日々徒然ときどきSS、のち散文
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2004/03/23(火)
SS・ミスフルパラレル]緑の向こうに見る夢は(天国の涯設定)


天国の涯【ヘヴンズエンド】設定、番外編第二段。
登場人物、天国と剣菱。






【緑の向こうに見る夢は】




 乾いた洗濯物を片手に、天国は3号室のドアをノックした。
 少し待つが、中からの返事はない。
 3号室のフルハウス…もとい剣菱は暇さえあれば寝ているので、それも珍しいことではないが。

 ドアノブに手をかければ、軋んだ音を立てながら開いた。
 部屋の中に足を踏み入れれば、やはりというか何と言うか、窓際に置かれたソファの上で剣菱がうたた寝しているのが見えた。

 閉め忘れたらしい窓から風が吹き込んでカーテンを揺らしていた。
 カーテンの色は、剣菱の髪よりか優しい、淡い色の緑だ。パステルグリーン、とでも言うのだろうが、天国には詳しいことは分からない。
 何を隠そう、カーテンを作ったのは天国である。
 正確には作らされた、のだけれど。


 剣菱が天国の涯に住み出してすぐのこと。
 ある日、大量の布を買い込んできたことがあった。
 何に使うんだろう、などと悠長に考えていた天国に、剣菱は有無を言わさずその布を手渡したのだ。
 意味が分からないでいる天国に、剣菱はいつもの表情、その笑顔を崩さずに言ってのけた。
 これでカーテン作ってよ、と。
 それは仕事の管轄外だ、と天国が言う隙を与えずに。


 結局押し切られた天国はカーテンを作ってしまった。
 ちなみに今天国がしているエプロンは、その時に余った布で作ったものだったりする。

「っつか、ちっと寒いし」

 どれほどの時間、窓が開け放たれていたのかは分からない。
 だが、部屋の空気がひやりと冷たいことから、相当な時間だったことだけは判断できた。
 ベッドの上に洗濯物を置くと、天国は窓に歩み寄った。
 窓を閉めて、カーテンを端に寄せる。

 その間も、剣菱は目を覚ます気配もなく寝入っていた。
 気持ち良さそうな寝息は、途切れる様子など微塵もない。
 寝顔というのは、得てして無防備なものだ。
 剣菱のそれも、例外なく。
 子供のような表情に、天国は思わず小さく笑っていた。


 丁度、その時。

「っくしっ」

「わ、びびった」

 唐突に剣菱がくしゃみをした。
 思わず目を丸くした天国だったが、それでも剣菱は起きない。
 ここまで来るといっそ才能なんだろうか、と考えながら、それでもこのままにしておくと風邪をひくだろうと判断する。

「フルハウス、起きろよ。風邪引くぞ?」

「んん〜…」

「おいって」

 無駄だろうな、と思いながら軽く揺すった。
 けれど案の定、剣菱は起きることなく。
 むにゃむにゃと言葉にならない言葉を口の中で言いながら、寝返りをうつ始末だ。

「毛布でもかけとくか」

 一人ごち、天国は剣菱のベッドからずるずると毛布を引っ張り出した。
 眠る剣菱に、巻きつけるようにして毛布をかける。
 多少乱暴になってしまったような気もするが、それでも起きないので問題はないだろうと判断した。


「っ、何だ?」

 さて用も済んだし部屋を出ようか、とした瞬間。
 引きとめられるような感触に、少し慌てる。
 見れば、何時の間にか剣菱の手が天国のエプロンの端を掴んでいた。
 いつの間に、と呆れながら、その手を離させようとしゃがみ込む。

 と、そこで剣菱がうっすら目を開いた。
 けれど目を覚ました、といった雰囲気ではない。
 とろんとした目は、いかにも未だに夢の中です、と言いたげで。

「んな眠そうな目されっとこっちまで眠くなりそーなんだけど」

「うん……」

「寝てろって。ゆっくりしてな?」

「ごめんな…………」


 言葉の最後は、音にはならずに。
 唇だけが動かされて、けれどそれが誰かの名前なのだと分かった。
 夢見心地に、剣菱は天国ではなく誰か違う人物を見たのだろう。
 愛しさと、少しばかりの哀しさ。
 入り混じった目に、膝を付きそうになった自分を天国は自覚していた。

「おやすみなさい」

 いい夢を、お兄ちゃん。

 囁けば、既に寝息を立てていた剣菱のその表情が、微かに和らぐ。
 おそらくはそれが、彼の欲しかった言葉だろうと踏んでの囁きだった。
 天国は、くしゃりと剣菱の髪を撫でて。
 剣菱の手をそっと外すと、立ち上がって部屋を出た。

 視界の端に映ったカーテンの、優しい色が。
 眠りの淵にいる彼に、優しい夢を与えてくれるといい。

 そんなことを、ぼんやり考えながら。




END






またも番外編。
ていうか剣菱さん寝てるだけですが。
ちうか天国さんが攻めに見えるような気がする(笑)
とか呟きながらも書いてしまいました。
男前な天国さん、好きなのですよ。普段あまり書けていませんけど(哀しい呟き)