日々徒然ときどきSS、のち散文
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2004/04/29(木)
SS・ミスフルパラレル]あくまで愛でしょ?



「なーなー天国っ♪」


「…………イヤだ」


「まだ何も言ってねーっしょ!!」





   
あくまででしょ?






 焦ったような、どこか拗ねたような声を聞きながら天国はひらひらと手を振った。
 曰く、聞かなくても分かる。その声の弾み具合とにやにや笑いは俺にとってとんでもなく厄介なことを言い出す兆候だってことはな。
 と、いうことらしい。

 けれど御柳もそれぐらいで諦めるような可愛らしい性格をしているわけではない。
 何せ、これでも悪魔なのだから。

 天国の冷たい態度に一瞬不機嫌そうに眉を顰めた御柳だが。
 椅子に座る天国の背後にさり気なく近付いた。
 天国は学校から出された課題をやっている最中だ。
 机の上に置かれたプリントを覗き込んだ御柳は、にやりと笑った。


「なあ、それ俺が代わりにやったら言う事聞いてくれる?」

「は? お前何言って」

「これでもお前よか長生きしてる悪魔だぜ? 甘く見んなって」

「……悪いが信用できん」


 一瞬、迷うような沈黙があったものの。
 天国はつれなくも首を振った。
 一筋縄ではいかない、何もかもが今までと違う。
 それこそが、御柳を惹きつける要素なのかもしれない。
 今までの獲物なら、少し甘えた声で頼めば、もしくは少し高圧的な物言いで迫れば簡単に陥落してくれたから。

 思う通りにならない展開に苛立ちつつ、それを楽しんでいる自分を自覚する。
 御柳はかしかし、と頭をかきながら溜め息を吐いた。
 既に天国は会話を終えたものとして、プリントに視線を落としている。
 背後からその首筋を眺めていた御柳は、背筋を這い上がるようにして欲望が身をもたげるのを感じた。

 天国に対する思いは、今までとは違う。
 ただ食欲だけではなく、もっと別の酩酊感にも似た複雑な感覚が身の内を支配するのだ。

 手に入れたい。
 触れたい。
 自分だけのものにしたい。

 そこに在るのは、支配欲と言っても過言ではない、そんな感情だ。
 時として身体が痺れるほど、その想いは強く激しく御柳を覆う。
 今だって、ぴりぴりと指の先が痛いほど。


「天国ー?」

「だあもう、何だ……ん、う」


 イタダキマス、は心の中でだけ呟いた。
 御柳の呼び掛けに顔を上げた天国の顎を指先ですくいあげ、まさに電光石火のタイミングでその唇に口付ける。
 前置きのないその行為に、天国が目を丸くした。

 でっけー目。
 いつまでも慣れねーのな、もう何回もしてんのに。

 今まで、天国に出会う前にも幾度となく、まさしく数え切れないほどのキスを体験してきた御柳だが。
 天国とのそれは、誰のものとも比較できないほど気持ちよかった。
 溶けていく、気がするほどに。

 絡める舌は、甘い。
 おそらくは御柳を引き剥がそうとしたのだろう、伸ばされた天国の手を先んじて御柳は掴んでしまう。
 そうして恋人同士がするように、指を絡めて。
 きゅ、と握れば天国が身じろいだ。





「んー…極上っしょ、やっぱ♪」

「っ、は……はぁ、バカ、何いきなり…っ」

「やー、なんかムラムラっと来てなー」


 お前の首筋見てたら、などと臆面もなく言ってやれば、くたりと力の抜けた体を御柳に支えて貰っている天国がの頬が、面白いぐらいに赤面した。
 年相応にそういういことに関する知識はあるものの、実地は弱い。
 こっぱずかしい奴、だの普通そういうこと口に出すか、だのと呟いている天国を見下ろしながら御柳は楽しくて仕方なかった。

 キス…御柳のとっては食事だが…をした直後の天国は、御柳が一番お気に入りの表情を見せてくれる。
 途惑いと羞恥が入り混じった、けれどとてつもなく色気のある…有体に言えばそそられる顔をするのだ。
 本人は全くといっていいほどその事実に気付いていないようだったが。
 気付いていれば、大人しく御柳の腕に抱かれていようはずもない。


