日々徒然ときどきSS、のち散文 |
2004/05/20(木) |
[SS・ミスフルパラレル]天国の涯【ヘヴンズエンド】7 |
【失われた響きに】 天国。 久しく忘れていた、その響き、その名前。 それは確かに、自分の名前なのだけれど。 もうここ暫くは使われていない、呼ばれていない音だった。 鼓膜を揺らすその音に、意識せずに眉間に皺が寄る。 優しい響きだね。 そんな風に言ってくれた、過去の面影がふっと背後に立ったような気がした。 そんなわけ、ないのに。 「お、雨上がったみたいだな」 「ああ、ホントだ」 御柳の言葉にのろのろと窓の外を見やる。 小降りになっていた雨が、何時の間にか止んでいた。 空はまだどんよりと曇ったままだが、東の方から晴れてきていた。 どちらにしろ今日はもう仕事にならないだろう。 今から洗濯したところで乾かないだろうから。 壁にかけられた古びた時計は、もう夕方を示していた。 「なあ、屋上ってどんな風になってんの?」 「どんな風って…別に何も置いてないけど」 事実、屋上には何も置いてはいない。 古びたベンチが何故か一つあるが、それぐらいだ。 後は洗濯物を干す為のロープが張られているだけ。 強いて言えば。 「景色はいい、かな。ここは何もない街だけどさ、上から眺めて見りゃ同じに見えるんだ」 「へぇ。誰でも入れんの?」 「鍵とか別にねーし。見るか? 雨も上がったしさ」 ランドリーサービスを一手に引きうけているのも、屋上から眺める景色が気に入っているというのが理由の一つだったりした。 ここは確かにロクでもない街で。 それでも、高い場所から見下ろせばただただ人々が寄り添い集まる場所でしかないから。 大きかったり小さかったりと屋根が連なり、道には歩く人やら自転車で通り過ぎる人やら。 音のない、ただ目に映る事実としてそれが見られる。 世界に誰よりも近く、そうして誰からも触れられることがない遠くにいるような。 矛盾した、けれど確かにそんな感覚を味わえる。 何もないけど、と再度念を押して、二人は部屋を出た。 それと丁度同じタイミングで、階段を誰かが上がってくる。 天国は廊下から階段を覗き込んだ。 上がってくるのは、一人の青年だ。 緑がかった髪を、頭の後ろで一本に束ねている。 天国は少し驚いたような顔をして、青年に声をかけた。 「フルハウス、今帰りか?」 呼ばれた青年が顔を上げる。 フルハウスと呼ばれた青年は、人好きのするような穏やかな笑顔で天国に笑ってみせた。 「うん、ただいま〜」 天国の涯第7段。 計画失敗(笑) ぬぁぁ、ラストに出てきただけになってしまいました…… 部屋を出るまでが何故こんなに長くなってしまったのか。 数行で終わらせるつもりだったのになぁ…おかしいなぁ… 天国さん、色々考え過ぎですとも。 しかしなかなか進まないっすね…… 細切れ連載ですから。 番外編に本編で出してない人たちがどんどん出てきてるんですけども(笑) 気まぐれ日記連載、次はいつ頃になることやらですが。 楽しみにしてくださる方の為にも、なるべく早めに出せたらいいなぁ、と考えている次第です。 (それもいいけどサイトの更新は) |