日々徒然ときどきSS、のち散文 |
2004/05/07(木) |
[SS・ミスフルパラレル]天国の涯【ヘヴンズエンド】5 |
【名前は?】 部屋の中は、想像していたよりも広かった。 ドアの正面には窓が一つ。 右端に纏められているカーテンは、海の底を思わせるような群青色。 窓の向こうには、狭いながらもベランダがあるのが見えた。 部屋の左端、入ってすぐ左にはベッドが置いてある。 天国はベッドに歩み寄ると、かけられていた白いシーツを剥ぎ取った。 ばさ、と音をたててシーツが波のように視界で揺れる。 「固そうなマット」 「文句あんなら自分で買い換えな」 ベッドを見た瞬間、思わず零れた言葉。 それに返されたのは、愛想の欠片もない声音。 取り付く島もない言葉に、御柳は思わず笑う。 天国はそんな御柳に構うことなく、窓際に寄って。 窓の手前には、もう一つシーツで覆われた何かがある。 おそらく、その形状からして椅子と机だろう。 天国がぐい、とシーツを引くとやはりその下から現れたのは、丸テーブルとそれに合わせた小さな椅子だった。 深いブラウンの色をしたそれは、趣味の良さそうな造りだった。 ここに置いた者の趣味を伺えるような。 「思ったより広いのな」 「物がないだけだろ。他に必要なのがあんなら、自分で揃えろよな」 「ま、必要な物ならその都度揃えりゃいいっしょ」 「ご自由に」 エプロンのポケットから出した布巾で、テーブルの上を軽く拭く。 拭きながら、天国はそれとなく窓の外を見やった。 晴れるはずもない、と思っていたはずの空は予想に反して段々と明るくなっているようだった。 先程よりも少しだけ、灰色が薄くなっているように見える。 「ま、これで俺の仕事も一つ減るわけだ」 「何?」 「使われてない部屋の掃除。も俺の仕事なわけだからさ〜。アンタのおかげで一つ減ったってわけ」 へらり、と笑いながら天国は言う。 悪びれた様子のない表情に、御柳はつられるように微笑した。 「なあ、へヴンってお前の名前なワケ?」 「うん」 「本名じゃねーだろ?」 「まあ、一応アマクニって名前があったりするけど」 顔を顰めながら、ぼそぼそと天国は言う。 まるで、それが告げたくないことであるかのように。 何を名前一つで、と御柳は思うのだけれど。 御柳がそれを口にする前に、天国が口を開いていた。 「名前なんて、結局それぞれを区別する為の記号だろ。だったら、ソイツがソイツだって分かりゃ何だって同じだよ」 その言葉は、おそらく御柳に向けて言ったものではなかったのだろう。 早口で捲し立てるような言い方。 ともすれば聞き逃しそうだったそれを、だけれど御柳の耳はしっかり聞き取ってしまった。 その言葉を口にした時の天国の表情は、目は。 0号室のドアを見ていた時と同じ、モノクロだった。 久々登場、1000文字前後連載天国の涯【ヘヴンズエンド】です。 第五話にしてようやくお互いの紹介…ってか詮索ってどうなのよ。 しかも御柳さん名乗ってませんがね。 う〜ん、1000文字ってやっぱり少ないです。 なかなか進みません。 次々回ぐらいには他の住人その1を出したいのですが。 どうなることやら。 そしてここを読んで頂いてるかは分かりませんが私信。 メッセ、ありがとうございました! ミラクル★ハイテンション状態(笑)で語っちゃってすいません…… 起床の方は大丈夫でしたでしょうか?? 呪文を唱えつつ、頑張ります(笑) |