日々徒然ときどきSS、のち散文
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2002/07/12(金)
SS・ワンピ]イメェジ。(サンル)



「これ、ゾロっぽいよな」

 我らが船長、一億ベリーの賞金首ことモンキー・D・ルフィ。

 その発言はいつも唐突だ。



   
イメェジ。



 これ、と言いながらルフィが手にしたのは所謂竹、と呼ばれる植物だ。
 何故こんな所に竹があるのかというと、先日の七夕の日に笹を探しに行ったルフィが笹ではなく竹を獲ってきたからである。それも大量に。
 ちなみに笹は結局ウソップとゾロが改めて獲りにいき七夕は滞りなく終わった。
 結局大半は廃棄処分になったが、中に一輪差しにするのに丁度いいほどのサイズのものも混じっていて。(何故ルフィがそんなサイズの物まで獲ってきたかは…ルフィがルフィだから、としか言えないだろう)
 それは今、キッチンのテーブルの上に置かれていた。
 端の欠けてしまったコップに水が注がれ、その中に入れられた竹。どことなく涼しげなそれをまじまじ見ていたルフィが、唐突に口にした言葉が冒頭の言葉である。

「あー、言われてみればそうかもね。和なカンジ」
 微苦笑しつつ頷くのはナミだ。
 言いながら竹を指先で弾いている。
「ねえ、じゃあルフィ、私は?」
「何がだ?」
「今のゾロみたく、植物とかに例えるなら、何?」
 言われたルフィはきょとんとしていたが、考え込むように眉を寄せて首をかしげた。
 う〜〜ん、と唸る声までする。
「あ、みかんだ!」
「みかんは果物だろ、ルフィ」
 突っ込むのはウソップだ。流石この船のツッコミ専門職。
「そーなんか? でもいーじゃん、ナミっぽいだろ?」
 けろりと言い放ち、ししししっと笑う。
「そうねえ…ま、アンタにしては上出来ってとこじゃない?」
 言い放つナミの顔は、言葉とは裏腹に嬉しそうだった。

「なあルフィ、じゃあ俺は?」
「サボテン」
「即答かよ! しかもサボテンってなんだよ!」
 ずびし、と音がする。
 ウソップがルフィにツッコミパンチを決めた音だ。
「いいじゃんサボテン。強そうで」
「そういうこと言ってんじゃ……」
「サボテンはな、強いんだ。砂漠でも生きられる逞しさを持ってる。棘は痛いけど、花はキレイなんだぞ」
 うんうん、と一人頷きながらルフィは言う。
「って、ビビに聞いた」
「人づてかいっ!」
 その言葉に感動しかけていたウソップが、もう一度、今度はさきほどよりも些か強くツッコミパンチをルフィに決めた。

「なあなあルフィ、俺は?」
 ひょこっと顔を出すのはチョッパーだ。
 テーブルではなくキッチンの角、窓の下辺りで本を読んでいたのだが、会話に参戦する気になったらしい。
「桜だろ、うん」
「さくら…そっか、桜かぁ、へへへへ…」
 いつもなら褒め言葉を貰おうものなら、言葉では嬉しくないと虚勢を張り顔や態度では嬉しくて堪らないと現すのがチョッパーなのだが。
 今回は素直にルフィの言葉に嬉しげな言葉を洩らした。
 それを見たナミがあら珍しい、と言いたげに片眉を上げた。
「ま、妥当な線じゃねえか?」
 嬉々とするチョッパーを見ながら満更でもなさそうな声をかけるのはウソップだ。
「ドクターの見た桜…俺もいつか見れるかな〜」
「グランドライン一周すりゃ、いつか見れるさ」
「そっか、そうだな!」
「俺も楽しみだ〜。その時はまた宴会だ、な!」
「メシ食いてーだけだろ、お前」
「いーじゃんか、花見っつったらご馳走だろ!」
 ここでいやお前それ間違った認識だから、とツッコム人間はいなかった。
 ともかく、楽しめればいいのだ。
 それが基本で、一番大切なこと。
 他の船でどんなルールがあるのかは知らないが、この船においてはともかくそれが基本的なルール。

