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日々徒然ときどきSS、のち散文 |
2003/07/16(水) |
[SS・ミスフル]Children's Kingdom(墨蓮と猿野+α) |
「すーみーれーちゃん」 「あれ、猿野? なんだよ、どうしたんだ?」 「こないだ言ってた本、持ってきたー」 「え、マジ? うーわ、わざわざありがとなー」 「へへっ、なぁなぁ、今日一緒に帰ろうぜー?」 「いいけど……俺まだ練習あるよ?」 「俺も混ぜろ!」 「……へ?」 Children's Kingdom 「あ〜面白かった。いつもやってるのと違う事すんのっておっもしれーのな!」 なんだかんだ言って、天国は華武3軍の練習に混ざってしまった。 今は練習も終わり、使った用具の片付けの最中だ。 1、2軍とは違い専用グラウンドの使用が許されていない3軍の練習は、見た目には地味なものが多い。 けれどその苛酷さは1、2軍に勝るとも劣らない。 皆、1軍行きのために何より必死だからだ。 天国はそこに混ざり、けれど終わった今も何が嬉しいのかうきうきとした素振りを隠そうともしない。 途中からだったとはいえ、相当の運動量をこなしたはずなのだが。 「お前、疲れてねーのか?」 誰かが、呆れ半分にそう声をかける。 天国はその言葉に不思議そうに目を瞬かせて。 「そりゃー疲れてるに決まってんじゃん」 「じゃあもう少し疲れた素振りしろよ……」 「なんでだ?」 「なんでって……」 言葉に詰まった相手に、天国はにーっと笑う。 してやったり、な表情だ。 悪戯を成功させた子供の見せるような。 「疲れてっけどー、でもさ、楽しいじゃんか」 「楽しい?」 「そ。自分が一つでも多く球をキャッチした、投げた、打った。そういうのがさ、自分の力になんだぜ?」 「………」 「そんなん、楽しくないわけがねーっての!」 俺は楽しくてたまんないねー! などと言いながら天国は笑う。 その会話を聞くとはなしに聞いていた墨蓮は、ふっと苦笑にも似た笑みを零していた。 まったく、単純な考え方だ。 まるきり子供のものだ。 けれど。 それが悪いとは思わない。 きっとその考え方は、誰しもの根底にあるものだからだ。 野球が好きだから、楽しいから、だから続ける。 それは当たり前だけれど、何より大事なこと。 大事なことだけれど、ともすれば忘れがちなこと。 天国は笑って、それを言う。 忘れてんなよ、と諭す。 本人にその気はないのだろうけれど、気付かされる。 それでもそれが決して嫌味には感じないのだから、得な人種だよなぁ、と思わずにはいられないが。 「猿野」 「なんだ、すみれちゃん?」 「俺、着替えてくるから。水道のとこで待ってて?」 「了解〜。手ぇ洗ってるなっ」 墨蓮の言葉に天国は頷き。 鞄を手にしてぱたぱた走り去る後ろ姿を見送った墨蓮は、今度こそハッキリと苦笑した。 元気だなぁ、と。 子供というよりか、子犬を想像してしまう。 ふりふり尻尾を振りながら、誰にでも愛嬌を振りまく。 「まったく…重症かも」 一人ごち、墨蓮は額を押さえた。 自分で自覚しているよりずっと、猿野の存在が大きかったことに。 「でもま、悪くはない、かな」 手を洗うついでに、顔も洗って。 持参したタオルで顔を拭いていたら、突然手首を掴まれた。 「わ、な、何だ?」 「何、ってーのはこっちのセリフっしょ」 目元のアイメイク、膨らまされたフーセンガム。 天国は唐突に目の前に現れたそれに、目を丸くした。 「華武のフーセン!」 天国の言い様に、御柳は不機嫌そうに眉を寄せる。 目つきがよくないのも手伝って、それだけで充分迫力があるのだが。 天国はそれに動じることもなく御柳に視線を向ける。 ま、この程度でどうこうなるような奴じゃねーのは、こないだで分かってっけどな。 内心で呟き、御柳は唇を歪めるように笑う。 それを目にした天国は、怪訝そうに首を傾げた。 「何か用なのかよ?」 「てーかさ、お前、人様の名前も覚えられてねーわけ?」 「んなわけあるか!」 あからさまにバカにされた言い方に、天国はムッとした表情になる。 感情をストレートに出すのは、天国の長所であり短所だ。 すぐに噛みついてきたのに、御柳は可笑しそうに笑う。 それがまた、バカにされているように見えて天国は掴まれていたままだった手を、乱暴に振り解いた。 あーあ、ったく馬鹿力な奴。 まあいいか。 「じゃー俺の名前言ってみ?」 「御柳芭唐! どうだ、間違ってるかよ?!」 「なんだ、覚えてんじゃん」 「ったりめーだっての!」 腕を組んで、天国は仕返しとばかりに舌を出した。 子供っぽい、としか形容できない仕草に御柳は思わず笑う。 「なんだよ、何笑ってんだよ?」 「いや、なんとなく」 「……馬鹿にされてんの? 俺」 「違う違う」 言いながら御柳はひらひらと手を振るが、笑いながらではその言葉に説得力など皆無で。 