日々徒然ときどきSS、のち散文 |
2003/10/16(木) |
[SS・ミスフル]好きなんですゴメンナサイ(芭猿もどきゲーム話) |
好きなんですゴメンナサイ。 「屑桐さんてさ〜、牙神の格好似合いそう」 ぽつっと天国が洩らしたのは、雨がざぁざぁと窓を叩く、とある休日の午後のことだった。 何言い出してんのお前、と言いたげな顔で天国を見やったのは、同じ部屋にいた御柳芭唐だ。休日を良いことに天国の部屋になかば無理矢理転がり込んだのである。 「絶対あの人和服似合うって」 うんうん、と一人頷く天国の手元には、一冊の雑誌。 何気なしに覗いたそれは、御柳も買ったことのある理想郷(アルカディア)という名のゲーム雑誌だった。 覗き込んだページには、最近稼働したばかりの新作格ゲーの情報が掲載されている。 「あ〜、サムスピ、新作出たのか」 「みて〜だな。まだ見てないんだけどさ、俺も」 「お前誰使ってんの」 「俺はガルフォード。半蔵とかも使うけど。あ、でも今回閑丸いるし、コイツも多分使うかな〜」 お前は、と訊いてくる天国に、御柳は雑誌を覗き込みつつガムを膨らませた。 それは、考え込んでいる時の御柳の癖だったりする。 「右京、破沙羅、蒼月辺りだな。新キャラも使い勝手良さそうだったら使うかもしんねーけど」 「新キャラねぇ、でもどいつも癖ありそうじゃね?」 「この慶寅とか言う奴、見た目からだとまぁスタンダードな感じはすっけどな」 「あ〜、こっちのミナってのは癖ありそうだよな」 「てかサムスピの女キャラってどれもそうっしょ」 「だよな。慣れればいいのかもしんねーけど、ちっと使いづらい」 なんだかんだ言って、好きな話題で盛り上がる姿はどこにでもいる高校生だ。 特に共通の話題で話せるとなれば、楽しげなのは無理もない。 ちなみに今二人が話しているのは「サムライスピリッツ零」という格闘ゲームの話である。 「サムライスピリッツ」略して「サムスピ」というわけだ。 サムスピは何作か出ているシリーズ物で、格ゲー好きならばほぼ知っていると言っても過言ではないだろう有名作だ。 江戸時代を舞台に、侍や巫女、忍者や部族など様々な個性豊かな面々が派手な斬り合いを行う。 「で、何で屑桐さんが牙神なわけだよ」 「いや、似合いそうじゃん。和服和服」 「まぁこん中ならそうだろな」 「牙神の決め台詞のさ、阿呆ゥが! の代わりにバカは死ね、とか言ってさ。めっちゃ似合うじゃん!」 「……あー、似合うかも」 二人の言う牙神というキャラ。 屑桐の名誉の為にも言っておくが、見た目が似合いそうだというだけであって、性格は全くと言っていいほど屑桐向きではない。 何せ特技が男女問わずの千人斬り、趣味が博打、というキャラなのだから。 屑桐がこの会話を聞いて、詳細を説明されたなら大きく溜め息を吐いたに違いないだろう。 「凪さんはやっぱヒロインだしな、ナコルルしかいねーよなっ」 「……そーかぁ? お前が言ってんのって、あのボーっとしてそうな女だろ?」 「メガネ取って髪解いたら絶対いけるって。カワイイし!」 ちなみにナコルルとは、天国の言う通りサムスピのヒロイン的キャラだ。 かなり人気も高く、代表キャラと言えるだろう。 カムイコタンの巫女で、自然を愛し自然と対話することができる心優しき少女、という設定らしい。 カムイの衣装をイメージしてあるのだろう、白に赤のアクセントが入った服を纏い、手にも同じ色使いの篭手をはめている。 頭に赤い大きなリボンが結ばれているのが、特徴的で可愛らしい。 「あー…ぜってーカワイイよなぁ、凪さんがこの格好したら…」 頭の中で妄想、失礼想像しているのだろう。 天国がどこか陶然とした表情になる。 それに面白くなさげに眉を上げたのは、御柳だ。 まあそれも仕方ないだろう、曲がりなりにも二人は"恋人"という関係性にあるのだから。 けれど微妙に不機嫌になった御柳に気付かず、天国は嬉々として話を続ける。 「剣菱さんは髪形から蒼月だな、うん。雰囲気もどことなく似てるし」 「剣菱?」 「あれ、お前会ったことあんじゃん。こないださ、駅前のCD屋で声かけてきた人。凪さんのお兄さん」 「ああ、あの胡散臭そうな奴ね」 「それ本人に言うなよ……」 その指が指し示したのは、風間蒼月なるキャラだった。 濃紺色の長い髪を、常人ならばしないような結び方で束ねている。 冷たそうな、けれど穏やかそうにも見える笑みを口元に浮かべたその絵が、剣菱に重なると天国は思ったのだ。 御柳の言葉を否定しなかったのは、天国自身も少なからずそう思っていたからに違いない。 笑っていいものか咎めていいものか分からず、それでも可笑しさの方が勝ったのだろう、天国の肩はふるふると小さく震えていた。 「録センパイは、小っさいから閑丸かな〜」 笑いが収まってからの天国の一言に、御柳は珍しくどう答えていいものか逡巡してしまった。 