日々徒然ときどきSS、のち散文
過去の日記カテゴリ別

2004/06/24(木)
SS・ミスフルいブーツ(雀猿)


 だって、約束したじゃん。

 ずっと、ずっと友達でいるって。

 忘れたりしないって。

 なあ、覚えてくれてっか?




   黒いブーツ




 どうしようか。
 やっぱり、人違いだったのかもしんねーし。
 だって俺の覚えてるアイツとは、違うし。
 いやでも、あれはやっぱりアイツだった。
 俺がアイツを間違えるわけ、ないんだ。
 …つっても一瞬しか顔見てねーから、何とも言えないんだけどよぉ……


 ぶつぶつぶつ。
 呟きながら、天国はセブンブリッジ学院の門の前に立っていた。
 端から見れば他校生なだけでも目立つのに、それが思い詰めた顔で何事か考え込んでいれば(しかも独り言のオプション付き)これが目立たないわけがない。
 天国本人は、気付いていないようだが。

 足を踏み入れるか、否か。
 迷い考え込んだ挙句、やはり行こう、と顔を上げたその時。


「あれ〜、てんごく君じゃないか〜」

「へっ、あ、どうも」


 踏み出しかけた足は、動かされる前に出鼻を挫かれた。
 ここぞという時の運は強い代わりに、普段生活している上での天国の運の値はイマイチ低い。
 まぁ、ここぞという時に失敗するよりいいのかもしれないが。

 聞き慣れた、ほどではないが耳にすれば誰のものだか分かるほどには聞いた、声。
 天国がマドンナ(言い回しが古いが)と称えてやまない鳥居凪の実兄、鳥居剣菱。
 声のした方に顔を向ければ、剣菱がひらひらと手を振りながら天国に歩み寄ってくる所だった。
 門に辿り着く前に覗き見たグラウンドには人がいなかったから、まだ部活の時間ではないのだろう。


「珍しいね、っていうか初めてじゃない? うちの学校に来るの」

「そ…っすね」

「まだ新設って言ってもいいぐらいだからね、見た目だけは綺麗だろ〜?」

「見た目だけはって……」


 剣菱の言葉には、どうも言葉を返しづらい。
 にこにこと、愛想はいいのに。
 何故だろうか、無言の圧力のようなものを感じてしまうのだ。
 どこか困ったように笑う天国に、剣菱は僅かに肩を竦めた。


「ていうかてんごく君は何か用事があって来たんだろ? じゃなきゃわざわざここまで来ないだろうし」

「や、大したことじゃないんすけど。人を、ちょっと探してて。多分、人違いじゃなければ俺の知り合いなんですけど」

「てんごく君、今自分が結構面白い事言ってるって気付いてる?」

「知り合い、が……」


 言葉にしているうちに段々自信がなくなってきて。
 天国はきゅうと眉を寄せて、唇を噛んだ。
 胸の内が、ぐるぐるしているのが分かる。

 間違えるわけないんだ。
 だって、俺が、アイツを間違えるなんて。
 ちょっと変わってたけど、きっとアイツ、なんだろうって。
 そう、思うのに……


「てんごく君?」

「あ、あの、聞きたいんですけどっ」

「剣菱 発見」



 またも、遮られた。
 ツイテナイ、どころかむしろ何か憑いてるんじゃないのか俺。

 思わずそんな事を考えてしまうほど。
 がくりと肩を落として、ついでにそのままそこにへたり込んでしまいそうなのを何とか耐えながら。
 天国は、丁度自分の背後から聞こえてきた剣菱を呼ぶ名に、それとなく振り向いた。
 途端、その目がまあるく見開かれる。


「紅印 捜索 必死」

「これから向かう所だったんだよ〜。……てんごく君?」


 固まっている天国に気付いた剣菱が、どうかしたのかと声をかける。
 だが天国の耳に、その声は届いていなかった。
 天国の目は、剣菱を呼びに来た人物…その名を霧咲雀と言う…にまっすぐに向けられていた。
 凝視されている霧咲は、ようやく天国の存在に気付いたらしくわずかに瞠目する。


「十二支 猿野…?」

「やっぱり!! キリー!!」

「??!!」

「ちょ…っ、てんごく君?」


 そう叫んだかと思うと、天国はぐぐっと霧咲に近付く。
 驚いた霧咲がその勢いに気圧されるようにわずかに身を引いた。
 それを追うように、天国の腕が霧咲の腕を掴む。

 勘違いじゃなかった。
 自分の見間違いではなかった。
 正直なところ、今日もう一度会ったとしてそれが"彼"なのだと判断する事ができるのかどうか、それは天国本人にも分からなかった。
 むしろ、会っても分からない可能性の方が高いと自分で思ってさえいた。

