日々徒然ときどきSS、のち散文
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2003/08/25(月)
SS・ミスフルパラレル]飛行夢を見た明け方(芭猿)


 それでも、今だけは。

 この手は、離せない。






    
飛行夢を見た明け方(そらとぶゆめをみたあけがた)






「天国」

 芭唐の呼び掛けに、天国は伏せていた瞼をゆっくりと持ち上げた。
 視界に入り込んでくるうすぼんやりとしたスタンドの明かりが眩しくて、喉から不明瞭にくぐもった声が洩れる。
 景色がハッキリしなくて、天国は子供がそうするように手の甲でごしごしと目を擦った。
 一連の天国の行動を見守っていた芭唐は、くっと笑う。

「起きろよ、1059番」

 言いながら、芭唐は天国の右肩に唇を寄せる。
 そこにあるのは、1059という数字のタトゥーだった。
 同様に、芭唐の右肩にも数字がある。
 こちらの数字は850だ。

 けれど芭唐の言葉に、天国は眉を寄せた。
 起き抜けで力が巧く入らないけれど、それでも捨て置けない。
 天国は芭唐の肩を押して自分から離れさせると、真正面から睨み上げた。
 芭唐のその、いつでもどこか気だるげな顔を。

「俺は、天国だ。その呼び方、よせよ」

「そりゃ、悪かった」

「悪いって全然思ってないだろ……」

 表情一つどころか声音も何一つ変えないままの言葉を、どうやったら信じられるというのだろう。
 天国は呆れ果てたように溜め息を吐きながら、くしゃりと己の髪に手を差し入れた。
 芭唐は悪びれもせず、そんな天国の頬に口付けた。
 芭唐のこの行動はいつものことなので、既に天国は慣れている。
 そのまま芭唐は、腕の中に閉じ込めるかのように天国の身体を引き寄せた。

 頬に触れる髪は、柔らかい。
 つい先ほどまでの情交を微塵も感じさせないそれが、なんだかやけに苛立ちを起こさせた。
 暗に、告げられたようで。

 俺はお前のものにはならない。お前のものじゃない。

 聞こえるはずのない声音が、耳を穿つ。
 それに苦しげに眉を寄せ、芭唐は天国の肩を強く抱いた。
 爪が食い込むほどの力で、強く。

「ッ……」

 天国はその痛いほどの力に息を呑んだが、ただそれだけだった。
 芭唐を詰ることも、ましてその腕を振り払うこともしない。
 許容している、というよりも。
 天国にとっての芭唐の行動は、全てが当たり前のことだったから。
 隣りにいるのも、抱きしめられるのも、キスをするのも。
 天国にとっての芭唐の存在は、全てが当然のことだった。
 けれどそんな自分の行動が、芭唐を追い詰めているのに天国は気付かない。

 いっそ悲鳴を上げて、拒絶してくれれば。
 そうされることできっと傷つく自分を分かっていながら、そう願わずにいられない。

「芭唐?」

「お前、なんかいー匂いする」

「匂い?」

「そ、なんか」

 言いながら、芭唐は天国の肩に額を乗せた。
 さっき指先を食い込ませた肩は、きっと痣になっているだろう。
 それでも天国は、きっと。
 その痣を見てさえ、何も言わない。
 分かり切ったそれが、無性に心を冷えさせた。

「あまくに」

「なんだよ?」

「……眠い」

「は? ちょ、このまま寝る気かよ、オイッ」

 慌てた声が、耳をくすぐる。
 それだけでも、充分だと思えた。
 多くが欲しい、わけじゃない。
 殊勝なことを言っていると思う、我ながら。
 それでも、ただ一つ。

 たった、一つだけ。

 この手に欲しいと、そう思うもの。
 それが今は、この手にあるから。

「お前も寝りゃいいっしょー」

「芭唐っ」

「うっさい。寝る」


 たとえば、この先で。
 この手を離す日が来るのだとしても。

 それならば尚の事、今だけは。



◇END◇







死神芭唐と死神天国でした。

まーたパラレルってます金沢です。
アンタ、またこんな需要の低いもん書いて何がしたいのよ……
というPCの前での皆様の呟きは私には届きません。
メールで言ってください(爆笑←お前最低)

そんなこんなでパラレルです。
てかプランツネタに引き続きWパロなんですけれども(うわ)
谷川史子センセの「魔法を信じるかい?」との。
ってか古本屋で立ち読みしようとしてツボり、速攻買いに走りましたv
……っていうね。
すいません天使とか悪魔とか死神とかダメなんです大好きなんです。
そんでネタにしてんのか自分……

しかもこれってば芭猿のくせして最終的には馬猿になるんだよね(笑)
芭vs馬猿です。
芭猿と馬猿は同時空間では書けないとか言ってたくせしてしっかりネタ思いつきやがりましたよコイツ。

でも逆ヴァージョンもあるのです。
馬vs芭猿で芭唐とくっつくパターン。
これはまた設定が変わるのだけどもね。
んでもこっちだとほぼ原作まんまだし、こっちは書くか分からん。
書いても断片かも〜。

…ってしっかり書く気満々ですよこの人。
誰か止めなくていいんすかね〜地球の今後の為にも……
ネタバラシばっかしてるけどさ…

あ、そんで嬉しいことーv
うちのサイトでは猿は芭唐を「みゃあ」呼びしてるわけですよ。(普及するとええなあ、とかこっそり思ってたり思ってなかったり)
したら、今回買った「魔法を信じるかい?」の中にあった読みきり(一巻だったかな?)に同じ呼び方が出てきたのー★
いやもう偶然とは言えガッツポーズっすわ。
いや、そっちの男のコは「三宅くん」で「みゃあ」なんですけどもね。
それにしたって嬉し〜いのだ♪

そんなこんなでこれからも御柳の「みゃあ」呼びはやめませんとも。
孤独に貫いてやるともさッ★★
なんかテンション高いな〜……