「ちくしょ、まだ半分も終わってねーってのに…」

 すっかり体の力が抜けてしまった天国は、顔を顰めながらそんなことを言う。
 キスの後はいつもそうだ。
 ふわふわと、カラダもココロも空を飛んでいるみたいになる。

 けれどそれを気持ちイイ、と認めてしまうのはあまりにも悔しくて。
 なけなしの矜持が、それを許してはくれなくて。

 しかし一番悔しいのは、それすらも御柳に見透かされていそうな所だったりするのだが。
 御柳にもたれかかる格好になっている体を、何とか起こそうと試みる。
 力の入らない腕に、思わず唇を噛んだ。

 御柳の指が、戯れに天国の髪、ちょうど耳元を撫でてくる。
 些細なその刺激にさえ震えがきて、天国は耐えるようにぎゅっと目を伏せた。


「まーまー。無理すんなって」

「どわ?! て、テメエ何しやがんだ!」

 ひょい、と体が浮かび上がる感覚。
 突然の浮遊感に驚く間もなく、天国はベッドにその身を沈めていた。
 喉の奥で楽しげに笑う御柳は、いつも通り意地悪そうな顔なのに。
 天国に触れるその手は、ただただ優しかった。

 何が起こったのか分からずに目を瞬かせている天国に、御柳はぱちりと片目を閉じてみせる。
 はからずしもカッコイイかも、などと思ってしまった自分に天国は一番驚いてしまった。


 きょとん、と自分のおかれた状況がまるで分かっていないらしい天国に、御柳は楽しげに笑う。
 実際楽しくて仕方なかった。
 食事(と書いてキスと読む)の後は、いつでもこんな気分になる。
 今まで一度も、天国とのキスを知るまでは知らなかった心地。

 悪魔の自分が、人間に陥落されるなんて。
 驚きも途惑いもあるけれど、それより何よりただ天国が欲しくて仕方ない。
 本当ならば。
 御柳が少しだけ、悪魔の本性とその力を、使ってしまえば。
 ただの人間を自分に陥落させる、なんてことは容易いことのはずなのだ。

 それでも、御柳はそれをしなかった。
 素のままの自分で天国に近付いて、素のままの天国の反応を、楽しむ。
 そんなことを、何故だか何よりも尊く、そして楽しいと思える。

 それはひとえに、相手が天国だからだ。

 根拠もなく、そう言い切れる。
 好きだ好きだと、理屈じゃなく思える。

 御柳は笑いながら腰を折り、寝転んだ天国の頬にそっと唇を押しつけた。
 驚いたのか、それともくすぐったかったのか。
 天国の肩がぴくりと微かに震える。
 それすらも愛しい。


「か・だ・い。代わりにやってやっから、お礼しろよな?」


 一瞬の優しいキスに、驚いた天国だったのだが。
 降ってきた言葉に、自分が陥れられたことを悟った。
 言葉も出ないまま御柳を見上げれば、にやにやと。
 チェシャ猫のような、いつも通りの意地悪な笑顔がそこにはあって。

「卑怯者めがぁあっ!!!」

「何とでも。策士っつって欲しいけどな〜」

「こ、この悪魔っ!!」

「しゃーねーじゃん、悪魔なんだし」

「開き直るなぁぁぁっ!!!」


 悪魔に魅入られた時点で、平凡な日常なんかとはサヨナラしてるわけだから。
 今日も今日とて、天国は頭を抱えることになるのだった。




 ENDかも……









またやってますよこの話。
てなわけでテンション復活記念♪
普通にタグ打ってUPれよ、な長さの(ええそらもう相変わらず)芭猿パラレルでした。
結構好きな、りりむパロ。悪魔御柳と獲物天国。

タイトルはちょっと言葉遊び風。
あくまで(やっぱり、とかの意)
悪魔で(御柳の意)
飽くまで(飽きるまで)
などなど。
その他お好きなお言葉で。

いろんな御柳さん書いてますけど、この悪魔御柳が一番フラストレーション溜まってるように見えてなりません。
設定上一番キスその他いちゃこいてる筈なのに。
…やはり精神的な繋がりってのは大事らしいっすね(笑/他人事かい)
ついでに一番エロに近い位置にいるのもきっと悪魔御柳(ぇ)
ホラ、悪魔って欲望に忠実だからっ!

あ〜面白かったこの話♪
てか最近パラレルばっかやな〜。