 けれど。
 間近で見た瞬間に、分かった。
 分かってしまった。
 それが紛れもない"彼"なのだと。

 まるで、血が、ざわめくような感覚で。



「覚えてねぇの? テンだよ、俺」

「天……?」

「そうだよ! やっぱりキリーだ! こないだ見た時もしかしたらって思ったんだよ、だけどお前さっさと帰っちまうから声かけらんなかったし……」

「十二支 猿野 天 同一?」


 呆然とした顔をしながらも、霧咲がゆっくり天国を指差した。
 天国はそれに大きく頷く。
 声は出さず、ただ同意の意を示すためだけに。
 その目だけはまっすぐに、霧咲の目を見つめながら。

 天国の言葉と、その真剣な目に。
 霧咲の緊張したような顔が、ふっと解けた。
 代わりにその顔に浮かぶのは、安堵したような柔らかな色だ。
 それを目にした天国も、にかっと嬉しそうに笑う。


「キリーの声、こんなに沢山聞いたのはじめてだ」

「天 雰囲気 相違」

「うん。キリーも人の事言えねえじゃん? 髮の色とか、ピアスなんかも開けてっし」

「天 此 嫌悪?」

「んやー、似合ってっし。カッコイイじゃ〜ん」


 にやにやと笑いながら、天国は自分の左耳を指先で指し示す。
 そこには、ぽつんと一つ紅のピアスがあった。
 それを見た霧咲の目に、驚きの色が浮かぶ。


「覚えてっか? これ、お前がくれたん」

「火星 天 名付」

「あはは、そこまで覚えてくれてんだ! なーんだよ、正直忘れられてんじゃねーかな〜とか不安だったんだけど、俺。全然心配することなかったじゃん」

「自分 天 忘却 未来永劫 皆無」

「おう、約束したもんな」

「ちょ、ちょっとちょっと〜、何知り合いなの、二人?」


 口を挟んだのは恐らくその存在を二人の中から忘れ去られていたであろう剣菱だ。
 かくいう剣菱もあまりの感動の再会ぶりに一瞬自分がここにいるのが間違いなのではないか、とさえ考えてしまったほど。
 しかしながらようやく自分を取り戻した剣菱は、二人に疑問をぶつけたのだ。
 二人の会話を聞いている限り、どうも二人は顔見知りのようだとは分かるのだが。
 霧咲と天国、一見すると全く接点のなさそうな二人が知り合い、それもなかなかに親密そうな関係だとはやはりなかなか信じることが難しい。

 剣菱の言葉に、霧咲と天国は同時に彼に目を向けて。
 同じような目で俺のこと見るのやめてくんないかな……
 何故か剣菱はいたたまれないような気分に、陥ってしまう。


「自分 天 旧知」

「音楽関係で、知り合いなんですよ。俺が中学時代に出入りしてたハコ…あ、ライヴハウスのことなんですけどねハコってのは。まぁともかくそこで会って」

「天 演奏 神業」

「わ、わ、やめろってキリー! 褒められ慣れてねぇの、俺!」


 慌てた様子でばたばたと手を振る天国の表情は、それでもどこか嬉しそうで。
 天国の過去を語る、知っている霧咲はどこか得意げで。
 剣菱は僅かに、けれど確かに胸の内がざわつくのを感じた。

 発作の時とは違う。
 それでもただ、ざわざわと。
 感覚としては、お気に入りの玩具を横から浚われたかのような。


「ふ〜ん、まぁともかく知り合いなわけか。なーんか意外だよ」

「そっすか? キリー、前は黒髪でピアスも開けてなかったんですけどね。ほっとんど喋りもしなかったし……だから俺、同い年かと思ってた。キリーのこと」

「過去 天 無口 無愛想」

「っだあ! あれはライヴの時のキャラ作りだったんだよ! あの方がカッコイイだろ?」

「勿論 自分 其 記憶」

「じゃぁ言うなよな……」


 じとっと霧咲を睨みつける天国に、霧咲はふっと笑う。
 部活仲間でさえ滅多に拝んだ事のない顔だ。
 笑うと、いつもより幼く見える。
 この表情を振り撒いていればもてて仕方ないだろうに。
 そうしないのは、態となのかそれとも。


