日々徒然ときどきSS、のち散文
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2003/03/23(日)
SS・ミスフルパラレル]パラレル・ライフ。


 パラレル・ライフ。
    〜たとえばどこかの世界であったかもしれない話。〜






「な〜。俺、武器屋か鍛冶屋行きてーんだけど」


 唐突に切り出したのは、天国だ。

「武器屋っすか?」
「うん。鍛冶屋でもいいんだけどさ」
 天国の言葉に答えたのは、薬草の整理をしていた子津だ。
 わざわざそれを中断し、天国の傍に寄ってくる。
 ああ、やっぱり子津っちゅはいい奴だ、と天国は思ってみたりなんかして。
 天国は愛用の剣を鞘から抜くと、子津に見せた。
 剣を使わない子津は、それでも天国の剣を覗き見てくれる。

「結構長く使ってっからさ、細かい刃こぼれとか多いんだよな。戦闘中に折れたりしたら洒落なんないじゃん?」
「猿野君、前線出てるっすからね……」
「手入れはちゃんとしてんだけどなー…」
 眉を寄せながら、天国は刃の部分を指先で撫でた。
 銀色のそれは、確かに天国の言う通り細かな刃こぼれが見て取れる。
 磨かれたそこには、覗き込む天国と子津の顔が写っていた。


「剣はどうしても痛みが出ちゃうもんだもんね〜」
 ひょこっと顔を出して会話に加わるのは、兎丸。
「そういや杖とかってどうなんだ? 買い換えとかしねえの?」
 杖使用な子津と兎丸に、天国はふと疑問に思って聞いてみた。
 直接敵と接することのないそれだが、長く使っていればやはり痛みも出てくるだろうと思うのだが。
「そうっすね、僕は痛みが激しくなったらって感じっす」
「僕もかな〜。あ、でも杖の先端の宝石あるでしょ? あれが割れたら即換えないと駄目なんだ」
「へ〜え」


「魔法石というのを聞いたことはないんですか、猿野君は?」
「お? 帰ってきたのか、おかえり〜…ってか魔法石って何だ?」
 聞いた事のない言葉に、天国はきょとんと首を傾げる。
 天国の言葉に、子津、兎丸、辰羅川の三人は顔を見合わせて苦笑した。
「魔法石ってのは魔力を増幅させる効果があるんっすよ」
「そうそう、あと魔力のコントロールをしたりとかね」
「……あった方がいいもんだってのは分かった」
「分かってないですね、この人は」
 呆れたような辰羅川の言葉に天国は眉を寄せ、けれど否定のしようがなかったので黙り込んだ。

「辰羅川君、何か掘り出し物あったっすか?」
「ええ、絶版になった本が見つかりましてね。それを購入してきた所ですよ」
 辰羅川は買い物に行っていたらしい。
 その手に分厚い本が収まっているのを見た天国は、よく読むな〜と苦笑した。
「ところで猿野君。剣がどうかしたのですか?」
 皆で剣を覗きこんでいるのに、辰羅川がそう尋ねる。


「武器屋か鍛冶屋に行きたいそうだ、バカ猿は」

「わ! 犬飼君、起きてたの? びっくりした〜」
「あれだけ騒げば、俺でなくても起きる」
 窓際で椅子に座って目を閉じていた犬飼が、会話に加わった。
 眠そうな目で、犬飼が皆の輪に近寄ってくる。
「っつかお前寝過ぎじゃね? それ以上背伸ばしてどーすんだよ」
「猿野君、別に犬飼君はそういう理由で寝てるわけじゃないと思うっす……」
「まあ寝過ぎってのは否定できないと思うけどね〜」
 あははは、と笑う兎丸に犬飼は一瞬眉を寄せたものの。
 別段何も言わずに(面倒になったものと思われる)、欠伸を一つしたに留めた。

「ああ、確かにこれは刃こぼれが酷いですね。使い込んでますからねえ」
 天国の手にある剣を覗き込み、辰羅川は頷く。
 興味なさげに自分も覗き込んだ犬飼は、これ見よがしに肩を竦めて溜め息を吐いた。
「無駄に前出過ぎなんだ、お前は」
「何〜?! 俺は防御力高いから前に出てんだよ!!」
「早さは普通のくせに」
「ぐっ……、んなこと言って、力はあっても防御力低い奴に言われたって、負け惜しみとしか聞こえねーけど?」
「クリティカル出せ、もう少しぐらい」
「人のこと言えた義理じゃねーだろ、お前!」

