日々徒然ときどきSS、のち散文
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2003/06/22(日)
SS・ミスフルパラレル]パラレル・ライフ。


 パラレル・ライフ。
    〜たとえばどこかの世界であったかもしれない話。〜





『二人の魔法剣士』




「ごめんなー、こんなことに巻き込んで」

 今の天国に尻尾があったらまず間違いなく元気なくしなだれていたに違いない。
 そんな表情で、天国はぽつりとそう口にしていた。
 いつも快活な表情ばかり浮かべているその顔は、疲れと申し訳なさとでどこか頼りなげに見える。
 その隣りに座っているのは、天国のいつもの仲間ではなかった。

「だーから、気にすんなって言ってるっしょー?」

 すっかりしょげきっている天国に苦笑しつつ、その肩をぽんぽんと叩いているのは。
 天国よりか頭半分ほど高い背丈、胸元を覆うアーマーは灰色、左腕と両足の脛の部分にも同じ色のアーマー、背を覆うマントの色は濃い紫、と行った出で立ちの人物。
 その腰にある剣は、天国の物と似通った大きさで。
 その人物は天国と同じ、魔法剣士の御柳芭唐、なる人物だった。




 そもそも二人が出会ったのは数時間前。
 とある宿場街で、だった。
 二日ほど前に街に着いた天国は、久々に晴れたのも手伝って(それまではずっと雨だったのだ)街に繰り出していた。
 初めての街は、それだけで天国にとって冒険の場所にも似たようなものだ。
 何があるのか、どんな人がいるのか、ただ歩くだけでも楽しくて仕方がない。
 そんな所が子供なのだと仲間うちには言われたりするが、楽しいことは楽しいのだ。

 そんなこんなで、今回も今回とて天国は何をするでもなく街をうろついていた。
 いつもなら誰かしら一緒だったりするのだが、それぞれ所用があるようだったので珍しく一人で。
 街中を歩き回るのに、重装備はしない。
 財布と、いつも持ち歩いている短剣を腰にさしただけの格好。
 それらが、少しずつ絡み合って、事に至った。
 事件の発端なんて、些細なことが多いのだ。

 ああ、やっばいなー。
 そう思ったのは、少し薄暗い路地に入り込んでしまってから。
 ひたひたと、後ろを尾けてくる足音に、思わず溜め息が洩れる。
 一つじゃない。
 これでも一人で旅をしていたことだってある。
 人の気配ぐらい感じ取れないようじゃ、生き残ってなんてこれない。

 それはともかくとして。
 尾けてくる足音を数えながら、天国はどうしようかと考えていた。
 目を付けられた理由は、軽装だったことと、一人でいたこと。
 おそらくはそんな所だろう。
 冒険者だと分かっていれば、みだりに絡んでくる輩は少ない。
 ヘタに絡んで、痛い目を見るのは火を見るより明らかだからだ。

 やっぱ子津っちゅ辺りにちゃんと付き合ってもらうべきだったかな。
 今更思っても仕方のないことを考えながら、天国は歩く速度を緩めた。
 足音が、前からも聞こえてきたからだ。
 地の利は、向こうにある。
 ヘタに動き回って、追い込まれるというのは避けたかった。

「うーん……先手必勝、行くかな」

 親指の腹を唇に当てて。
 少し考え込むように首を傾げた天国がそう呟いたのと、走り出したのはほぼ同時のタイミングだった。
 既に天国を取り囲みつつあった気配が、予期せぬ行動に同様したのが分かる。

 けっ、だーれが馬鹿正直に相手してやるかってーの。

 べ、と舌を出しながら走る。
 前方からおそらく仲間なのであろう男が走り出てきたが、当身を食らわせた。
 男はそれであっけなく地面に倒れ伏した。
 基本的な護身術しか習っていない天国だが、それでもそこらのチンピラもどきに負けるような腕じゃない。
 それで何故逃げの一手に伏しているのかと言えば、面倒だったからだ。

 こういうのは手数だけは異様に多いのがセオリーだ。
 それにいちいち相手をしていたのでは、きりがない。
 そう考えての、天国の行動だった。


 そこまでは、良かったのだ。
 適当に走りきって、大通りにでも出て撒こう。
 そんなことを考えていたその矢先。

「うどわぁぁ?!」

「っ、なんだ、よ?!」

 細い角を曲がったところで、天国は何かに正面衝突した。
 裏路地のせいか、天国が走っていた通りは道が細い。
 二人並んで歩ければいい、という程度の幅しかない。
 だから、人とすれ違うには互いが端に寄るようにしなければ、ぶつかってしまうのだ。
 が。
 全力疾走中の天国が、わざわざ道の端に寄っているはずもなく。