「ちょっと剣ちゃん?! さんざん探し回ったのよ、雀もいるのに何やって……あら、アナタ」

「って、ああっ忘れてた! これから練習だったんだよな?! うわ、ごめんなさい剣菱さん、キリー……」

「そういえば部室に向かってる途中だったっけな〜」

「自分 完全 忘却……」


 紅印の登場に、止まっていた時間が動き出す。
 正確には時間は流れていたのだが、3人の周りでは止まっていたも同然だろう。
 天国は叱られた子供のように、二人に向かって頭を下げた。

 と、霧咲がそれを止め、何事かを天国に言っている。
 元々基本音量の大きくない霧咲の声は、少しトーンを落とされるだけでも聞き取りづらい。
 自然、内緒話のようになっている二人を見て、紅印は驚いたようだった。
 そしてその矛先は、当然のように余っている剣菱に向けられる。


「ちょっと剣ちゃん、どういうこと?」

「ん〜、俺もよく分からないんだけどねー。なんか、昔の知り合いらしいよ?」

「そうなの、それにしても雀があんな打ち解けた表情してるなんて」


 二人が見ていることを知ってか知らずか、霧咲と天国は額を寄せ合うようにして何事かを話している。
 霧咲の言葉に嬉しげに頷く天国は子供のように無防備な表情で。
 それに対する霧咲も、年相応な柔らかな顔を見せた。



「あのっ、ホント、すいませんっした」

「天 謝罪 必要皆無」

「キリーはよくても俺がよくねーの! じゃ、俺帰るんで」


 ぺこり、と頭を下げて天国は駆け出す。
 と、それを見ていた紅印が霧咲の肩を押した。
 押された霧咲は、不審げな顔で紅印を見やる。
 紅印は笑って、走り去る天国の背中を指し示した。
 その意図が掴めない霧咲は、首を捻る。


「紅印 如何?」

「バス停まで送ってらっしゃい。次のバスまで時間あるんだから、知らない土地で一人じゃ心細いでしょ」

「了解 紅印 感謝…!」


 聞くや否や、霧咲が走り出した。
 天国の背中を追って、一心に。
 霧咲の脚力ならば、すぐに追いつくことができるだろう。
 そうして天国は驚いて、少し怒って、けれど嬉しそうに礼を言うのだろう。
 それが容易く想像できた。



「やけに寛大だね、何か企んでんの〜?」

「他人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるわよ、剣ちゃん?」

「べっつに、邪魔はしてないけど」

「いいじゃないの、雀があんな顔するだなんて新発見だもの」

「……そっちこそ、面白半分で近付くと火傷するんじゃない〜?」

「人の恋路ほど面白いものはないでしょう?」



 取り敢えず、恋かどうかはまだ分からないのだけれど。

 もしかしなくても、前途多難、なのかもしれない。


END








曲と合ってねぇやー(笑)
でも個人的にこの曲は霧咲さんのイメージなのですよ。
両耳にピアスだらけ、とか。
誰に会わせても愛想の悪いお前、とか。

しかし面白いように長くなりましたが。
これこのままUPすりゃぁよぅ…
タグ打ってんだからよぅ…
とか呟いてみたりみなかったり。


そんでもってまたも俺様設定です。

雀と猿、昔馴染み。
霧咲の呼び名は「キリー」!!!



っちう、どないやねんな設定です。
作中でも天国言うてますがライヴハウスで顔合わせ。
キリーはベース、天国はキーボードで。
対バンで顔合わせました、みたいなの希望。
そんでうっかり仲良くなっちゃって、みたいな。

純粋な雀猿というより、まだ雀+猿みたいな感じですが。
むしろ気付けば剣→猿っぽくなってて吃驚しましたが。
紅印姐さんも出してしまいましたが。
すげー好き勝手やってんよこの話〜(笑)

そんでここ書いてるの6/28なんですよ。
入ってすぐには表示されない位置なんで、過去日記を覗こうとしてくださった方かSS読もうとしてくださった方だけに知れる、っちう。
ご愛用サービスラヴ(違)


まあ何の話だったかって、「黒いブーツ」は私的霧咲テーマ。
ってのと天国しゃんに「キリー」って呼ばせたかった。
の2点に尽きるのですが。

……ダメダメ?
(しかし思ったよりキリー書きやすかった、むしろ剣菱さんよりもずっと)