「んじゃよ、ルフィ……ロビンは?」
 問うウソップの声に一瞬間があった。
 その後の声に、どこか笑いをこらえているような気配がある。
 一人会話に参加せずに昼食を作っていたサンジの肩が、ぴくりと強張るように微かに震えた。
「んー…ガーべラ」
 ぴしり、と場の空気が固まった音が聞こえた気がした。
「ガーべラっ?!」
「ガーべラって、あのガーべラよね?」
「あ?」
「ちょっとちょっとちょっとぉ? なんでルフィがガーべラなんて洒落た花知ってるわけ?」
「知るか、それこそ俺が聞きてーって!」
「おい?」
 言い合うナミとウソップを、ルフィは不審そうな顔で見つめる。
「なんでガーべラなんだ?」
「なんとなく。花びら多いし」
「俺、図鑑でしか見たことない」
「そりゃチョッパーの住んでた島は常冬だもんな〜。でもこれから見れるさ、そりゃもういやっちゅーほど色々な!」
 笑顔でなんだか春の空気を撒き散らしながら会話をするルフィ&チョッパータッグ。
 天然王様気質と真の天然は最強だ。

「サンジはな、タンポポだな」
 誰に聞かれてもいないのに、ルフィがそう口にした。
「タンポポ? サンジ君ならもっとゴージャスなイメージじゃない、ルフィ?」
 訝しげに問うのはナミだ。
 話題の中心のサンジは、相変わらず背を向けたままで。
 ちらりとその背中を見やったナミは、肩を竦めて見せた。
 どうあっても会話に参加する気はないらしい。
 会話が耳に入っていないはずはないのに。その背中からは、バッチリ気になってます、というオーラが発せられているのに。
 意地っぱりばっかり、とナミが内心で呟いたのは、誰も知らない。
「ゴージャスなイメージって言われてもなぁ…俺、そんなに花に詳しいワケじゃねーし」
「いやでも、タンポポはな〜。俺も何か違う気すっけど」
 ウソップにも否定され、ルフィは困ったように頭をかいた。

「だぁってさ〜」
「オラ、本日のランチタイムだ」
 何か言いかけたルフィを遮るようにして、テーブルの上にどん、と料理の盛られた皿が置かれた。
 ……いつもに比べて、少しだけ乱暴に。
 それに気付いたのはテーブルサイドにいた何人だったか。
「ナミ、ロビン呼んで来いよ。俺たち女部屋は入れねーし」
「そうね、行ってくるわ」
「俺はチョッパーとゾロ起こしに行ってくら」
「頑張ってあの寝太郎を起こしてちょうだい」
「ラジャっ! てなワケで行くぞチョッパー! 出動だ!」
 ナミとウソップ、二人で口を挟む間もなく会話を成立させて。
 ウソップは何が起こったのか分からない顔をしているチョッパーを引っ掴み、ナミはいつも通りの足取りでキッチンを後にした。
 取り残される形になったのは、船長と料理人の二人。
「なんだよ、早く食いたいのに〜」
 食い意地の張っているルフィだが、食事のルールは心得ている。
 この船でのルール、それは皆が揃って「いただきます」を言うこと。まぁルフィの場合つまみ食いやら盗み食いやらがあるので前科持ちの異名を免れないが。

「まーだかな〜」
「オイ」
「ん?」
「俺のどこがタンポポなんだ?」
 どことなく憮然とした口調になるのは否めない。
 けれど問われたルフィはへへへへ〜と笑い。
 内緒話を誘うかの如く、ちょいちょいとサンジを手招いた。
 誘われたままサンジが身をかがめてやると、ルフィが耳元に口を寄せてきた。
 内緒話というのはどことなく特別だよな、とふと思う。
 他の誰に聞かせることもなく、身を寄せ合って囁き合うその仕草は余程親密でなければできないだろう。
 今は誰もいないけれど、人前での内緒話は少しだけ優越感に浸ることができたりもして。
「タンポポの金色は、太陽の色だからなっ」
 そうして告げられた言葉に、サンジは軽く目を見張った。
 まったくコイツは……人のツボを心得てやがんな。
 無意識だろうことは分かっているのに、口元が緩むのを押さえきれない。
 サンジはルフィの後頭部に手を添えて、ルフィがしたのと同じようにその耳元に唇を寄せた。
 かかる吐息がくすぐったいのだろう、ルフィがわずかにみじろぐ。
「お前は、向日葵だな」
「なんでだ?」
 首を傾げるルフィに、サンジはニヤリと笑い。

「太陽の花だから」






◆言い訳◆
 あ〜つ〜い〜よ〜。
イメージカラーの話にするはずが、何故かイメージフラワーの話になってました。大笑い。
これも夏の暑さという魔物がもたらした不思議な力なのね…(遠い目)
ルフィがどうしてガーべラを知ってたのかは、私にも謎(爆