 またぶつかった相手も。
 こんな道を全力疾走してくる酔狂な人物がいようとは、微塵も予想していなかったに違いない。

 よって、結果は。
 正面衝突、のち二人とも盛大に転んだのである。

「いって〜…って、わ、悪いっ」

「いや、つーか何やって……?」

「げ、追いつかれる…っ」

 思い切り衝突したせいで何が何やらよく分からない。
 一瞬呆けていた天国だが、誰かにぶつかったらしいと判断してとりあえず謝った。
 相手は、そう怒った風でもなく返してくる。
 その口調からして、怪我などはないようだった。
 それに安堵する間もなく、背後からの足音に天国は顔を強張らせた。


 ああ、相手するっきゃねえのか。
 面倒くせぇ。
 思いながら、ぐっと拳を握る。
 それでも負ける気なんて毛頭なかったのだけれど。
 背後を睨んで、立ちあがったところで。

「あー、なるほどね」

「ちょ、何……ッ」

 衝突した男に、腕を掴まれた。
 ぐ、と思わぬ強い力に眉を寄せる。
 そこで初めて、天国は男をまっすぐに見据えた。
 少しだるそうな、けれど強い目。
 男は、冒険者、だった。

「2、3人伸してから、走るぞ」

「わ、かった」

 てーか、俺も冒険者なんだけど。
 自分を押しのけて前へ出た背中に、それを告げることができたのは。
 街外れの森に駆けこんで一息ついた、その時だった。



 雨に降られたのは、それからすぐだ。

 そうして話は、冒頭に戻る。






 追手(というかまぁ絡んできたのは向こうからだが)を撒けたのを確認した天国は、芭唐と名乗った男に街へ戻ろうと促したのだが。
 芭唐はそれに、首を振った。
 曰く、ああいう手合いは存外シツコイもんだから、せめて夜になるまで待った方がいい、とのことだった。

 まぁまだ何日かこの街に滞在する予定だったし、一晩くらい帰らなくても心配するような年でもない。(実際開けたこともある、それは天国に限ってのことではなかったが)
 それはいいとして。
 天国はどうにも、芭唐に申し訳が立たなかった。
 まったくの無関係、初対面の人間なのに。
 風貌から察するに、街に着いてそう間はなかったのだろう。
 これからゆっくり休むか、息抜きするか、とにかくその時間を奪ってしまった。

 それは否応なく天国の罪悪感をかきたてた。
 無論、芭唐は言葉通りまったく気にしてはいない。
 けれど、だからこそ。
 無茶苦茶やっているようでいて他人の感情の機微には聡い天国には、それがどうにもいたたまれなかった。
 いっそ責めて、怒りをぶつけてくれればいいのになぁ。

「お、雨か」

「へっ? うわ、本当だよ……」

 木々に遮られて、雨粒はそう多くは二人に届かないものの。
 朝起きた時には雲一つなく晴れ渡っていた空が、俄かにグレーに染まってきていた。
 ああ、ますますいたたまれねぇ。

「まーた妙な事考えてるっしょ、天国」

「う、いや、だってよぉ……」

「気ーにーすーんーなってーの」

「……気にするに決まってんじゃんか」

「いいから、もちっとでかい木探そうぜ」

 しょぼーん、という音が聞こえてきそうな天国の腕を引き、芭唐は歩き出す。
 その手のひらは、これまでを物語るかのように固かった。
 俺より少し……長い、かな?
 掴まれていない方の手のひらをぐ、と握り込みそんなことを考える。

「お前、魔法剣士?」

「そ。お前も、っしょ?」

「やっぱ、分かるか」

「なんとなくなー」

 そう、なんとなく。
 同種は、分かるのだ。
 匂いというか、気配というか、で。
 きっと、最初に会った時から。
 一目見たその時に、気付いたのだ。
 だから芭唐は、面倒ごとに首を突っ込んだ。
 俺も。
 俺でも、きっと、そうした。

「なんか、さ」

「んん?」

「俺とお前、似てる?」

「……さぁな。これから話せば、分かるっしょ」

 そう言って、少しだけ顔を天国へ向けた芭唐の口元には。
 楽しげな笑みが、張り付いていた。
 それを目にしてようやく、天国もふっと笑う。

 ああ、そうだ。
 まだ時間はあるし。
 雨降って動けねえし。

 ゆっくり、話そう。


 END








RPGパラレル、天国と芭唐出会い編。
この二人、別にパーティー組んだりしませんよ?
とりあえず知り合いになるだけv
これからの原作の展開によっちゃ華武・十二支合同パーティーなんてのもあるかもだけど。
ってか相変わらず芭猿ちっくだよな。
だって楽しいんだもーん★
てか日記書いてねぇなぁ、最近。
ま、いっか。