 犬飼と天国の言い争い、とも言えないほどの低レベルな諍いは今に始まった事ではない。
 ことあるごとに起こるそれに、残りのメンバーはそう焦った様子も見せなかった。
 どちらかと言えば、諦めと呆れが混ざっているというか。
「ああ、また始まっちゃったっす〜……」
「毎回毎回よく飽きないよね〜」
「しかし早めに止めなければ、宿を追い出されるということにもなりかねませんよ」
「…………」
「司馬君?」
 それまで会話に加わっていなかった司馬が、横合いから前に出て。


「…………」
 司馬は、言い争う二人を横目に天国の剣を覗き込んだ。
 それに気付いた二人は、思わず司馬の動向を見守って口をつぐんでしまう。
「司馬?」
 しばらく、司馬は天国の剣を見つめたり指先で触れたりしていたが。
 やがて顔を上げると、天国にジッと視線を送った。
「何、鍛冶屋付き合ってくれんの? マジで?」
 数瞬置いて司馬の意図を解した天国が、表情を明るくする。
 司馬は天国の言葉に、こくりと小さく頷いて。
 それから、壁に立てかけてある自分の剣を指差した。
 天国のそれよりも刃の幅の広いそれはなかなかに重く、司馬の剣士としての実力の高さを物語っていた。

「ああ、司馬君、握りの部分直したいって言ってたもんね、そういえば」
 ぽん、と手を打ち兎丸が言う。
「そか。んじゃ、行くかっ」
 剣を鞘に収め、天国が立ち上がった。
 上着を羽織って、財布を確かめて。
「猿野君、帰り遅くなるっすかね?」
「ん〜…程度にもよると思うけどな。なんでだ?」
「あんまり遅くなるようなら夕飯別にした方がいいかと思うんすけど……」
「あ〜、んじゃ、別にすっか。俺ら外で適当に食ってくるな」
 いいよな、司馬? と確認すると司馬はこくりと頷く。


「じゃ、行ってくるな〜」
「行ってらっしゃ〜い」
「気をつけてくださいっす」
「くれぐれも無駄遣いしないでくださいよ」
「…………」

 立ち上がり、ドアへ向かって。
 ドアの目の前に来た時ふと、天国が立ち止まって振り返った。
「猿野君? どうかしたっすか?」
「ワンコロ、お前は来ねーの?」
「……何で俺だ」
 唐突に話題を振られ軽く目を見張りながら犬飼は問う。
「だってお前、新しいクローが見たいっつってなかったっけ?」
 天国の、何気なく振った言葉に。
 ふっと、場の空気が和んだようだった。
 例え喧嘩が多くとも、仲間は仲間で。
 こういう気遣いが出来るから、天国の周りは人が絶えないのかもしれない。

 子津と兎丸が顔を見合わせ笑い。
 犬飼が困ったように辰羅川に視線を向けると、辰羅川は子供を送り出すように無言で上着を差し出した。
「辰……」
「行ってきたらどうですか、犬飼君」
「そうだよ〜。犬飼君一人で行ったら大変じゃん」


「うっし、行こうぜ〜」

 犬飼の返事もまたず、天国はドアを開けた。

 夜の帳が下りる街、三人で雑踏に足を踏み入れて。

 さあ、出かけよう。

 冒険はこれからだ。



★END★



yumiちゃん(実名出しちゃ駄目だったっすか?!)とメッセで盛り上がってしまった、ミスフルRPGパラレルです。
なんか中途半端に始まりますが、そこは勢いで書いたのでお気になさらず。

職業紹介をいたしますと、
 勇者・猿野天国
 魔法使い・兎丸比乃
 僧侶・子津忠之介
 武道家・犬飼冥
 剣士・司馬葵
 賢者・辰羅川信二
という感じになりまする。
世界観的にはドラクエやらFFやらFQやらその他諸々が混ざった感じで。つっても雰囲気だけですが(爆)


わー長っ。
一部分なのに、これでも!!(爆)
つか楽し過ぎです(笑)
あーもー癖になりそうですv
そんな感じで、これはyumiしゃんに捧げるべく書かせていただきました。
メッセありがとですーv(ってここ見てなかったらどないすんねん…)