日々徒然ときどきSS、のち散文
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2004/03/13(土)
SS・ミスフルパラレル]天国の涯【ヘヴンズエンド】2



【雨模様とグレープフルーツ】



 男は、御柳と名乗った。



 天国の涯に住む際の簡単な規約や、家賃のことなどを屑桐が御柳に説明しているその間、天国は屑桐が買ってきた荷物を整理していた。
 この界隈に住んで長い屑桐は、買い物の仕方も上手だ。
 袋の中からは缶詰やフルーツ、1号室の住人が希望していたミネラルウォーターなどが出てきた。
 中から出てきたグレープフルーツを指先で弄りながら、これを使ってゼリーでも作ろうか、などとぼんやり思考を巡らす。
 袋の一番上に入っていたせいか、皮の表面は僅かに水に濡れていた。
 指先に、細かい雫が触れる。
 その冷たさは、そのまま雨の冷たさだ。

「今日は一日雨かなー……」

 呟きながら、外の様子を伺う。
 窓の外は、相変わらずの雨模様だ。
 どんよりと曇る空の色は、重々しい灰色をしている。
 晴天は望めそうにもなかった。

 仕事が滞るな、と思わず溜め息を吐いた時。


「へヴン」

「ふへ?」


 屑桐に名を呼ばれた。
 振り向くと、どうやら話がついたらしい。
 屑桐は片手に部屋の鍵を乗せていた。
 その鍵は、銀色のところどころに赤錆が浮いていて、お世辞にも綺麗だとは言えない。
 鍵を目にしたらしい御柳が、そっと微苦笑をもらした。

「2号室だ。案内してやれ」

「あ、はい」

 いつの間に話が終わったのだろう。
 少し窓の外を見ていただけのつもりだったのだが、二人の会話がほとんど耳に届いていなかったことに、天国は少なからず驚いていた。
 元々、口数の多い方ではない屑桐のことだ、おそらく規約の説明とやらも簡単に終わらせてしまったのだろう。
 対する御柳の方も、面倒なことは嫌いそうなタイプのようだから、屑桐の話に適当に頷いていたのだろうと少し失礼ながらそんなことを考えた。


「こっち。着いてきて」

 カウンターから出て、天国は御柳にそう声をかけた。
 雨の中を歩いてきたせいか、すれ違った時に水の匂いがした。
 この街の雨は、少しだけ錆びたような匂いが混じっている。
 けれど天国はそれが嫌いではなかった。

 声をかけた時、御柳がわずかに口元を歪ませた。
 その笑顔は天国が好きな部類の笑い方ではなかったのだけれど。
 それでも何故か、天国は御柳に嫌悪を抱いたりはしなかった。

「オーナー」

 カフェの奥、天国の涯へと続くドアの前に立った時天国は屑桐を振り返った。
 屑桐は言葉を返すことはせずに、けれど視線をまっすぐに向けてくる。

「後でそのグレープフルーツでゼリー作っていいかな?」

「好きにしろ」

「あんがと」

 嬉しげに笑った天国に、屑桐は子供を見守るような表情を向けた。
 はからずしもその笑顔を間近で見ることになった御柳が瞠目していたのを、天国は気付かなかった。









勢いに任せて書いてしまいました…
邦画「ホテルビーナス」パラレルこと「天国の涯【ヘヴンズエンド】」です。
読みを「へヴンス」ではなく「ヘヴンズ」にしたのは何となくです。
このシリーズ(既にシリーズにする気なんですか)は1000文字前後を目安にしようと思ってます。
長いと疲れるしねっ。

ちなみに現時点で御柳の呼び名まで決まってます(笑)
天国の涯(2F)の間取りも考えました。
…そこまで考えてるなら日記に書いてないでちゃんとページ作ればいいのにな。
しかしまぁ自分が楽しいだけなのでそこまではなー…とまたも日記に書いているわけです。

ローカルカテゴリ、とうとう「SS・ミスフルパラレル」の項目作ってしまいました。
しかしそれでもミスフル多すぎです(笑)
日記は質より量。むしろ個人的満足。
小説部屋にUPってるのは量より質…というか、推敲を心ゆくまでやってます。
…誤字多いんすよ……


ちうか最近、気が向いたからSSを書く、ではなく気が向いたから日記を書く、になっている気がする…
日記の用途、激しく間違ってますな自分(苦笑)