天国が言っているのは緋雨閑丸というキャラのことだ。 記憶喪失という設定で、いつでもどこか淋しげな雰囲気が漂っている。 赤を基調にした上着を羽織り、黄色のたすきのような布を肩からかけている。 背中には、一振りの剣。 「てか、小さいってお前…」 「いーじゃん、髪ほどいたら丁度よさげだし。傘で攻撃! あの人なら出来る!」 「なんだそりゃ」 呆れたような御柳に、けれど天国は楽しくなってきたようで。 ずい、と御柳の鼻先に指を突き付けた。 「みゃあはアレだな、ゲーム違うけどエッジ行け!」 「エッジって…ジャス学か?」 「そ。惜しむらくは髪が足りねーことだけどなっ、雰囲気とか似てんじゃん。燃えジャスの時のエッジのイラストとか、ガム膨らませてたし」 「ていうか行けって言われてもな」 「いーじゃん、ノリだっつの」 天国は御柳の冷静な言葉に対し、べ、と舌を出してはにかむような表情をする。 他の人間がやったのなら表情変えずにパンチの一つでも繰り出した所だが、天国に対しては苦笑程度で済ませてしまう辺り、好きになればアバタもエクボ、だったりするらしい。 クールを通り越してコールド、冷血漢そうにしか見えない御柳の、意外な一面だ。 ちなみにジャス学、とは「私立ジャスティス学園」なる格ゲーシリーズだ。 先に出したサムスピとは開発会社が異なり、サムスピが2D格闘なのに対し、ジャス学は3Dだったりする。 ジャス学は、御柳はリアルタイムではやっていないのだが、天国の家にソフトがあったので何度か遊んだことがある。 エッジ、というキャラは所謂不良…むしろ一昔前のヤンキーを想像してもらえば分かり易い。 紫の短ラン、その中のハイネックも紫、オマケにヘアバンドも紫。 下ろせば恐らくは長髪ぐらいにはなるだろう髪を、全て天に向けて逆立てている。 そういやそんなイラストだったっけかなー、などと記憶を手繰ってみた。 そこでふと、同じゲームの中にいたキャラのことが頭を掠める。 「そしたらお前はアレっしょ、バツしかいねーっしょ」 「んあ? あー…そうかも。頭あんまり良くなさそうなトコとか」 「自分で言うかよ、普通」 呆れながら、御柳は天国の額を指先で小突いた。 それにくすぐったそうに目を細め、天国は笑う。 御柳の言ったバツ、とはジャス学の主人公キャラで、典型的な熱血タイプだ。 青い学ランに赤い指先のないグローブ、そして学ランの中には鎖かたびらを着込んだキャラだったりする。 「あ、でもジャス学って結構いるなぁ」 「あ?」 「夏は清熊っぽいし、梅さんはまんまランだし、司馬はロベルトだろ。な!」 「いや、分かんねーよ」 一人盛り上がる天国に、御柳はぺちりとその額を叩く。 やり込んでいないゲームの話は、イマイチ分からない。 それと同時に、天国の出してきた人物名にも知らない名前があったからだ。 ちなみにキャラ説明をすると。 夏とはバレー部員で背も高く、確かに清熊に似通っていると言えなくもない。 髪形や、男勝りな所、そして時折覗かせる女らしい表情などが。 格好は赤い長袖ジャージを腕まくり、と同色の短パンである。 ランというのは新聞部の部員で、こちらは性格や小道具から、梅星と酷似している、と言っても過言ではないだろう。 何せランの口癖は「いいネタない?」だったりするし。 格好の方も腕には腕章、片手にカメラ、頭にはサングラスを乗せていたりするのだ。 これで似ていない、とはお世辞にも言えないだろう。 違う所といったら髪の色と着ている制服の形ぐらいではないだろうか。 そしてロベルト、というのは…これはあまり、外見も性格も類似はしていないのだが。 おそらく天国が選んだ基準は、顔を見せないこと、だろう。 このロベルトというキャラ、サッカー部員でキーパーなのだが、サンバイザーの所為で目元が隠され、素顔の全容があらわにされたことがないのだ。 それが天国には司馬とイメージが重なったのだろう。 「あー…なんかゲームやりたくなってきた。な、対戦しね?」 「別にいいけど、やるからには賭けるっしょ?」 さらりと言い放たれた御柳の言葉に、天国はあからさまに眉を顰めた。 しばらく黙ったまま考え込んでいた天国だが、結論が出たらしくふっと息を吐いて手にしていた雑誌を閉じた。 その口元には、不敵な笑み。 「……まぁ、腕前は同じくらいだしな。いっか」 「上等」 「そっちがだろ」 そんなこんなで、雨の日、休日。 賭けに勝ったのがどちらかは、雨の向こうの話。 END わーーーーお。 また趣味走りまくりました。 格ゲー分からない人にはまったく面白くない話! しかもこれ金沢的にはまだまだ続けたかった!(マジかい) 一番ハマってるゲームシリーズ、KOFのことが一言も書けなかっただなんて…ッ悔やんでも悔やみ切れない思いでイッパイだぜ、ベイベ。 えーと、梅さんとランはマジに似てると思います。 これは是非一度ご覧いただきたいです。 それだけ(笑) |