天国は眉間に皺を寄せた。 と、唐突に御柳が天国の前髪に触れてくる。 突然のことに反応できなかった天国は、無言でそれを見守る格好になってしまう。 「髪、濡れてんぜ?」 「顔洗ったからだろ。てーかマジ何の用なんだよ?」 「だーから、それはこっちのセリフ。お前、何やってんの? うちの学校で」 「何って……」 すみれちゃんに会いに来た。 そう言おうとした所で、天国は自分を名を呼ぶ声に振り向いていた。 「猿野、お待たせ」 「すみれちゃん!」 「あれ、誰か……御柳?」 墨蓮の驚きになど頓着せず、天国はぱっと嬉しそうな表情になる。 尻尾があったなら確実に嬉しげに振られていたであろう表情。 そのまま、天国は墨蓮の元へ駆け寄った。 「おっせーじゃん。俺腹減った、早く帰ろうぜ」 「いいけど……何か話してたんじゃ?」 「んー、話してたって感じでもねーけどなぁ? 別に用があるわけじゃなさそーだし」 言いながら御柳を見やる天国は、あからさまに不機嫌オーラを放っている御柳に気付かないらしい。 墨蓮は、それにそっと苦笑を洩らした。 あーあ、おかげで睨まれてるし、俺。 ゆっくりと歩み寄ってくる御柳は、表面上には笑みを貼り付けていたりするものだから。 その図は、余計に恐かったり。 御柳は天国の前に立つと、殊更ゆっくりとした動作で墨蓮に目を向けた。 それから、天国に視線を戻す。 「なんだ、墨蓮と知り合いなんかよ?」 「知り合い? なーに言ってんだよ、知り合いなんてもんじゃねーよ。仲良しだっ、な? すみれちゃん?」 「……ふーん」 同意を求められたのに頷くのは躊躇われ、曖昧に微笑ってみせれば。 膨らませたガムをぱちん、と割りながら御柳が目を細めた。 うわあ、睨まれてる、睨まれてるって。 てーか猿野、少しは気付こうよ…… 「なーすみれちゃん、帰ろうって。腹減ったつったじゃん、俺」 「ああ、うん。それじゃ、御柳。また明日」 「じゃなー、御柳ー」 「んー」 やっと帰れる、と笑顔の天国と。 明日が恐いな、と苦笑している墨蓮と。 何を考えているのか、ガムを膨らませている御柳と。 三者三様。 けれど。 横で上機嫌に鼻歌なんぞ歌っている天国に、墨蓮は何があったのか問うのはやめることにした。 きっと大したことじゃないんだろうし。 俺には関係ないし。 「すみれちゃん、どこ行くよ?」 「吉牛にしようか」 「オッケー。……奢り?」 「奢りません」 「ちっ、ダメか」 「俺だって猿野と同じ、貧乏学生なんだから。無理言わない」 「ほーい」 とりあえずはまぁ、いっか。 だってホラ、こうやって隣り合わせで歩いていられるワケだし? 子供な気分で笑ってても、いいよ。 むしろそれが嬉しいから。 「すみれちゃん?」 自分を凝視しているのに気付いたのか、天国が首を傾げる。 それになんでもないよ、と笑ってみせて。 墨蓮は、自分がひどく穏やかな、それでいて世界のてっぺんに立ったかのような優越感をも同時に感じていることに気付いていた。 それは多分。 「猿野がいると、楽しいな」 「ふへ?」 「こうやって話ができるようになれて嬉しいって言ったんだよ」 「俺も、すみれちゃんと仲良くなれて嬉しいけど?」 「うん、ありがとう」 「こちらこそ、だな。これからも宜しくッ!」 笑い合いながら、二人して頭を下げてみたりなんかして。 そうして、帰路に着くのだ。 二人、並んで歩きながら。 変わらないものなんてないけど。 変わってしまうものもないんだと。 そう、教えてくれた笑顔のままで。 いっそ残酷なほど、笑ってて。 だってホラ、子供たちは、みんな王様。 誰しもが、自分の世界で一等賞。 ◇END◇ わ、ラストが微妙ですんません…… でもすみれちゃん書けて楽しかった〜♪ しかし捏造もここまで来ると失笑するしかない、みたいなノリですが今回。 墨蓮て。 未書きでしょーよ、そりゃ……みたいな。 自分的には墨蓮の性格付けは「白司馬+御柳」で「口調は牛尾氏に現代若者風Re-MIX」って感じみたいです(笑) うわーい書きやすかった★ とりあえず性格判断が9巻のそこかしこに出てる墨蓮と、同じく9巻のバレンタインランキング発表時コメントしかないわけで。 そこからこう、無理矢理ひねり出したっつーか。 でもね、結構やる時ゃやると思うよ? そーじゃなきゃ2軍どころか華武の野球部にはいられないと思うし。 そんなこんなで書いてみた、墨蓮ちゃんなのでした。 名前が分からないので、呼び名はすっかり「すみれちゃん」で定着です。 学校で携帯にTELかかってきたのにうっかり出たりなんかして、それで更にうっかり「すみれちゃん」なんぞ呼んじゃって色々波紋を……←捏造捏造 あ、ちなみに今回の天国は意図的に幼く感じられるように書いてまする。 題名が題名なんで。 てか昨日書いたピンポン(ぺコ)に引きずられてるような(苦笑) タイトルは音の響きで直感的に。 あまり深い意味はなく。 しかし久々の英タイトルだ(笑) |