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日々徒然ときどきSS、のち散文
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2003/07/07(火)
[SS・ミスフル]清廉な嘘を繰り返す手のひら(蛇と猿もとい明美)



 本日、七夕。

 生憎の雨模様。

 年に一度の逢瀬は、曇り空の上。




   
清廉な嘘を繰り返す手のひら




「へ〜びが〜み先輩ッ★」

 既にその登場が驚かれることはなくなった、明美。
 無論それは天国の女装姿なのだが。
 最近とみに違和感がなくなってきたというか、手慣れたというか、ともかくその登場に以前ほど反応を示す人間が少なくなってきたのは事実。

 その明美はと言えば、何故か蛇神がお気に入りらしく。
 事あるごとに蛇神にモーションをかけに来る。
 傍から見ていれば絡んでいる、とも言えるそのアタックに。
 けれど蛇神は、怒るでもなく困ったように眉を寄せるぐらいだ。

 天国…もとい明美は、そんな蛇神ににっこり笑いかけ。

「今日、お誕生日ですよね? おめでとうございます〜」

 言いながら明美は小さく首を傾げる。
 これも、最初の頃は見られなかった仕草だ。
 天国は貶されれば貶されるほど燃えるタイプらしく。
 可愛くないだの化粧が濃いだの女のコはそんな足を開いて座らないだの、一言言われるその度に次に明美に変身(という言い方が正しいのか否かは置いておくとして)する時には言われたことを克服していたりする。
 沢松の話によれば、雑誌やTVなどで情報チェックなどもしていたりするらしい。

 そんな甲斐甲斐しい努力の成果もあってか、最近の明美は以前に比べれば格段に可愛らしい。
 いや、それでも男であるということに変わりはないのだが。
 しかしながら、このノリのまま進んで行ったら文化祭辺りでまず間違いなく仮装喫茶でウエイトレス指名されそうなぐらい(ちなみに拒否権なし)には、見られるようになっていた。

 そんな今日の明美は、相変わらずどこから調達してきたのかチェックの膝丈くらいのプリーツスカートに、襟と袖が丸くカットされていて可愛らしいデザインのシャツ。それにスカートと同じ柄のリボンを結んで。
 本人曰く、「今日は可愛い系を目指してみました♪ ライバルは●トゥーよっ」とのことらしい。


 それはともかく。
 今日は、七夕だ。
 明美の言葉通り、蛇神の誕生日である。
 しかしながら今日は、生憎の雨。
 朝練はなかった。

 よって、意図して会おうという気がなければ、学年の違う二人が顔を合わせることはありえない。
 けれどどうしても蛇神に会いたかった明美は。
 三年生の教室がある廊下で蛇神を待ち伏せる、という行為に出た。
 そうして、先ほどのセリフに繋がるわけだ。

「早いな、明美殿」

「そんなことないですよ〜、だって蛇神先輩に会いたかったしv」

「して、今朝は如何された?」

 流石、蛇神先輩。
 すでに明美を明美として扱うことに慣れたらしいな。
 ちっ、ちょっとつまらん……

 内心で、明美ではなく天国として呟いてみたり。
 仕掛ける側としては、相手がそれ相応のリアクションを起こしてくれなければつまらないのだ。
 大体今日はちゃんと目的があってここまで来たのであって、それを達成しないことには自分の行動は無意味になってしまう。

「今日は蛇神先輩の誕生日だって聞いたんで〜、明美、先輩に贈り物したいなって思って」

 言いながら、背中の方へ回していた手を前に持ってくる。
 そこにあるのは、渋い抹茶色をした風呂敷。
 ……風呂敷?
 そう、それは正しく風呂敷包みだった。
 何かを包んでいるらしく、風呂敷のわりに可愛らしい結び方をされている。それを結んだ人間のセンスが分かるような。
 結んだのは無論、明美なわけだが。

