日々徒然ときどきSS、のち散文
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2003/12/16(火)
SS・ミスフルパラレル]Heaven's kiss or Hell's kiss??(芭猿)


 猿野天国、15歳。高校一年生。
 只今、とてつもなく厄介なものに気に入られ中。



「だああああっ、いやだ、いーやーだーぁ」


 辺りに響く、かなり切迫した声。…というより、悲鳴。
 絹を裂くような、とは到底言い難い、男の。
 悲鳴の主は、言わずと知れた天国である。
 その悲鳴に返るのは、くつくつと楽し気な笑い声だ。

 厄介なもの=御柳芭唐。
 整った顔立ちは、どこかしら悪いオトコ的な雰囲気を醸し出していて。
 おそらく世の人間のほとんどが『イイ男』だと評価するだろう。
 そんな男に、天国は気に入られていた。
 いや、いっそ魅入られている、と言ってもいいかもしれない。


「諦めの悪い奴だな〜、おら、さっさと口開けろっつの」

「なんかエロいからその台詞! いや実際エロいことするしお前、いやだー!」

「お〜お、こりゃご期待に沿わなきゃな〜」

にやにやにや。
チェシャ猫を思わせる笑い方で、御柳が笑っている。
それを見た天国は、泣きたいような気分になった。
この後の展開が、悲しいことに手に取るように分かったからだ。

 引き攣った顔のまま、じりじりと後退る。
 けれど1歩下がれば2歩分、2歩下がれば4歩分距離を詰められて。
 足に何かが当たった、それに気取られた隙にするりと首筋に手が触れた。
 何度も触れられた、けれど慣れることなどないその感触に思わず肩が揺れる。

 その目に見つめられると、動けなくなる。
 ……なんて、一昔前の少女漫画じゃあるまいし、と自分でも思うのだけれど。
 どうしてだか、御柳の目を真正面から見据えてしまうと、天国は触れてくる手を無碍に振り払えなくなってしまう。
 まっすぐに向けられるその目は、今まで見てきた誰よりも真摯な色を湛えているから。
 だから、かもしれないと天国はぼんやり頭の隅でそんなことを思った。

 そんなことを考えている場合ではない、ことなんて分かり切っているのだけれど。
 いっそ諦めの境地にいるからこそ、考えが逃避と言ってもいいようなことに及んでいるのかもしれなかった。
 この状況下で、逃げられることができると思える程天国は楽観的な人間ではなかったから。
 何より、今までの経験上ここまで来て逃げられたことなど、一度たりとてなかったからだ。


「わ、ちょ、待てって…!」

「待たない」

「わ、ぅ……」

 半分諦めながら、それでも御柳を押し退けようとして。
 けれど逆に引き寄せられて、抱きしめられる格好になる。
 ふ、と鼻腔を甘いような匂いがくすぐった。

 ああ、どうして。
 こんな匂いがするんだろ、コイツ。
 香水とは違う、なんだか頭がぼうっとするような……

 肩を抱かれ、もう片方の手で頬に触れられる。
 逃げられない、覚悟して天国はぎゅっと目を伏せた。
 その表情を見た御柳が、くっと笑う。

「……いただきます」

 ぼそり、と囁かれた言葉は。
 悔しいことに、酷く甘く鼓膜を揺らした。
 そうして更に悔しいことに、触れた唇は。
 やっぱり、柔らかくて気持ちよかった。


 ……暗転。





 ではなく。
 ちょっとばかり長めのキスを終えて、その後。
 ようやく唇を解放された天国は、そのままくたっと御柳にもたれかかった。
 御柳はそれを支えてやりながら、すとんと床に座り込む。

「ぅ、だぁぁ……いつまで人の事触ってんだ、このバカ…っ」

 悪態をつく天国だが、その言葉に力はない。
 おまけに、未だに御柳の腕の中にいながらのその台詞には、当たり前だが迫力なんて微塵もなかった。
 御柳は、くたりと力の抜けた天国を腕の中に閉じ込め、満足そうに笑っている。
 肩にかかる頭の重さが、笑えるぐらい心地よくて。
 さらさらとその髪を梳けば、天国はいやいやをするように頭を振った。
 けれどやはり、その仕草にも力がない。

「いやー、なんてーかさ。キスする前と後のギャップがやっぱたまんねえって感じっしょ」

「何言ってやがる……吸いすぎだろ、お前…」

「お前、やっぱ美味いし。ついついなー」

 悪びれた様子など欠片もない言葉に、天国は文句を言うのも疲れて息を吐いた。
 何度同じことを繰り返したことか。
 いい加減言い飽きた。
 言わなければ言わないで自分の身が危険なのだろうとは思うのだが。
 一応今までも殺されたことはないから、それなりに考えてはいるのだろうなとは思い始めていた。

 天国の力が抜けたその理由。
 それは、御柳に生気を吸われたからだ。
 つい先刻交わした、キスによって。

 姿形は人間、それもかなり極上品な御柳だが。
 その正体は人の生気を吸って生きる、悪魔だったりする。
 何の因果か、天国はその悪魔に気に入られてしまったのだ。
 悪魔の力でか何なのか、上手い事天国の両親を丸め込んだ御柳は今では天国と一つ屋根の下で生活するようにまでなってしまっていて。
 キスついでにセクハラ紛いなことまで受けたりもするのだが、いつしかそれにも慣れ始めてしまっていたりして。

 このままじゃいけないこのままじゃいけない、と呟きながらも御柳を追い出すこともできず、同居生活は早1ヶ月が経とうとしていた。
 その間、段々と御柳に対しての警戒心だとか不審感だといった類の感情が徐々に薄れていきつつあるのを、天国はしっかり自覚していた。


「ぁぁぁぁ、ほだされてるかも俺ー……」

 情がうつったんだ、そうだそうに違いない。
 ぶつぶつ呟きながら、けれど御柳の腕からは逃れられずに。
 天国は体のだるさを言い訳に、そのまま目を閉じたのだった。
 そんな天国の様子に、御柳は笑いながらその頬にキスをする。
 天国は一瞬眉を寄せたが、結局何を言うでもなくジッとしていた。
 しっかりとこの生活に慣れ、馴染んでしまった自分に少しだけ涙したい気分に駆られながらも。


「な、さっきのキス。テンゴク、見えたろ?」

「……黙ってろ、この悪魔」


 END??






WJで「いちご100%」を連載中の河下水希センセが以前連載しておりました「りりむキッス」のパロでございます。
部屋の片付けっつか本の整理をしておりましたらりりむのコミックス(全2巻)が出てまいりまして。
およ、買ってたっけか。とか呟きながら読んでたらなんとなく書きたくなった次第でございます。

ていうか猿受人間ならりりむが猿だろ、って感じなんですけどもねー。
だってこっちのが書きやすそうだったし面白そうだったんだもん…
キスを強請るって言ったらみゃあのが書きやすいのですよ、金沢製の場合(笑)
一応キャストも考えてみた…けど書かないだろーから内緒。
相方には見せたが、誰だか分からない人もいたもんな…
まぁうちもコミックス見直さなきゃ分からないもん、当然だよな。

ちなみに、この話の冒頭部分。
またも携帯で地味に打ち込んでたりしました。
いいね、便利だね携帯。
書いててもバレナイもんね!
ビバ・文明の利器。