日々徒然ときどきSS、のち散文
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2004/05/28(金)
[SS・ミスフル]わがままジュリエット(芭猿)


「〜♪ 踊るならレイン……」


 風呂上がり。
 肩にかけたタオルでわしゃわしゃと髪を拭きながら、天国はぽつりぽつりと歌を口ずさんでいた。
 ローテンポの、優しくどこか哀しげなメロディ。


「古い歌、歌ってんのな」


 声は、通り過ぎたソファからかけられた。
 そこには、長い足を伸ばして寛ぐ御柳の姿。


「あ〜? 何お前、知ってんの?」

「一応な。流石にリアルタイムでじゃねーけど」

「最近自分の中でブーム来ててよ。やっぱ名曲揃いだぜ〜?」


 笑いながら天国はすたすたと冷蔵庫に向かう。
 開けたそこからミネラルウォーターのペットボトルを取り出すと、御柳の座るソファに足を向けた。
 天国の意図することを解したらしい御柳が、寝転がっていた身体を起こす。
 天国は座り込んだ御柳のその足元、床にぺたりと座り込んだ。
 御柳は天国の肩にかけられたタオルを手にすると、まだ湿っている天国の髪を拭き出した。
 こくり、とペットボトルに口をつけながら、天国は気持ちよさそうに目を細めている。


「そういやさ、華武って部員同士で遊びに行ったりとかしねーの?」

「あん? あ〜、二軍三軍はどうだか知らねーけどな。一軍の中で一年って俺だけだし、そう頻繁にはねーよ、やっぱ」


 御柳の言葉に、そう言えば自分たちも自然と同じ学年同士で寄り集まることが多いことに気付く。
 別に年功序列だとか、他学年同士は付き合いにくいというわけでもないのだけれど。
 校内での他学年と部内での他学年はどこかしら違う。
 それがつまりは信頼関係、とかいうものなのだろうかと天国はぼんやり考えた。


「あ、でも今頻繁にはないっつったって事はさ、何回かはあんだ?」

「まぁ一応な。一軍だけで祝勝会、みたいなの」

「へ〜。ちなみにどこ行ったん?」

「もんじゃとカラオケ」

「もんじゃって、また微妙な……」


 顔を顰めた天国の頭上から、失笑したらしい御柳の声。
 長い指が髪を撫でるように触れてくるのが、くすぐったかった。


「厳正なる抽選の結果だっつの。まぁ俺もどうかと思ったけどよ」

「つーか、俺はそれよりカラオケのが気になるわ。あの面子でどんな空気が流れるのかって方がよ」

「何だったら今度呼んでやろうか? 多分お前なら歓迎されるっしょ。つか、俺がそうさせるし」


 何する気だか、と不穏な空気を感じつつ、それでもその誘いにはなかなか心惹かれるものがある。
 十二支と張るほど、ともすればそれ以上に個性溢れる面々だ。
 誰が何を歌うのか。その場の空気は如何なるものなのか。
 むずむずと、好奇心が刺激されているのが分かる。


「あ〜、でもやっぱダメだ」

「ふん? まあ他校だしな俺。別にムリは言わねーよ」

「違ぇよ。そうじゃなくて、俺が嫌なんだっつの」

「は?」

「お前と二人だけの時間、減っちまうし。お前の歌声、あんま聞かせたくないし」


 その口調は、子供が言い訳をしているかのようで。
 背中を向けている天国からはその表情こそ伺えないものの、声音でそれがわかった。
 実際、御柳の表情は子供のようだった。
 伏目がちで、口をヘの字に曲げて。


「お前なぁ〜……何だかむちゃカワイイんだけど?」

「は? 天国、それは俺にはとてつもなく不本意なんだが……」

「だーってよー。なんだかなぁ、俺ってばお前にむちゃくちゃ愛されてんのな〜?」


 くすくすと笑いながら、天国は喉を逸らして御柳を見やる。
 一瞬遅れて言葉の意味を理解した御柳が、瞠目した後に頬を染めた。
 おそらくは、滅多に見られない表情。


「わ、が、ま、ま、ジュリエット〜♪」


 我侭でもいいよ。
 それ以上に想ってくれるなら。

 俺とお前は、ロミオとジュリエットじゃぁないけどさ。




END








タイトルは某有名バンド様です。
ていうか最近彼らがマイブームなのは猿ではなく私です(笑)