えた。



「泣けよ、バカ」



 泣きたいのは、犬飼も一緒だったのだけれど。
 呟いて、誤魔化して、天国の頭を引き寄せた。

 固い羽で空を翔ける、裁きの天使。


 でもそんなん今は、どうでもいい。

 今は、俺の腕の中で泣いてる、俺の恋人でいい。









猿野編(2004/7/30)と対になっておりまする。
サイカノパロ犬飼視点。
思いがけず詩人になった犬飼氏に吃驚しております。
…やはりWeb拍手お礼でやらなくてよかったかもしれないとか呟いてみました。