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日々徒然ときどきSS、のち散文
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2003/05/31(土)
[SS・ミスフル]すいーと・すうぃーと(芭猿)



 嗜好ってのは、変わるもんなんだろうか。






   
すいーと・すうぃーと





「……なんか俺、好み変わったかも」


 天国が唐突にそう口にしたのは、某有名銀座洋菓子店のケーキを口にしている時だった。
 ちなみに天国が食べているのは、ミルフィーユ。

 フォークを使って、ではなく底面の紙を手で持ってそのまま噛り付いている。
 お世辞にも行儀が良いとは言えないが、それを注意するような人間はこの場にいない。
 今天国と同じ空間にいる人物と言えば、御柳芭唐その人、一人だけだから。

 天国の斜め前にいる御柳が口に運んでいるのは、フルーツゼリー(青リンゴ味)だ。
 こちらはさすがに素手では無理なので、スプーンを使って食べている。
 見た目に涼しげなパステルグリーンを見て天国は、そっちにすりゃ良かったかも〜、と肩を落とした。


「何お前、食いきれねぇの?」

「ん〜、そういうわけじゃねえけど…」

 問われ、天国は言葉を濁し。
 半分ほどになったミルフィーユに視線を落とした。
 生クリームと薄いパイ生地の層が重なったそれ。
 ふんわり柔らかなそれは、少しばかり値が張るので時々しか買えずに。
 けれどその時々食べられるのが凄く嬉しくて、お気に入りだった。

「……はずなんだけどなぁ」

「何がだよ」

「いや、昔は喜んで食べてたのにな〜、と思ってさ」

「電波で会話すんなっつの。で?」

「で、って何」

「食いきれねえのかって聞いてんだよ」

「…………うん」

 盛大に沈黙してから、けれど天国は素直に頷いた。
 結局どう誤魔化そうと無駄だと思ったからだ。
 これ以上食べると気持ち悪くなるのは、目に見えていた。
 すでに胸焼け寸前で、ここまでも多少なりとも我慢をしていたから。
 無理して食べて体調を崩しても面白くない。


 こく、と頷いた天国に、御柳はどうしようもねえな、とばかりに溜め息を吐いて。
 食べていたゼリーにスプーンを突き刺し、ずいと天国に差し出した。
 天国はきょとん、とそれを見る。

「交換してやるつってんの。丁度俺も半分ぐらい食ったとこだったし」

「え、でもお前あんま甘いの好きじゃねえんだろ?」

「別に食えねえわけじゃねえし」

 ん、と目の前に出してやれば、躊躇いながらも天国はそれを受け取った。
 交換に御柳の手に乗せられるのは、半分になったミルフィーユ。
 渡されたそれに噛り付けば、途端に口の中に甘さが広がった。

「あま」

「…だから言ったじゃねえか」

「甘いっつっただけでそれが悪いとは言ってねえっしょ」

「そういう言い方が既に責められてる気ぃすんだけど」

 じとっと御柳に恨みがましい視線を向ける天国だが、交換されたゼリーがお気に召したらしい。
 一口食べて、ぱぁっと嬉しそうな表情になった。
 分かりやすい奴、と思わず御柳は失笑する。


「みやくんはー? それ、食えそっか?」

「ん、まぁ大丈夫っぽい」

「そか。さんきゅな」

「……礼を言うなら態度で示してもらいてーんだけどな」

「何だよ? もちっとハッキリ喋ってくんね?」


 口の中で呟いた言葉は、天国には届かなかったらしい。
 けれど何事かを言っているのを聞き咎めた天国は、ゼリー片手に首を傾げながら問うてくる。
 それになんでもねえよ、と答えようとして、けれど。
 御柳は天国に気付かれないように口元を歪めた。

 ちょいちょい、と人差し指で天国を自分の方へ呼ぶ。
 天国はそれに不審そうに眉を寄せながら、しかし素直にそれに従ってしまう。
 天然と言うか、単純というか。
 間違いなく仕掛けられた罠にはしっかり嵌ってしまうタイプだ。

 万事がこの調子だから、油断なんねーんだよなー…
 御柳の内心での呟きを、天国が知る由もなく。

「……? 何だって…」

「こっちのが甘いだろ」

「ッ!」

 ぐい、と腕を引かれて。
 やられた、と思った時にはもう遅いのが世の常だったり。
 逃れられないのは今までの経験上学習済みだったので、手にしたゼリーを零さない方に意識をやった。

 重ねられた唇は、甘かった。


「い、きなり引っ張んなっての! 零すとこだったぞっ」

「へえ? じゃ、予告してからならいいんだな?」

「揚げ足取ってんじゃねー!!」

「人の好みってのは変わるもんだよな」

「なんだよ、いきなり」

「俺、甘いの別に好きじゃねんだけど。これってもう中毒だし」

「っむ」

 これ、と言いながらまた唇が重なる。
 軽くついばむような触れ方はくすぐったくて、思わず身を竦めた。

「……ケーキより全然甘ぇじゃん」

「だろ?」

「でも、俺も好きかも」

「疑問系じゃなくて、断定にしろよ、そこは」

 呆れたように言う御柳に、天国は舌を覗かせることで答えて。
 手にしたスプーンで、ゼリーを口の中に放り込んだのだった。
 決して甘くはない、とは言い切れないそれが。
 なんだかやけに涼しげに思えた。



◇END◇






わーお。
甘いな、これまた。
どないしてん自分。
題名は英字に直すとsuite・sweetです。

作中出てきた"某有名銀座洋菓子店"は言わずと知れたコー●コーナーです。
15%OFFだかをやっててお母が買ってきたのです。
ついでにミルフィーユを食うて気分悪くしたアホは勿論金沢本人でございます(爆)

……しかしこれ、二人で買いに行ったんだろうか。
多分そうだろうな。
高校一年生男子二人づれでコー●コーナー……凄い絵だ(笑)
買い物風景も書いてみた(強制終了)

ていうかここじゃなくてNOVELSにUPしてやれよ……
いやしかしここは突発なんで。
日記小ネタは全てそうですけれども。
ああ、移動させなきゃなー(言ってるだけやないけ)