「お誕生日おめでとうございまっす★ 先輩の雰囲気に合わせて、包装紙じゃなくて風呂敷にしてみました。地球に優しく、かつ使い易さも考えて」

「それは…気を遣わせてしまったようだな。かたじけない」

「そんなぁ、だって私蛇神先輩ラヴですもの。受け取っていただけますか?」

「ああ、有り難く使わせていただく」

「きゃ、明美感激です〜」

 …朝も早くから異様に濃い光景が廊下の片隅で展開されている。
 幸か不幸か、それにツッコミを入れられるような人間はこの場には存在していなかった。
 これが朝練終了後の部活だとか、他の部員が訪れやすい下足箱付近だとかだったら、また話は変わったのかもしれないが。
 おそらくは、明美の計算だろう。

「じゃ、そろそろ帰りますね〜」

「雨の日の廊下は危ない也。気をつけて行かれよ」

「はい、ありがとうございます★ あ、先輩。それ、できれば早めに見てみてくださいね?」

「承知した也」

 頷く蛇神を見て、明美は嬉しげに笑った。
 いや、その表情は明美ではなく、天国のもので。
 明美の後ろ姿を見送ってから、蛇神は包みを開いた。

「経文包み…か」

 中から出てきたのは、おそらく明美手製だろうと思われる布製の袋が出てきた。
 関わり合いのない者には、一見しただけでは用途が分からないだろうと思われるそれ。
 けれど常日頃から仏神と共に在る生活を送っている蛇神には、それが何かすぐに分かった。

 柄は、やはりと言うか何と言うか、流石明美、としか形容のできないものではあったが。(紫のペイズリー柄だったのだ)
 それでも縫製はしっかりしているし、どうやらちゃんと蛇神の誕生日を祝うものであるらしい。

「…なんだ?」

 包みの下に、小さな紙が挟まっている。
 取り出し、二つ折りのそれを開いた。
 そこに書かれていたのは、明美からのメッセージ。
 字面まで可愛らしい丸字になっているのは、芸が細かいというか凝り性というか。

『天国君からの伝言です。昼休み、暇だったら音楽室にいらしてください、とのことです。 明美』

 明美殿からの文面にしては、控えめだな。
 そんなことをふと思い、明美の破天荒ぶりに慣れてしまっている自分に気づきわずかに苦笑した。
 明美は、確かに無茶苦茶をやったりするが。
 それでも、人を貶めたり傷つけたりするようなことはしていなかった。
 いわばアレは、照れ隠しの一端でもあるのだろうと思う。
 盛大すぎて分かりにくいが、何度か接しているうちに蛇神はそれを解していた。

 清廉な嘘。
 ふと、そんな言葉が浮かぶ。
 天国が明美になるのは、大体にして自分ではできないことをしたい時にだ。
 状況は様々だが、そんな時が多い。
 蛇神に妙にモーションをかけてきたのも、素のままでは声がかけづらかったからだろう。
 

 途惑いはあるが、かけられる声に嫌悪を抱いたことは、一度もなかった。
 物怖じせずに人と向き合う、その姿勢は大した物だと思う。
 蛇神は、自分がどちらかと言えば接しにくい性格であろうことは理解していた。
 自分だけではない、野球部にはそんな人間が数多く在籍している。
 けれど、天国は。
 そんな空気など物ともしなかった。
 笑って、少し照れて、警戒の欠片もなく懐く。

 子供のようなまっすぐさは、時として残酷だ。
 今では失ってしまったそれを、思い出させるから。
 けれど、天国は疎まれることはない。
 それは天国の人間性からくる魅力だとでも言うべきか。

 ああ、我もそれに魅せられた人間か。
 それでも、悪い気はしない。


「昼休み、か」


 呟いて、蛇神は明美からのメモを元通り二つ折りにして。
 己の教室へと足を向けたのだった。





 七夕、雨。

 雨音を聞きながら過ごす。

 天に願いを乞う代わりに、誰かの傍で。




◇END◇











どこの古武士だよ、先輩。
な感じで第三段は生誕記念に合わせて蛇神さん。
しかもまた自分設定(=天国ピアノ得意)やっちゃったよ。
だって好きなんだもーん、ピアノ!!

てか雨やなー。
残念だなー。
しかし七夕って大概天気悪くね?
ま、どーでもいっかぁ。

んなわけで、ハッピーバースディ、蛇神しゃん。
しーっかしまた文字数食ってんな。
その上タイトルシリアスなのにびみょ〜にギャグちっくだし。

……放っとけ。
微熱続きで頭くらくらしてんだよ。
あは。