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日々徒然ときどきSS、のち散文 |
2003/07/02(水) |
[SS・ミスフル]薬も過ぎれば毒となる。(芭猿前提の屑+猿) |
「あれ、屑桐さん?」 呼んでから、焦って口を押さえる。 あ、やべ。つい名前が出ちまった。 思ったことをすぐ口に出す癖は何とかしないといけない、と常々思ってはいるのだが。 いかんせん一度染み付いた性格というものは、そう簡単に変えられるものでもなく。 反射的にうつむいてしまった顔を上げると、名を呼ばれた本人はしっかり立ち止まっていた。 天国が言葉に困って曖昧に笑うと、屑桐は不審げに片眉を上げた。 「猿ガキ、か」 「…猿野天国、っす」 ああ、やっぱり俺ってばそういう覚え方されてるワケね。 苦笑して、天国は己の名を告げる。 まあ何だかんだと真面目な性格をしている彼のことだ、自分の名前を覚えていないということはないのだろうが。 天国の言葉に、屑桐はわずかに瞠目した。 その態度が、存外目上の人間に対するそれだったので。 対峙したのは通算二度。 そのどちらもが破天荒で、どちらかといえばがむしゃらでに無茶苦茶な場面だったからか。 普段から傍若無人ぶりを発揮しているのかと思っていたのだが。 どうやら、意外に常識は弁えているらしい。 屑桐がひとしきり天国の性格分析をしているうちに、天国は数メートルあった二人の間の距離を縮めていた。 目の前までやってきて、ぺこりと頭を下げる。 「こんちはっす。なんか、呼び止めるつもりじゃなかったんですけど。すいません」 「いや……別に、構わないが」 「俺が、声をかけてくるとは思わなかった?」 「まあ、そうだな」 ここで偽っても仕方がないので、正直に頷く。 屑桐の反応に、天国はふっと笑った。 先の練習試合の時には見せた事のない、柔らかな表情だ。 「屑桐さんは、ランニング中…ですよね、その格好」 「ああ。お前は何をしているんだ?」 時間帯的には、部活は切り上げられているはずだ。 また天国は制服でもないので、帰宅途中ということもないだろう。 なので、ふと。 こんな場所で何をしていたのか、気になった。 「買い物帰りです。ホラ、スーパーとかって閉店間際に安くするでしょ」 言いながら天国は片手に持っていたビニール袋を持ち上げた。 がさり、という音がする。 白い袋には、赤いインクで某全国チェーンのスーパーのマークが記されていた。 「意外だな」 「何がっすか?」 「買い物などするとは思わなかった。まして、値引きの時間を気にするとは」 「あ〜…高校から弁当自分で作ってるんで。朝練とかで早いのに親起こすの悪いじゃないですか」 そんでおかずだ何だと自分で買うようになってから、つい主婦のような習慣がついてしまったのだと。 少し照れたような表情で、天国は言う。 ああ、こんな表情もするのだな、と。 酷く冷静にそんなこと考えた。 くるくる変わる表情。 きっとそんなものは、彼と同じ十二支に通う人間ならば見飽きるほど見ているに違いない。 「孝行しているな」 「へ? いや、そんな大したもんじゃないですけど。一度作ったらなんかこう、癖になったっていうか……」 屑桐の言葉に、天国は慌てたような素振りでわたわたと手を振った。 ゼンマイ仕掛けの玩具か何かを見ているようで、思わず口元が緩む。 「そ、それにっ! 屑桐さんだって自分で作ってるんでしょう? 唐揚げとかすっごい美味しいって!!」 「……ちょっと待て。何故お前がそんなことを知っているんだ?」 「へ? みゃあに聞いたんすけど……」 みゃあ? 天国の告げた名に、思わず眉を寄せる。 そんな屑桐の表情に気付いた天国は、慌てて付け加えた。 そうだ、俺が付けた俺だけが分かる呼び名で言っても分かるワケないんだよな。 「あの、御柳っす」 「御柳と付き合いがあるのか?」 「え、あ、はあ。ダチっていうか、悪友っていうかで」 「そうか」 ……最近。 御柳の態度がどことなく柔和になったのは、部内どころか校内でも噂されていた。 入学、入部当初はいつでもつまらなそうに、だるそうにしているのが常だったのだが。 まぁ根本的に面倒くさがりなのは性格なのだろう、変わらないのだが。 ふとした仕草や、態度や、表情が。 今までの御柳とは、どこかしら。 微かにだが、確実に変わっていた。 好奇心旺盛、かつストレートな朱牡丹が聞いたことがある。 最近機嫌よさそうだが、何かあったのか、と。(実際はいつも通りの口調で語尾に顔文字付きだったが) それに御柳は、いつものシニカルな笑みに幾分か楽しげな色を乗せて答えた。 『毒を手に入れたんっすよ。ああ、つってもこれは比喩的表現になりますけどね。ともかく、それのおかげでえらく気分がいいんです』 その時は、その場にいた誰もが首を傾げるしかなかったが。 屑桐は、今ようやく合点がいった。 御柳の言う所の"毒"本人からの言葉によって。 「あの……屑桐さん?」 「すまない、明日のことを考えていた」 「明日の弁当のことっすか?」 からかい混じりの天国の言葉に、けれど屑桐は真顔で頷く。 え、と天国が驚いた顔をした。 「久々に唐揚げでも作るか、とな」 「屑桐さんってもっと堅物な野球一辺倒なのかと思ってましたけど。案外、面白い人だったんすね」 「……何がだ?」 「いや、天然っつーか……と、ちょっとスイマセン」 楽しげに笑っていた天国が、眉を寄せて小さく頭を下げた。 ジーンズの後ろポケットから取り出したのは、シルバーの携帯だ。 それが、ぶるぶると震えている。 天国は慣れた様子で携帯を開き、表示されている名前を確かめてから通話ボタンを押した。 「もしもし? ああ、外。買い物帰り。……えっと、川沿いの土手」 天国の表情は、電話に出る前とは打って変わって嬉しそうだ。 相手の声は、よく聞こえない。 別に聞く気もなかったが。 「荒川に決まってんだろ。そうそう、今な〜ビックリする人と一緒に…って聞けよ人の話! は? ちょ、待てって、行くわけな……!」 ぷつり、と。 無情な音を立てて電話は切れた。 携帯に表示される通話時間は、1分にも達していない。 「おい? どうかしたのか?」 ぽかんと携帯を見つめたまま銅像よろしく動かなくなった天国に。 屑桐がそう声をかけると。 突然天国が顔を上げて屑桐の顔を真正面から見据えた。 あまりの勢いに驚いて、思わずのけぞりそうになる。 「……どうにかしてくださいよ」 「何だ、いきなり」 「今の、電話」 「御柳か?」 「そうっすよ!! なんなんですかアイツ! なんだおい、俺様か? 俺様何様芭唐様なのか?! 俺はそれに使える従者なのか?」 うわあああ、と叫びつつ天国はぐぐぐ、と携帯を握り締めた。 力を入れ過ぎたせいで爪が白くなっているが、そんなの知ったことじゃないらしい。 天国が何を言われたのかは、大体想像がついていた。 相手の意見を聞かない強引な、けれど御柳らしい呼び出し方。 これがお前の『毒』か、御柳。 胸の内でふと、そう呟く。 強烈な光を放つ双眸。 引力のような強さの存在感。 強すぎる薬は、毒となる。 煙草や麻薬への依存と同じ。 ……引きずられる。 「てか屑桐さん、呆れてないで何か言ってくださいよ……」 「お前のような人種は周りにいないのでな。対応をどうすべきか考えていた」 「真面目っすね」 「普通だろう」 「御柳に見習わせたい……」 言いながら肩を竦める天国は、言葉ほど嫌そうな表情ではなかった。 正反対に見えるからこそ、上手くいくこともある。 きっと天国と御柳もそれなのだろう。 どちらにしろ、御柳の変化は悪い方への変化ではない。それはつまり、天国の存在がプラスの方向へ働いているということだ。 そう結論づけた。 「じゃ、俺そろそろ行きますね。呼びとめちゃってすいません」 「いや……転ぶなよ」 「何歳だと思ってんすか……」 「癖だ。気にするな」 家では弟妹の面倒を、学校では主将として後輩の面倒を見ている屑桐は、得てして面倒見がいい。 天国に声をかけてしまったのも、ついいつもの癖が出たのだった。 天国はそれに脱力したが、すぐに笑った。 目を細めて、口元を緩ませて。 子供のような笑い方だ、と思う。 互いに背を向けて、行く先は反対方向。 と。 「屑桐さん、今度唐揚げのレシピ教えてくださいねー!!」 御柳連絡網にしていいっすからー! 背中からかけられる言葉に、片手を上げて答えた。 連絡網にされた御柳は、一体どんな顔をするだろうか。 ましてそれがレシピを教える為だなんて知った時には。 ああ、確かに。 あれは、毒かもしれない。 強すぎる光を放つ、毒。 それが、これから先自分に、ひいては華武にどう影響してくるかは分からない。 今は、まだ。 ただ、そう悪いことじゃないと。 そう思った。 踏みしめた足の下で、砂利が音を立てた。 ◇END◇ (今日の微熱報告)相変わらず微熱下がらず。 ってかここ何日か6度6分より下の数値にお目にかかれません。 今日はしつこく3回はかって3回とも6度6分ジャスト。逆に面白い。 微熱が平熱化してきてる感じ。頭痛いの慣れちゃった。あははははは …だから普通に小説で書けよ。 4000文字超えてんじゃねーか。 屑桐さん初書きでございます。 書いたことない人、苦手な人に挑戦月間に勝手にしてみようかしら。 あ、日記に限っての話ですけれども。 いやでもそんなこと言ってまた好き勝手に書き殴るんだろうけど。 てか荒川とか実名出しちゃってるし。 埼玉県ってことなので、十二支は埼玉の東にあるの希望。(ってか自分がその辺住んですから書きやすいんだよね〜) 華武は十二支の北で、セブンブリッジは東京寄りの埼玉。 とか勝手に捏造していく奴(笑) 卍は埼玉の西の方で、音瓶は真中ら辺?(←聞くな) 名前忘れたけどパスタのトコは卍と音瓶の中間くらいかな。 とかとかどんどん捏造してみたり。 好きな言葉は捏造です。 バイトだ、面倒くせ。 ってか冷房寒いんだってば。 今日も行くなり設定温度を上げようっと。 |